嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ

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第一話 貧乏男爵令嬢

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 それは、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴の席でのことだった。
 没落寸前の男爵家の長女としてその宴に参加していたリリル・クロケットは、華やかな社交界よりも宴に出される料理にしか興味が無かった。
 クロケット男爵家は、祖父が残した多額の借金の所為で、領地経営も苦しく、家計は火の車だった。
 本当だったら、宴に参加などしたくもなかったのだが、美味しい料理につられてクロケット男爵一家は渋々参加したのだった。
 
 流行りからかけ離れたドレスに身を包んだリリルは、自分が周囲から忌み嫌われていることを理解していたが、家族からの愛情のお陰で捻くれることもなく、ある意味天真爛漫に育ったのだ。
 そのため、周囲からの視線など全く気にもせずに、父と兄と一緒になって、宴の料理に舌鼓を打っていたのだ。
 
「うっまぁ~いですわ! 兄様、あちらのお肉もいただきましょう!」

「ああ、リリル。こっちの魚も美味いぞ。ほら」

「まぁ! お魚ですって! はむっ……。うっ、うっまいですわ!! はぁ、お魚最高ですわ!!」

「こらこら、口の周りにソースが付いているぞ?」

 今年22歳になる兄のクロムウェル・クロケットと共に、仲良さげに料理を食べるリリルは、今年18歳になるが、年の割に小さく、とても幼く見えた。
 月のような美しいシルバーの髪と蒼穹を思わせるブルーの瞳のリリルは、とても愛らしい少女だった。
 しかし、リリルの遠い先祖が獣人の血を引いており、その証ともいえるものがリリルには存在したのだ。
 そのため、リリルは社交界では【獣令嬢】と言われて忌み嫌われていたのだ。
 
 リリルにだけ現れた証とは、狐のような耳とボリュームのあるふさふさの尻尾のことだ。
 現在の社会では、見られることのない獣人の証を人々は忌避したのだ。
 
 しかし、クロムウェルと、クロケット男爵は、そんなリリルの獣人の血を引いている証ともいえる耳と尻尾をこの上なく愛していたのだ。
 だから、周囲になんと言われても気にせずに愛するリリルを全力で守っていたのだ。
 しかし、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、人々の口を塞ぐことは底辺貴族のクロケット男爵家にはとても難しいことだった。
 
 リリルは、クロムウェルとクロケット男爵が、自分のために奮闘していることを知っていたため、周囲からの影口にだって耐えることが出来たのだ。
 
 そうしている内に、影口も気にならなくなってきて、今では雑音と思って胸を痛めることもなくなっていた。
 
 そんな訳で、美味しい料理に夢中のリリルは、ふさふさの尻尾を機嫌よく振って、クロムウェルと楽しく料理にぱくついていたのだった。
 
 
「兄様、お魚とても美味しいですね! はぁ、お魚を毎日食べたいですが、うちにそんな余裕などないので、ここで思う存分食べて食べて食べまくります!!」

「ああ、そうだな。くすくす。リリルは本当に可愛いなぁ。よしよし」

「むうぅ。兄様、食事中に耳を触らないでください!」

「ごめんごめん。リリルの耳が、ピコピコ動いてて可愛くてつい」

「もう~」

「ごめんね? そうだ、帰ったらブラッシングしてあげるから」

「はい!! わーい。兄様のブラシ捌きは世界一です」

 リリルとクロムウェルが、いつものようにじゃれ付いていると、いつの間にか周囲の雑音が消えていたが、それにリリルが気が付くことはなかった。
 リリルが異変に気が付いたのは、大柄な男がリリルに近づいて来た時だった。
 見上げるほどに大きな男が近づいて来たと思った次の瞬間、突然リリルの足元に膝を付き、その小さな手を取って驚くべきことを言ったのだ。
 

「お前、俺のものになれ」

 突然のことにリリルは、男に握られていない方の手に持っていたフォークで、クロムウェルの皿の上にある肉を刺して口に運んで無心でそれを咀嚼していた。
 
 肉を口にしながら、リリルは「お肉も美味しいですわ~」と現実逃避をしていた。
 
 そんなリリルの手を引いて、男はさらに言ったのだ。
 
「俺の妻になれ」


 カラーーーン。


 まさかの言葉に、リリルは持っていたフォークを取り落としてしまっていた。
 しんと静まり返るその場には、フォークが床に落ちた音だけが鳴り響いていた。 

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