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セブンスディス王国の王都と比べても遜色がないほど栄えている都市があった。
王都ほどの賑わいを見せるその都市は、商業都市シュミーゼ。スリーズ侯爵家が治める領地の主要都市だ。
そんな商業都市の中心街は、様々な店が売り上げを競い合い、日々様々な物が売られ、そしてそれを買うために沢山の人々が商業都市を訪れていた。
商業都市シュミーゼにある、どこにでもあるような魔法薬店に一人の少女が慣れた様子で入っていった。
「こ……こんにちは。マーラカさん……。魔法薬の買取をお願いしたくて……」
店に入ってきた背の低い十五、六歳くらいの少女は、そう言って店内を見回した後、誰もいないことに小さくため息を吐く。
しかし、そんな少女の背後の扉が開き、一人の男が大きな声で言ったのだ。
「よぉお!! トレアちゃん。魔法薬の買取だな? 助かるぜ~。ボ……じゃなくて、お得意さんから、入荷はまだか~って、せっつかれてさ。ああ、これで、ボ……じゃなくて、お得意さんにグチグチ言われなくて済みそうだぜ!」
そう言って、豪快に笑ったのは、この魔法薬店の店主をしているマーラカという男だ。
マーラカは、小麦色の肌とツルツルと光り輝くスキンヘッドが特徴の大男だった。
よく見ると男らしい端正な顔をしているが、口の悪さが全てを台無しにしていることを本人は知らない。
後ろから大きな声で話しかけられた少女は小さく飛び上がり、涙目になりがら背後のマーラカを見上げる。
「マーラカさん……」
「くっぅぅ。トレアちゃん……、駄目だぜ。そんな顔して男を見上げるもんじゃねぇよ……」
トレアと呼ばれた少女は、小柄で小動物的な愛らしさをしていた。雪のように白い髪は、毛先だけが薄桃色をしていた。大きく丸いエメラルドグリーンの瞳は、見る者の庇護欲を誘う。
しかし、どことなく少年のような中性的な雰囲気を醸し出していた。
トレアは、マーラカに言われたことの意味が分からずに小さく小首をかしげるも、その姿も可愛らしいものだったため、マーラカは湧き上がる庇護欲を抑えられそうになかった。
頭に思い浮かぶ限りの、トレアに思いを寄せる街の男どもからトレアを守る方法を考えながらも、豪快に笑って見せる。
「うんにゃ、何でもねぇ。で、今日の魔法薬は?」
「えっと、いつもの疲労回復薬と万能飲み薬。それと……」
そう言って、最後に言いづらそうにマーラカの艶々に輝く頭頂部をちらりと見て視線を逸らすのだ。
それに気が付いたマーラカは、涙目でトレアの肩を掴んで前後に揺さぶる。
「違うから!! マジのマジで、これは剃ってるやつだから!! 自分の意志で剃ってるやつだから!!」
「は……はい……」
「ちょっと?! まってまってまって!! 本気で違うから、違うから~~~~」
「大丈夫ですよ。分かってます。大丈夫です」
そう言いながら、濃い緑のどろりとした液体の入った小瓶を二つバッグから取り出す。
それを見たマーラカは、首を傾げた。
「あれ? 注文の薬は一つだったはず?」
「はい。一つは、マーラカさんにと思って……」
「そっか……って、ちょ、まっ! 俺っちのはハゲじゃないから!! 本当に本当はふさふさ艶々の黒髪なんだよ?! でも、髪を伸ばせない事情があってだな!」
「はい。その事情は分かります。ですから、大丈夫です。薬の効果はぼくが保証します。マーラカさんがいいと思うタイミングで使ってください。これは、ぼくから、いつもよくしてくれるマーラカさんへのプレゼントです」
そう言って、にっこりと微笑むトレアの可愛い顔に、一瞬デレっとしてしまうマーラカだったが、天を仰いで心の中で嘆くのだ。
(うおぉぉぉ!! ジュトレイゼの旦那ぁ!! 恨むぜ、恨むぜ、恨んでやるぜ! なんで、諜報員は髪を伸ばしてはいけないんだ!! 糞がぁぁ!!!)
王都ほどの賑わいを見せるその都市は、商業都市シュミーゼ。スリーズ侯爵家が治める領地の主要都市だ。
そんな商業都市の中心街は、様々な店が売り上げを競い合い、日々様々な物が売られ、そしてそれを買うために沢山の人々が商業都市を訪れていた。
商業都市シュミーゼにある、どこにでもあるような魔法薬店に一人の少女が慣れた様子で入っていった。
「こ……こんにちは。マーラカさん……。魔法薬の買取をお願いしたくて……」
店に入ってきた背の低い十五、六歳くらいの少女は、そう言って店内を見回した後、誰もいないことに小さくため息を吐く。
しかし、そんな少女の背後の扉が開き、一人の男が大きな声で言ったのだ。
「よぉお!! トレアちゃん。魔法薬の買取だな? 助かるぜ~。ボ……じゃなくて、お得意さんから、入荷はまだか~って、せっつかれてさ。ああ、これで、ボ……じゃなくて、お得意さんにグチグチ言われなくて済みそうだぜ!」
そう言って、豪快に笑ったのは、この魔法薬店の店主をしているマーラカという男だ。
マーラカは、小麦色の肌とツルツルと光り輝くスキンヘッドが特徴の大男だった。
よく見ると男らしい端正な顔をしているが、口の悪さが全てを台無しにしていることを本人は知らない。
後ろから大きな声で話しかけられた少女は小さく飛び上がり、涙目になりがら背後のマーラカを見上げる。
「マーラカさん……」
「くっぅぅ。トレアちゃん……、駄目だぜ。そんな顔して男を見上げるもんじゃねぇよ……」
トレアと呼ばれた少女は、小柄で小動物的な愛らしさをしていた。雪のように白い髪は、毛先だけが薄桃色をしていた。大きく丸いエメラルドグリーンの瞳は、見る者の庇護欲を誘う。
しかし、どことなく少年のような中性的な雰囲気を醸し出していた。
トレアは、マーラカに言われたことの意味が分からずに小さく小首をかしげるも、その姿も可愛らしいものだったため、マーラカは湧き上がる庇護欲を抑えられそうになかった。
頭に思い浮かぶ限りの、トレアに思いを寄せる街の男どもからトレアを守る方法を考えながらも、豪快に笑って見せる。
「うんにゃ、何でもねぇ。で、今日の魔法薬は?」
「えっと、いつもの疲労回復薬と万能飲み薬。それと……」
そう言って、最後に言いづらそうにマーラカの艶々に輝く頭頂部をちらりと見て視線を逸らすのだ。
それに気が付いたマーラカは、涙目でトレアの肩を掴んで前後に揺さぶる。
「違うから!! マジのマジで、これは剃ってるやつだから!! 自分の意志で剃ってるやつだから!!」
「は……はい……」
「ちょっと?! まってまってまって!! 本気で違うから、違うから~~~~」
「大丈夫ですよ。分かってます。大丈夫です」
そう言いながら、濃い緑のどろりとした液体の入った小瓶を二つバッグから取り出す。
それを見たマーラカは、首を傾げた。
「あれ? 注文の薬は一つだったはず?」
「はい。一つは、マーラカさんにと思って……」
「そっか……って、ちょ、まっ! 俺っちのはハゲじゃないから!! 本当に本当はふさふさ艶々の黒髪なんだよ?! でも、髪を伸ばせない事情があってだな!」
「はい。その事情は分かります。ですから、大丈夫です。薬の効果はぼくが保証します。マーラカさんがいいと思うタイミングで使ってください。これは、ぼくから、いつもよくしてくれるマーラカさんへのプレゼントです」
そう言って、にっこりと微笑むトレアの可愛い顔に、一瞬デレっとしてしまうマーラカだったが、天を仰いで心の中で嘆くのだ。
(うおぉぉぉ!! ジュトレイゼの旦那ぁ!! 恨むぜ、恨むぜ、恨んでやるぜ! なんで、諜報員は髪を伸ばしてはいけないんだ!! 糞がぁぁ!!!)
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