1 / 11
第一話 貧乏男爵令嬢
しおりを挟む
それは、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴の席でのことだった。
没落寸前の男爵家の長女としてその宴に参加していたリリル・クロケットは、華やかな社交界よりも宴に出される料理にしか興味が無かった。
クロケット男爵家は、祖父が残した多額の借金の所為で、領地経営も苦しく、家計は火の車だった。
本当だったら、宴に参加などしたくもなかったのだが、美味しい料理につられてクロケット男爵一家は渋々参加したのだった。
流行りからかけ離れたドレスに身を包んだリリルは、自分が周囲から忌み嫌われていることを理解していたが、家族からの愛情のお陰で捻くれることもなく、ある意味天真爛漫に育ったのだ。
そのため、周囲からの視線など全く気にもせずに、父と兄と一緒になって、宴の料理に舌鼓を打っていたのだ。
「うっまぁ~いですわ! 兄様、あちらのお肉もいただきましょう!」
「ああ、リリル。こっちの魚も美味いぞ。ほら」
「まぁ! お魚ですって! はむっ……。うっ、うっまいですわ!! はぁ、お魚最高ですわ!!」
「こらこら、口の周りにソースが付いているぞ?」
今年22歳になる兄のクロムウェル・クロケットと共に、仲良さげに料理を食べるリリルは、今年18歳になるが、年の割に小さく、とても幼く見えた。
月のような美しいシルバーの髪と蒼穹を思わせるブルーの瞳のリリルは、とても愛らしい少女だった。
しかし、リリルの遠い先祖が獣人の血を引いており、その証ともいえるものがリリルには存在したのだ。
そのため、リリルは社交界では【獣令嬢】と言われて忌み嫌われていたのだ。
リリルにだけ現れた証とは、狐のような耳とボリュームのあるふさふさの尻尾のことだ。
現在の社会では、見られることのない獣人の証を人々は忌避したのだ。
しかし、クロムウェルと、クロケット男爵は、そんなリリルの獣人の血を引いている証ともいえる耳と尻尾をこの上なく愛していたのだ。
だから、周囲になんと言われても気にせずに愛するリリルを全力で守っていたのだ。
しかし、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、人々の口を塞ぐことは底辺貴族のクロケット男爵家にはとても難しいことだった。
リリルは、クロムウェルとクロケット男爵が、自分のために奮闘していることを知っていたため、周囲からの影口にだって耐えることが出来たのだ。
そうしている内に、影口も気にならなくなってきて、今では雑音と思って胸を痛めることもなくなっていた。
そんな訳で、美味しい料理に夢中のリリルは、ふさふさの尻尾を機嫌よく振って、クロムウェルと楽しく料理にぱくついていたのだった。
「兄様、お魚とても美味しいですね! はぁ、お魚を毎日食べたいですが、うちにそんな余裕などないので、ここで思う存分食べて食べて食べまくります!!」
「ああ、そうだな。くすくす。リリルは本当に可愛いなぁ。よしよし」
「むうぅ。兄様、食事中に耳を触らないでください!」
「ごめんごめん。リリルの耳が、ピコピコ動いてて可愛くてつい」
「もう~」
「ごめんね? そうだ、帰ったらブラッシングしてあげるから」
「はい!! わーい。兄様のブラシ捌きは世界一です」
リリルとクロムウェルが、いつものようにじゃれ付いていると、いつの間にか周囲の雑音が消えていたが、それにリリルが気が付くことはなかった。
リリルが異変に気が付いたのは、大柄な男がリリルに近づいて来た時だった。
見上げるほどに大きな男が近づいて来たと思った次の瞬間、突然リリルの足元に膝を付き、その小さな手を取って驚くべきことを言ったのだ。
「お前、俺のものになれ」
突然のことにリリルは、男に握られていない方の手に持っていたフォークで、クロムウェルの皿の上にある肉を刺して口に運んで無心でそれを咀嚼していた。
肉を口にしながら、リリルは「お肉も美味しいですわ~」と現実逃避をしていた。
そんなリリルの手を引いて、男はさらに言ったのだ。
「俺の妻になれ」
カラーーーン。
まさかの言葉に、リリルは持っていたフォークを取り落としてしまっていた。
しんと静まり返るその場には、フォークが床に落ちた音だけが鳴り響いていた。
没落寸前の男爵家の長女としてその宴に参加していたリリル・クロケットは、華やかな社交界よりも宴に出される料理にしか興味が無かった。
クロケット男爵家は、祖父が残した多額の借金の所為で、領地経営も苦しく、家計は火の車だった。
本当だったら、宴に参加などしたくもなかったのだが、美味しい料理につられてクロケット男爵一家は渋々参加したのだった。
流行りからかけ離れたドレスに身を包んだリリルは、自分が周囲から忌み嫌われていることを理解していたが、家族からの愛情のお陰で捻くれることもなく、ある意味天真爛漫に育ったのだ。
そのため、周囲からの視線など全く気にもせずに、父と兄と一緒になって、宴の料理に舌鼓を打っていたのだ。
「うっまぁ~いですわ! 兄様、あちらのお肉もいただきましょう!」
「ああ、リリル。こっちの魚も美味いぞ。ほら」
「まぁ! お魚ですって! はむっ……。うっ、うっまいですわ!! はぁ、お魚最高ですわ!!」
「こらこら、口の周りにソースが付いているぞ?」
今年22歳になる兄のクロムウェル・クロケットと共に、仲良さげに料理を食べるリリルは、今年18歳になるが、年の割に小さく、とても幼く見えた。
月のような美しいシルバーの髪と蒼穹を思わせるブルーの瞳のリリルは、とても愛らしい少女だった。
しかし、リリルの遠い先祖が獣人の血を引いており、その証ともいえるものがリリルには存在したのだ。
そのため、リリルは社交界では【獣令嬢】と言われて忌み嫌われていたのだ。
リリルにだけ現れた証とは、狐のような耳とボリュームのあるふさふさの尻尾のことだ。
現在の社会では、見られることのない獣人の証を人々は忌避したのだ。
しかし、クロムウェルと、クロケット男爵は、そんなリリルの獣人の血を引いている証ともいえる耳と尻尾をこの上なく愛していたのだ。
だから、周囲になんと言われても気にせずに愛するリリルを全力で守っていたのだ。
しかし、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、人々の口を塞ぐことは底辺貴族のクロケット男爵家にはとても難しいことだった。
リリルは、クロムウェルとクロケット男爵が、自分のために奮闘していることを知っていたため、周囲からの影口にだって耐えることが出来たのだ。
そうしている内に、影口も気にならなくなってきて、今では雑音と思って胸を痛めることもなくなっていた。
そんな訳で、美味しい料理に夢中のリリルは、ふさふさの尻尾を機嫌よく振って、クロムウェルと楽しく料理にぱくついていたのだった。
「兄様、お魚とても美味しいですね! はぁ、お魚を毎日食べたいですが、うちにそんな余裕などないので、ここで思う存分食べて食べて食べまくります!!」
「ああ、そうだな。くすくす。リリルは本当に可愛いなぁ。よしよし」
「むうぅ。兄様、食事中に耳を触らないでください!」
「ごめんごめん。リリルの耳が、ピコピコ動いてて可愛くてつい」
「もう~」
「ごめんね? そうだ、帰ったらブラッシングしてあげるから」
「はい!! わーい。兄様のブラシ捌きは世界一です」
リリルとクロムウェルが、いつものようにじゃれ付いていると、いつの間にか周囲の雑音が消えていたが、それにリリルが気が付くことはなかった。
リリルが異変に気が付いたのは、大柄な男がリリルに近づいて来た時だった。
見上げるほどに大きな男が近づいて来たと思った次の瞬間、突然リリルの足元に膝を付き、その小さな手を取って驚くべきことを言ったのだ。
「お前、俺のものになれ」
突然のことにリリルは、男に握られていない方の手に持っていたフォークで、クロムウェルの皿の上にある肉を刺して口に運んで無心でそれを咀嚼していた。
肉を口にしながら、リリルは「お肉も美味しいですわ~」と現実逃避をしていた。
そんなリリルの手を引いて、男はさらに言ったのだ。
「俺の妻になれ」
カラーーーン。
まさかの言葉に、リリルは持っていたフォークを取り落としてしまっていた。
しんと静まり返るその場には、フォークが床に落ちた音だけが鳴り響いていた。
63
あなたにおすすめの小説
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる