9 / 17
第九話
しおりを挟む
私の名前はファイ。
日々、番であるクロスの誘惑に心を揺さぶられているバイパーだ。
クロスの後ろ姿に不安を感じた日の深夜のことだ。
胸がざわつき眠れなかった私は、眠るでもなくただベッドに横たわっていた。
木々のざわめき、微かな風の音。
そして、静かに廊下を歩く足音。
どうしたのだろうかと身を起こそうとしたが、私は寝たふりをすることに決める。
こんな夜中にどうしたのだろうという疑問と、少しの悪戯心から私はたぬき寝入りをすることにしたのだ。
近づいたクロスを驚かせてやろうと、そんな事を考えながらじっとしていると、予想通り私の部屋の扉が静かに開かれる。
忍び足で近づいてきたクロスをどのタイミングで驚かせようと待ち構えていた私は、クロスの次の行動に完全に身動きが出来なくなってしまった。
「ぐすっ……。明日……。いやもう今日で僕は……。この部屋で眠っているように見えた君をみた時から、僕の心は生を感じ始めたんだ。もっと早くにファイに会いたかった。もう、会えなくなると思うと、ファイが心配だよ……。元気で、僕の分まで……っ!!」
「どういうことだ?!」
クロスの不穏な発言に私は起き上がりその腕を掴んでいた。
暗闇の中でも分かる。クロスの泣いているような表情に私は目を見張る。
「な……何があった? どこに行こうというんだ。私を捨てるのか?」
「違うよ……」
「なら!」
「悪いな……。僕はきっと朝陽が昇る前に……」
言い淀むクロスの言葉を大人しく待っていると、震える声で続けられた言葉に私は驚愕する。
「僕は死ぬんだ」
「は?」
「僕は……。僕はサクフィスなんだ」
「サクフィス? それがどうして死ぬことになるんだ? 多少ならサクフィスのことは知っている。魔物のことなら私に任せればいい。何があってもご主人様を守ってやるから安心しろ」
「ははっ。それがファイの素の喋り方なのか? 畏まった話し方もいいが、そっちも好きだぜ」
「……。サクフィスは数が少ない……。知られていない何かがあっても……。っ! 寿命か?」
「あはっ。さすがバイパーだよ。ファイは頭の回転が速いし察しもいい。正解だよ。サクフィスは、その性に目覚めた時に自分の特徴を知るんだ。魔物を惹きつけるって性質は有名だよな。でもなんで惹きつけるのかは知られていない。あはは。実は、サクフィスの血肉は魔物を強くするんだってさ。だから、力を求める魔物が寄ってくるんだ。他にもバイパーを惹きつけるとか、二十までしか生きられないリミットがあるとかね。ファイがバイパーって知って納得した。僕を欲しがる理由が明確だったから、主従ごっこ楽しかったよ」
「サクフィス……。寿命……。リミット……」
世間話でもするかのように楽しそうに語るクロスを見た私は怒りが込み上げていた。
「私を置いて先に死ぬ……。許さない……。こんなこと計算外だ……。私が死んで、貴方は生き延びなければいけないんだ!!」
「許さないも何も仕方ないことだよ。それに、僕がナチュラだとしても、結局僕の方が先に死ぬんだ。長命なバイパーと肩を並べることなんて所詮無理なんだからさ……」
初めて見たクロスの諦めたような表情に私の中の何かが切れる音がした気がした。
「命ならくれてやる!! だから、死ぬな!」
激情のまま私はクロスの掴んでいた腕を強く引いてベッドの中に引きずり込む。
馬乗りになり、ベッドにクロスを押さえつけた私は、愛しい番を見下ろしていた。
シーツの上で乱れる銀髪と、私に押さえつけられた両手。
「勝手に死ぬなんて許さない。私の―――」
「えっ?」
小さく呟いた番という言葉はクロスには聞こえなかっただろうね。
そんなことを考えながら、驚いた顔から視線を外す。
そして、私はクロスの首筋に歯を立てその血を啜った……。
「甘い……。好き……。クロス、好きだ。愛してる。私の、私の番。好きだ……」
初めて口にした血の味は甘くて、苦くて…………、とても美味しかった。
「ファイ……、お前が好きだよ……。だから、僕の全部をくれてやる」
「クロス、クロス!! 私のクロス!!」
夢中でクロスの血を啜る。
飲み干す。全てを。
そして、私のすべてをクロスに注ぐんだ。
血を失い冷たくなりつつあるクロスの唇に私は唇を合わせる。
そして、最後のキスを交わす。
とても甘い、血の味のするキスを。
クロスに私の持っているもの全部を捧げる。
命も未来も何もかもを。
意識が遠くなる中で、私は自分の命がクロスに流れきったのを感じて安堵する。
だけど……。
「また……。失敗したのか……? 僕はどうしていつも間に合わないんだ……。ファイ、ごめんな……」
悲しい声音だった。
クロスは何を悲しんでいたんだろうか。
何も分からない。だけど、私は何か間違いを犯したんだろう。
日々、番であるクロスの誘惑に心を揺さぶられているバイパーだ。
クロスの後ろ姿に不安を感じた日の深夜のことだ。
胸がざわつき眠れなかった私は、眠るでもなくただベッドに横たわっていた。
木々のざわめき、微かな風の音。
そして、静かに廊下を歩く足音。
どうしたのだろうかと身を起こそうとしたが、私は寝たふりをすることに決める。
こんな夜中にどうしたのだろうという疑問と、少しの悪戯心から私はたぬき寝入りをすることにしたのだ。
近づいたクロスを驚かせてやろうと、そんな事を考えながらじっとしていると、予想通り私の部屋の扉が静かに開かれる。
忍び足で近づいてきたクロスをどのタイミングで驚かせようと待ち構えていた私は、クロスの次の行動に完全に身動きが出来なくなってしまった。
「ぐすっ……。明日……。いやもう今日で僕は……。この部屋で眠っているように見えた君をみた時から、僕の心は生を感じ始めたんだ。もっと早くにファイに会いたかった。もう、会えなくなると思うと、ファイが心配だよ……。元気で、僕の分まで……っ!!」
「どういうことだ?!」
クロスの不穏な発言に私は起き上がりその腕を掴んでいた。
暗闇の中でも分かる。クロスの泣いているような表情に私は目を見張る。
「な……何があった? どこに行こうというんだ。私を捨てるのか?」
「違うよ……」
「なら!」
「悪いな……。僕はきっと朝陽が昇る前に……」
言い淀むクロスの言葉を大人しく待っていると、震える声で続けられた言葉に私は驚愕する。
「僕は死ぬんだ」
「は?」
「僕は……。僕はサクフィスなんだ」
「サクフィス? それがどうして死ぬことになるんだ? 多少ならサクフィスのことは知っている。魔物のことなら私に任せればいい。何があってもご主人様を守ってやるから安心しろ」
「ははっ。それがファイの素の喋り方なのか? 畏まった話し方もいいが、そっちも好きだぜ」
「……。サクフィスは数が少ない……。知られていない何かがあっても……。っ! 寿命か?」
「あはっ。さすがバイパーだよ。ファイは頭の回転が速いし察しもいい。正解だよ。サクフィスは、その性に目覚めた時に自分の特徴を知るんだ。魔物を惹きつけるって性質は有名だよな。でもなんで惹きつけるのかは知られていない。あはは。実は、サクフィスの血肉は魔物を強くするんだってさ。だから、力を求める魔物が寄ってくるんだ。他にもバイパーを惹きつけるとか、二十までしか生きられないリミットがあるとかね。ファイがバイパーって知って納得した。僕を欲しがる理由が明確だったから、主従ごっこ楽しかったよ」
「サクフィス……。寿命……。リミット……」
世間話でもするかのように楽しそうに語るクロスを見た私は怒りが込み上げていた。
「私を置いて先に死ぬ……。許さない……。こんなこと計算外だ……。私が死んで、貴方は生き延びなければいけないんだ!!」
「許さないも何も仕方ないことだよ。それに、僕がナチュラだとしても、結局僕の方が先に死ぬんだ。長命なバイパーと肩を並べることなんて所詮無理なんだからさ……」
初めて見たクロスの諦めたような表情に私の中の何かが切れる音がした気がした。
「命ならくれてやる!! だから、死ぬな!」
激情のまま私はクロスの掴んでいた腕を強く引いてベッドの中に引きずり込む。
馬乗りになり、ベッドにクロスを押さえつけた私は、愛しい番を見下ろしていた。
シーツの上で乱れる銀髪と、私に押さえつけられた両手。
「勝手に死ぬなんて許さない。私の―――」
「えっ?」
小さく呟いた番という言葉はクロスには聞こえなかっただろうね。
そんなことを考えながら、驚いた顔から視線を外す。
そして、私はクロスの首筋に歯を立てその血を啜った……。
「甘い……。好き……。クロス、好きだ。愛してる。私の、私の番。好きだ……」
初めて口にした血の味は甘くて、苦くて…………、とても美味しかった。
「ファイ……、お前が好きだよ……。だから、僕の全部をくれてやる」
「クロス、クロス!! 私のクロス!!」
夢中でクロスの血を啜る。
飲み干す。全てを。
そして、私のすべてをクロスに注ぐんだ。
血を失い冷たくなりつつあるクロスの唇に私は唇を合わせる。
そして、最後のキスを交わす。
とても甘い、血の味のするキスを。
クロスに私の持っているもの全部を捧げる。
命も未来も何もかもを。
意識が遠くなる中で、私は自分の命がクロスに流れきったのを感じて安堵する。
だけど……。
「また……。失敗したのか……? 僕はどうしていつも間に合わないんだ……。ファイ、ごめんな……」
悲しい声音だった。
クロスは何を悲しんでいたんだろうか。
何も分からない。だけど、私は何か間違いを犯したんだろう。
3
あなたにおすすめの小説
「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす
水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。
死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。
贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。
「お前は、俺だけのものだ」
孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。
佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。
【完結】おじさんの私に最強魔術師が結婚を迫ってくるんですが
cyan
BL
魔力がないため不便ではあるものの、真面目に仕事をして過ごしていた私だったが、こんなおじさんのどこを気に入ったのか宮廷魔術師が私に結婚を迫ってきます。
戸惑いながら流されながら?愛を育みます。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】
アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。
次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。
巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。
かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。
やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
【完結済み】騎士団長は親友に生き写しの隣国の魔術師を溺愛する
兔世夜美(トヨヤミ)
BL
アイゼンベルク帝国の騎士団長ジュリアスは留学してきた隣国ゼレスティア公国の数十年ぶりのビショップ候補、シタンの後見となる。その理由はシタンが十年前に失った親友であり片恋の相手、ラシードにうり二つだから。だが出会ったシタンのラシードとは違う表情や振る舞いに心が惹かれていき…。過去の恋と現在目の前にいる存在。その両方の間で惑うジュリアスの心の行方は。※最終話まで毎日更新。※大柄な体躯の30代黒髪碧眼の騎士団長×細身の20代長髪魔術師のカップリングです。※完結済みの「テンペストの魔女」と若干繋がっていますがそちらを知らなくても読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる