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出会い編

18 私の本音

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 「えっと……、ふっ二人のかっ、格好が、すごく……、よ、汚れ、汚れてた、から……。それで、あの、だから……」
 
 アーくんの弾丸のような質問の嵐に私は、頭が真っ白になっていた。喉の奥が痛くて、震えてしまう声を振り絞って、なんとか切れ切れにだったけど、お風呂を勧めた理由を話した。

 現実逃避だと自分でも分かっている。
 でも、あんなに一気に色々言われて、私は直ぐにキャパオーバーしてしまったんだよね。
 
 そんな私にいち早く気がついてくれたヴェインさんが、助け舟を出してくれた。
 
「まぁまぁ。落ち着いてな?よし、ちょっと座ろうか?」

 そう言って、私の背中を押してソファーに座るように促してくれた。私が大人しくソファーに座ると、ヴェインさんも私の隣に座ってくれた。
 自然と身を固くしていた私の肩をぐっと抱き寄せてから、優しく背中をぽんぽんって叩いてくれた。
 一定のリズムで、背中をぽんぽん叩かれていると、徐々に体中の力が抜けていった。

 それと同時に、突然異世界に召喚されて、たった一人、この森に飛ばされて、初めて生き物の命を奪ってしまって、一人きりで生活した日々が頭の中を駆け巡った。
 今まで気が付かないように、ただ楽しく暮らすんだと自分を偽っていたけど、人の暖かさに触れてしまった私は、もうその事実に目をそらすことは出来なかった。
 
「わっ、私!!全然知らない世界に召喚されて……、貰った力の影響でゴリラになって、千歌子ちゃんにここに飛ばされて、一人で本当は辛かった!!寂しかった!!怖かった!!誰かに助けてほしかった!!一人は寂しいよ!!怖いよ!!辛いよ!!」

 溜まりに溜まった思いがとうとう溢れてしまっていた。
 確かに、ここに飛ばされてから楽しいこともあった。だけど、本当は辛くて寂しくて、一人きりの静寂が怖かった。
 周囲を柵で囲っても、いつ恐ろしいモンスターが柵を壊して家に侵入してくるか分からなかった。
 私は、ここに来てから熟睡できたことなんて無かった。
 でも、昨日は久しぶりに朝まで眠っていた。夜中に目を覚ますこともなく、夢も見ずにだ。
 
 それは、ここには私以外にも人が居るという安心感からだ。
 見ず知らずの他人ではあったけど、それでも人が居るという事実が私に安心感をくれたんだ。
 
 自分の中に溜まっていた思いを口に出して、堰を切ったように泣き出した私に、ヴェインさんはただただ、優しく背中を叩いて声を掛けてくれた。
 
「そっか、よく一人で頑張ったな」

「大丈夫。これからは俺がいるよ」

「シズは偉いな。すごいよ。だけど、もう大丈夫だ。俺がいる。俺がずっと一緒にいるから。だからもう何も怖くない。な?」

「うっ、うん……。ヴェインさん、ありがとう……。ありがとうございます。本当は、一人で不安だった!夜が怖くて、平気なふりして強がって、貰った力で色々試して、見ないようにしてたけど、本当はすっごく怖かったの!!」

「ああ、ああ。シズはよく頑張ったな。だから、もう無理に頑張らなくても大丈夫だから」

 何も聞かずにただ私が欲しかった言葉を与えてくれる優しい人。大きくて温かくて、まだ出会って間もないのに安心できる人。
 この人は丸で……、―――みたいな人だ。
 感情の高ぶりからくる目眩からなのか、私の思考はぼんやりとしていった。
 だけど、相変わらずヴェインさんは私の背中を優しくぽんぽんと叩いてくれる安心するリズムに、私は気が付くとぐっすりと眠ってしまっていた。
 
 私が次に気がついた時、私は何か硬いものを枕にして眠っていた。
 いつも使っている、もふもふなふっくら枕とは真逆のカチカチの枕に疑問を覚えた。
 だって、私の記憶の中にはこんなにカチカチに硬い枕なんて作った覚えが微塵もないんだもん。
 横向きの態勢をうつ伏せに変えて、カチカチの枕に顔を埋めるようにして、その枕の匂いを嗅いだ。
 シトラス系の爽やかな匂いで、結構好きな匂いだけどこんな匂いの石鹸や洗剤、香料なんて全く覚えがない。
 まだ少し夢見心地の私は、何度もスンスンと硬い枕の匂いを嗅ぐ。
 だけど、その匂いについて全く心当たりがない。疑問に思っていると、枕がさっきよりも固くなっていることに気がついた。
 そして、その枕が私の体温とは違った熱を持っていることにも遅れて気がついた。
 ぼんやりとした頭で、さらにうつ伏せの状態だった姿勢を横向きに変えてから、今まで閉じたままだった目を開けた。
 目の前には、少し汚れた白い布が見えた。我が家に、こんな風に汚れた白い布があっただろうか?そんなことを考えながら、その布を触ってみた。
 その布に触ってみると、布の奥に温かさと硬さを感じた。何度もペタペタ触ってみると、それは枕と同等の熱さと硬さがあることに気がついた。
 未だに疑問が解決していない私は、無意識に疑問を口に出していた。
 
「うちに、こんなにカチカチなソファー?なんてあったかな?でも、仮にあったとして、ホットカーペットならぬ、ホットソファーを作る理由がわからない……?でも、カチカチ……。あれ?小刻みに震えだした?バイブ機能もあるなんてますます謎すぎる……」

 更に深まる謎に私は、今度は仰向けになるように態勢を変えてみて、自分がやらかした事に初めて気がついた。
 
 仰向けになった私は、頭上にあるトマトのように真っ赤な顔で口を一文字に結んで何かに耐えるような、そんな表情のヴェインさんとばっちりと目があってしまったのだから。
 
 そう、私はヴェインさんの膝枕で眠っていたという事実にようやく気がついたのだった。
 なんてことだ……、無意識だったとは言えヴェインさんの匂いを嗅いだ上にセクハラ紛いにお腹を触りまくってしまった。
 もう、恥ずかしくて死ぬるぅぅぅ……。
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