私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
8 / 17

第八話

しおりを挟む
 私の名前はファイ。
 駄目バイパーだ……。
 バイパーなのに、バイパーのことを何も知らない……。
 これは私が悪い。
 バイパーは数が少ない。
 その分、バイパーのコミュニティがあり、そこで色々なことを学ぶらしい。
 昔の私は他人の血が汚いもので絶対に飲むなんてありえないと考えていた。
 他人の血を飲むバイパーを嫌悪していたんだ。
 だから、コミュニティの存在は知っていてもそれに関わろうとはしなかった……。
 過去の私のバカ……。
 
 過去の自分を呪ってもどうしようもない。
 今は、クロスの股間をどうにかして、この何とも言えない空気を変えなくてはな。
 
 だが、どうしたら元に戻るんだこれ?
 じっと股間のモノを見つめて、過去に呼んだ書物を思い返す。
 
「ちょっ、そんな真面目な顔で見つめすぎなんだが。はぁ、僕が悪かった……。もう少し手順を踏むべきだったよ」

 そう言ったクロスは私の額にキスをした後立ち上がり応接室を出て行ってしまう。
 数分後、すっきりした表情で戻ってきたクロスは私の目を見て宣言する。
 
「ファイ。お前のこと好きになった。必ず落とすから覚悟しろな」

「えっ?」

「ははっ。まん丸な目ぇして、本当にかわいいな。初めて見た時、お前が欲しいって思ったのは勘違いじゃなかったみたいだ。悪いが僕には時間がないから、覚悟してくれよな」

 そう言って、クロスは私の唇にキスをした。
 普段の私だったら色々と気がつけたはずなのに、この時の私にはそんな余裕などなく、この見過ごしを悔いることになる。
 
 
 それから数週間。
 クロスとの甘すぎる生活が続いていた。
 
 クロスが現在十九歳ということは私の寿命は六年。
 六年間クロスとの甘い生活を守り切ることが出来れば、クロスを私から守り抜くことが出来るのだ。
 しかし、私の何がいいのか、クロスは私を事あるごとに誘惑してくるのだ。
 クロスのために食料を調達し、共に食事をするようになってから、少しずつ以前の体つきを取り戻していた。
 筋肉量はそこまで戻らないが、ガリガリの体からそれなりの体つきにはなっただろう。
 クロスは私の作る食事を美味しいと言って、残さずに食べてくれる。
 それが嬉しくて、過去の自分の趣味に感謝した。
 自分で食べる気もないが料理に没頭した時期があったのだ。
 もちろん作った料理はきちんと食べたさ。
 自分では美味しいとも不味いとも感じられなかったがな。
 
 だが今は、喉はからからに乾いているが、生まれて初めて食い物の味を感じていた。
 これが恋の力だとでもいうかのように、クロスは私に色々な感情を与えてくれた。
 嬉しい、寂しい、腹立たしい、悲しい……。
 
 共に暮らすようになってクロスのことを少しずつ知っていく。
 細いわりに大食いなところが好き。
 繊細に見えて大雑把なところが好き。
 豪快な笑い方が好き。
 寂しがり屋なところが好き。
 綺麗好きなところが好き。
 私に触れる指先が好き。
 毎日好きが増えてしまう。
 ああ、クロスを残して死ぬのは嫌だな……。
 
 いつしかそんなことを考えてしまう私がいた。
 だが、クロスの誘惑を受けると弱い私がそれを許さない。
 
「ファイ。おいで」

 そう言ってクロスは私を手招いた。
 クロスのしもべになってからの日課だ。
 夕食後、風呂に入る前の短い時間だ。
 ソファーに座るクロスに呼ばれた私は、慣れた様でクロスの足の間に座る。
 後ろから抱きしめながらクロスは私の匂いを嗅ぐのだ。
 
「ファイの匂い。好きだな。安心するし、興奮する」

「そうですか……」

「ああ。こうしてると生きてるって実感できるし、長生きできそうな気もする」

「何ですかそれ?」

「ははっ!」

 楽しそうな笑い声に私が表情を緩めていると、体の向きを変えられる。
 クロスの膝を跨ぐような格好に体勢を変えられた私の唇にクロスの唇が触れた。
 触れるだけの物から次第に激しい物へと変わっていく。
 どちらのものか分からない唾液を飲み込み、雄の顔になっているクロスのお願いを今日も却下する。
 
「なぁ、そろそろ次に進みたいんだけど……」

「進まないです」

「でもさぁ」

「次に進みたいというのでしたら、その理由を教えてください」

「それは何度も言っている。ファイが好きだからだ」

「ですから、私のどこがいいんです? 顔はいいと自負していますがそれだけですよ?」

「全部だよ!! 一目惚れだと何度僕に言わせる気だ!!」

 クロスの顔は真っ赤で、一目惚れは本当なのだろうと思えた。
 だが、キス以上の行為に進んで万が一と言うこともある。
 だから、それ以上は弱い私が許さないし、許せない。
 
「ありがとうございます。私だってご主人様のことが大好きです」

「なら!」

「それとこれとは別です。私は、ご主人様が大切だからこれ以上には進みたくないんです」

「…………なぁ、お前は僕がいなくなったらどうする? 僕を追いかけてくれるか?」

「えっ? 私はご主人様のしもべですよ? 逃がすわけないじゃないですか?」

「そう……か。うん。ありがとな」

 そう言ったクロスは、最後に軽くキスをした後に風呂に向かった。
 何故かその後ろ姿に不安を感じてしまった。
 クロスが消えてしまうような、そんな言いようのない不安が私の身を揺さぶったのだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!
BL
君とどうにかなるつもりはない。わたしはソコロフ家の、君はアナトリエ家の近衛騎士なのだから。 ここは二大貴族が百年にわたり王位争いを繰り広げる国。 平民のオメガにして近衛騎士に登用されたスフェンは、敬愛するアルファの公子レクスに忠誠を誓っている。 しかしレクスから賜った密令により、敵方の騎士でアルファのエリセイと行動を共にする破目になってしまう。 エリセイは腹が立つほど呑気でのらくら。だが密令を果たすため仕方なく一緒に過ごすうち、彼への印象が変わっていく。 さらに、蔑まれるオメガが実は、この百年の戦いに終止符を打てる存在だと判明するも――やはり、剣を向け合う運命だった。 特別な「ヒールオメガ」が鍵を握る、ロミジュリオメガバース。

【完結】おじさんの私に最強魔術師が結婚を迫ってくるんですが

cyan
BL
魔力がないため不便ではあるものの、真面目に仕事をして過ごしていた私だったが、こんなおじさんのどこを気に入ったのか宮廷魔術師が私に結婚を迫ってきます。 戸惑いながら流されながら?愛を育みます。

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。 死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。 贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。 「お前は、俺だけのものだ」 孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。

【完結済み】騎士団長は親友に生き写しの隣国の魔術師を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)
BL
アイゼンベルク帝国の騎士団長ジュリアスは留学してきた隣国ゼレスティア公国の数十年ぶりのビショップ候補、シタンの後見となる。その理由はシタンが十年前に失った親友であり片恋の相手、ラシードにうり二つだから。だが出会ったシタンのラシードとは違う表情や振る舞いに心が惹かれていき…。過去の恋と現在目の前にいる存在。その両方の間で惑うジュリアスの心の行方は。※最終話まで毎日更新。※大柄な体躯の30代黒髪碧眼の騎士団長×細身の20代長髪魔術師のカップリングです。※完結済みの「テンペストの魔女」と若干繋がっていますがそちらを知らなくても読めます。

薬屋の受難【完】

おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。 魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン

処理中です...