私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?

バナナマヨネーズ

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第九話

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 私の名前はファイ。
 日々、番であるクロスの誘惑に心を揺さぶられているバイパーだ。
 
 クロスの後ろ姿に不安を感じた日の深夜のことだ。
 胸がざわつき眠れなかった私は、眠るでもなくただベッドに横たわっていた。
 木々のざわめき、微かな風の音。
 そして、静かに廊下を歩く足音。
 どうしたのだろうかと身を起こそうとしたが、私は寝たふりをすることに決める。
 こんな夜中にどうしたのだろうという疑問と、少しの悪戯心から私はたぬき寝入りをすることにしたのだ。
 近づいたクロスを驚かせてやろうと、そんな事を考えながらじっとしていると、予想通り私の部屋の扉が静かに開かれる。
 忍び足で近づいてきたクロスをどのタイミングで驚かせようと待ち構えていた私は、クロスの次の行動に完全に身動きが出来なくなってしまった。
 
「ぐすっ……。明日……。いやもう今日で僕は……。この部屋で眠っているように見えた君をみた時から、僕の心は生を感じ始めたんだ。もっと早くにファイに会いたかった。もう、会えなくなると思うと、ファイが心配だよ……。元気で、僕の分まで……っ!!」

「どういうことだ?!」

 クロスの不穏な発言に私は起き上がりその腕を掴んでいた。
 暗闇の中でも分かる。クロスの泣いているような表情に私は目を見張る。
 
「な……何があった? どこに行こうというんだ。私を捨てるのか?」

「違うよ……」

「なら!」

「悪いな……。僕はきっと朝陽が昇る前に……」

 言い淀むクロスの言葉を大人しく待っていると、震える声で続けられた言葉に私は驚愕する。
 
「僕は死ぬんだ」

「は?」

「僕は……。僕はサクフィスなんだ」

「サクフィス? それがどうして死ぬことになるんだ? 多少ならサクフィスのことは知っている。魔物のことなら私に任せればいい。何があってもご主人様を守ってやるから安心しろ」

「ははっ。それがファイの素の喋り方なのか? 畏まった話し方もいいが、そっちも好きだぜ」

「……。サクフィスは数が少ない……。知られていない何かがあっても……。っ! 寿命か?」

「あはっ。さすがバイパーだよ。ファイは頭の回転が速いし察しもいい。正解だよ。サクフィスは、その性に目覚めた時に自分の特徴を知るんだ。魔物を惹きつけるって性質は有名だよな。でもなんで惹きつけるのかは知られていない。あはは。実は、サクフィスの血肉は魔物を強くするんだってさ。だから、力を求める魔物が寄ってくるんだ。他にもバイパーを惹きつけるとか、二十までしか生きられないリミットがあるとかね。ファイがバイパーって知って納得した。僕を欲しがる理由が明確だったから、主従ごっこ楽しかったよ」

「サクフィス……。寿命……。リミット……」

 世間話でもするかのように楽しそうに語るクロスを見た私は怒りが込み上げていた。
 
「私を置いて先に死ぬ……。許さない……。こんなこと計算外だ……。私が死んで、貴方は生き延びなければいけないんだ!!」

「許さないも何も仕方ないことだよ。それに、僕がナチュラだとしても、結局僕の方が先に死ぬんだ。長命なバイパーと肩を並べることなんて所詮無理なんだからさ……」

 初めて見たクロスの諦めたような表情に私の中の何かが切れる音がした気がした。
 
「命ならくれてやる!! だから、死ぬな!」

 激情のまま私はクロスの掴んでいた腕を強く引いてベッドの中に引きずり込む。
 馬乗りになり、ベッドにクロスを押さえつけた私は、愛しい番を見下ろしていた。
 シーツの上で乱れる銀髪と、私に押さえつけられた両手。
 
「勝手に死ぬなんて許さない。私の―――」

「えっ?」

 小さく呟いた番という言葉はクロスには聞こえなかっただろうね。
 そんなことを考えながら、驚いた顔から視線を外す。
 そして、私はクロスの首筋に歯を立てその血を啜った……。
 
「甘い……。好き……。クロス、好きだ。愛してる。私の、私の番。好きだ……」

 初めて口にした血の味は甘くて、苦くて…………、とても美味しかった。
 
「ファイ……、お前が好きだよ……。だから、僕の全部をくれてやる」

「クロス、クロス!! 私のクロス!!」

 夢中でクロスの血を啜る。
 飲み干す。全てを。
 そして、私のすべてをクロスに注ぐんだ。
 
 血を失い冷たくなりつつあるクロスの唇に私は唇を合わせる。
 そして、最後のキスを交わす。
 とても甘い、血の味のするキスを。
   
 クロスに私の持っているもの全部を捧げる。
 命も未来も何もかもを。
 意識が遠くなる中で、私は自分の命がクロスに流れきったのを感じて安堵する。
 だけど……。

「また……。失敗したのか……? 僕はどうしていつも間に合わないんだ……。ファイ、ごめんな……」


 悲しい声音だった。
 クロスは何を悲しんでいたんだろうか。
 何も分からない。だけど、私は何か間違いを犯したんだろう。


 
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