私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
10 / 17

第十話

しおりを挟む
「どうか、貴方様のしもべにしてください。ご主人様!!」




 私の名前はファイ。
 番であるクロスのリミットを外すため、命を全て譲渡したため死んだはずなのに……。
 だというのに、これはどういう状況なんだろうか?
 
 意識が暗転したと思った次の瞬間。
 私は、初めてクロスと出会った日に発したセリフを口走っていたのだ。
 いつかのように床に這いつくばり、額を床に擦り付ける姿勢のままで私は混乱していた。
 
 
 考えられることは二つ。
 一つは、今までのことが長い夢だった。
 二つ目は、時間が巻き戻った。
 
 うん。理由は分からないが時間を巻き戻ったという方があり得そうな気がする。
 今までもあの時間が夢だったとは思えないからだ。
 クロスの匂い、感触……。
 あれが全部夢なはずがないんだ。
 
 意識を失う前、クロスはなんと言った?
 
 たしか……。
 あれ? 思い出せない。
 ついさっきのことなのに、何も思い出せない……。
 とりあえずだ。
 今はクロスと改めて主従契約を結んで彼を私の魔の手から守ることが最優先だ。
 
「この私と主従契約を結んでください。何からもご主人様をお守りすることを誓わせてください!!」

 前回と同様に迷う隙を与えることなく主従契約を結んでしまおうと、私は前と同じ言葉を口にしていた。
 
「主従契約……?」

 あれ?
 
「はい。私を貴方様のしもべにして頂きたいのです!!」

「う~ん」

 あれ? 何かおかしい……。
 
「主従契約ってちょっとピンとこないな……」

 そう言ったクロスは、しゃがみ込んで私の顎をすくい、視線を合わせたのだ。
 綺麗な紫色の瞳と視線が合うと、どことなく恥ずかしさが込み上げる。
 私のすべてを見透かすような、そんな視線に耐えられなくなった私は、逃げるように視線を逸らしてしまう。

「逃げるな。僕の目を見ろよ」

 強い言葉だった。だけど、懇願するような、そんな響きを含んでいるように感じて、私は視線を戻した。
 綺麗な目だと、そう思った。
 ぼんやりとそんなことを思っていると、クロスの顔が近づき、唇が触れるほどの近さで止まる。
 
「僕はクロスだ。ハンターをしている。とある理由で、この屋敷の近くに飛ばされてきた。この屋敷が目についた時、ここが気になってな」

「あ……、ああ」

「勝手に入らせてもらった。悪いな。だが、心が惹かれた理由はすぐに分かったよ」

「…………」

「ここにはお前がいた。一目見てお前が欲しいと、そう感じた。一目惚れだと思う」

「…………」

 前回の出来事と全く違う展開に私は戸惑うが、クロスの瞳の色、匂い、全てが同じだった。
 
「お前の名は?」

「私は……。私の名前はファイ」

「ファイ……。ファイだな」

 そう言って微笑む表情は前と変わらない。
 夢でも時間の巻き戻りでも、どちらでもよかった。
 こうしてまた、クロスと同じ時間を過ごせる、それだけが重要だった。
 だが……。おかしい……。
 クロスはどうしてここまで積極的なんだ?
 私は分かる。  クロスとの思い出妄想があるからな。
 だが、クロスとは初対面のはずなんだが?

「主従ではなくて、僕はファイと恋人同士になりたいんだけど?」

 熱を帯びた紫色の瞳で見つめられた私は、胸が高鳴ってしまう。
 だが、ここで折れるわけにはいかない。バイパーの本能に負けてクロスを失いかねない。
 いや……。
 待ってくれ。
 私は何かをしくじって今の時間に戻ってきたとしたら……。
 私は何を間違ったんだ?
 番契約の仕方か?
 それとも主従契約に何か不備があったのか?
 クロスはあの時なんと言ったんだ?
 
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!
BL
君とどうにかなるつもりはない。わたしはソコロフ家の、君はアナトリエ家の近衛騎士なのだから。 ここは二大貴族が百年にわたり王位争いを繰り広げる国。 平民のオメガにして近衛騎士に登用されたスフェンは、敬愛するアルファの公子レクスに忠誠を誓っている。 しかしレクスから賜った密令により、敵方の騎士でアルファのエリセイと行動を共にする破目になってしまう。 エリセイは腹が立つほど呑気でのらくら。だが密令を果たすため仕方なく一緒に過ごすうち、彼への印象が変わっていく。 さらに、蔑まれるオメガが実は、この百年の戦いに終止符を打てる存在だと判明するも――やはり、剣を向け合う運命だった。 特別な「ヒールオメガ」が鍵を握る、ロミジュリオメガバース。

【完結】おじさんの私に最強魔術師が結婚を迫ってくるんですが

cyan
BL
魔力がないため不便ではあるものの、真面目に仕事をして過ごしていた私だったが、こんなおじさんのどこを気に入ったのか宮廷魔術師が私に結婚を迫ってきます。 戸惑いながら流されながら?愛を育みます。

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。 死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。 贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。 「お前は、俺だけのものだ」 孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

【完結済み】騎士団長は親友に生き写しの隣国の魔術師を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)
BL
アイゼンベルク帝国の騎士団長ジュリアスは留学してきた隣国ゼレスティア公国の数十年ぶりのビショップ候補、シタンの後見となる。その理由はシタンが十年前に失った親友であり片恋の相手、ラシードにうり二つだから。だが出会ったシタンのラシードとは違う表情や振る舞いに心が惹かれていき…。過去の恋と現在目の前にいる存在。その両方の間で惑うジュリアスの心の行方は。※最終話まで毎日更新。※大柄な体躯の30代黒髪碧眼の騎士団長×細身の20代長髪魔術師のカップリングです。※完結済みの「テンペストの魔女」と若干繋がっていますがそちらを知らなくても読めます。

薬屋の受難【完】

おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。 魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン

処理中です...