3 / 97
本編
第一章 花嫁候補(2)
しおりを挟む
それから数日後のことだった。十歳の誕生日を迎えたミリアリアは、生まれて初めてセイラ以外から誕生日を祝われることとなった。
誕生日の日の昼過ぎのことだった。その日、父親から誕生日を祝うケーキがミリアリアに届けられたのだ。
今まで食べていた質素な食事と違って、砂糖がたっぷりと使われた真っ白なケーキと、その上に乗った真っ赤に熟れた苺にミリアリアは、瞳を輝かせていた。
「セイラ! こんなの初めて!! これがケーキなのね。すごーい、苺が乗ってる。うわー、甘いいい匂いがする。ねぇ、これ、わたしが食べていいの? いいの?」
嬉しそうにはしゃぐミリアリアを見たセイラは、少しだけ眉を辛そうに歪めた。ただ、それは一瞬のことで、そんなセイラにミリアリアは、気が付くことはなかった。
「ええ。勿論です。さぁ、姫様お食べください」
「やったぁ。ねぇ、セイラも一緒に食べよう」
ミリアリアがそう言うと、セイラは緩く首を振り遠慮するように言ったのだ。
「いいえ、これは陛下から、姫様への贈り物です。私が頂くわけにはいきません。さぁ、遠慮せずに、お食べください」
「うぅ、でも……」
「くすくす。姫様のお優しいお気持ちだけいただきますね」
「うん。それじゃ、別のケーキをもらった時は、一緒に食べよう」
「はい。そうさせてもらいますね」
セイラによって綺麗に切り分けられたケーキを目にしたミリアリアは、嬉しそうに誕生日ケーキを頬張った。
大きめにフォークで掬ったケーキを口を大きくあけて口にいれる。口にいれた瞬間に広がるクリームの甘さと、苺の甘酸っぱさ、スポンジケーキの甘く柔らかい触感に、ミリアリアは、瞳を輝かせたのだ。
「あまーい。おいしー。あまーい。やわらかーい。おいしー」
そう言って、一口ごとにはしゃぐミリアリアを見たセイラは、少しだけ涙目ではあったが、目を細めてミリアリアの拙い感想に頷いたのだった。
幸福な時間には代償が伴うのだと言わんばかりに、その後ミリアリアの身に大きな不幸が訪れることとなった。
誕生日の数日後のことだった。
王宮の片隅にある王族が使う部屋にしては小さく質素な部屋のベッドで熱にうなされるミリアリアの姿があった。
(くるしい……いたい……。わたし、死んじゃうのかな? ああ、まだ何もできてないのに。いつか、ここを抜け出して、外の世界を見て見たかった。本で読んだみたいに、王子様に恋をして幸せになって、ああ、それと美味しい物ももっと食べたかったなぁ。ケーキ、美味しかったなぁ)
高熱にうなされながら、ミリアリアは自分が死に向かっていると実感していた。
セイラは、泣きながら何かを言っていたが、何も聞こえなかった。
ただ、ミリアリアの手を握る感覚だけは分かった。ミリアリアをこの世界に引き留めるかのように強くその手を握ってくれていたことだけが、救いだった。
ミリアリアが熱を出して数日。死を覚悟していたミリアリアは、順調に回復していた。
ただし、熱が下がって数日が経っても倦怠感は無くならなかった。
セイラの付きっきりの看病のお陰で、次第に熱が出る前の状態に戻っていったのだった。
ただし、熱が出た時に飲んだ薬の後遺症なのか、声が出にくくなる症状が出ていた。
少し掠れた声ではあったが、死なずに済んだと思えば何ということはなかった。
その後、完全に回復したミリアリアは、書庫通いを再開していた。
しかし、次第に視力が落ちていき、十一歳になるころには、何も見えなくなっていたのだ。
薄らと、太陽の強い光は感じられるものの、視界の殆どは真っ暗な世界へと黒く染められてしまっていた。
更には、声も失ってしまっていた。最初は掠れていた声が次第に出しにくくなり、最後には声も発せられなくなってしまったのだった。
ミリアリアは、自分がこの場所で安穏と暮らしていける理由を理解していた。
他国との交渉材料としての価値しかないこの身に欠陥があることが知られれば、生かす価値などないと判断されることは明白だった。
だから、誰にもこの欠陥を知られるわけにはいかなかった。
しかし、常に共に居るセイラには初期症状のうちに異変を知られてしまっていた。
当初セイラは、ミリアリアの状態を泣きながら悲しんでくれたのだ。そして、今後のことを考えて、完全に声が出せなくなった後の意思の伝達方法について一緒になって考えてくれたのだった。
その結果、声の代わりに鈴を鳴らすことで意思を伝えるようになったのだった。
目については、部屋から出ないという方法で凌ぐこととなった。
ただ、頭の中に書庫で記憶した王宮の見取り図があったため、歩き回れなくもなかったが、イレギュラーな出来事が起こったときに対処できる自信が無かったミリアリアは、部屋に籠るという選択肢を選んだのだった。
その後、ミリアリアの置かれた状況も相まって、体の欠陥を気付かれることなく十六歳の誕生日を迎えたのだった。
誕生日の日の昼過ぎのことだった。その日、父親から誕生日を祝うケーキがミリアリアに届けられたのだ。
今まで食べていた質素な食事と違って、砂糖がたっぷりと使われた真っ白なケーキと、その上に乗った真っ赤に熟れた苺にミリアリアは、瞳を輝かせていた。
「セイラ! こんなの初めて!! これがケーキなのね。すごーい、苺が乗ってる。うわー、甘いいい匂いがする。ねぇ、これ、わたしが食べていいの? いいの?」
嬉しそうにはしゃぐミリアリアを見たセイラは、少しだけ眉を辛そうに歪めた。ただ、それは一瞬のことで、そんなセイラにミリアリアは、気が付くことはなかった。
「ええ。勿論です。さぁ、姫様お食べください」
「やったぁ。ねぇ、セイラも一緒に食べよう」
ミリアリアがそう言うと、セイラは緩く首を振り遠慮するように言ったのだ。
「いいえ、これは陛下から、姫様への贈り物です。私が頂くわけにはいきません。さぁ、遠慮せずに、お食べください」
「うぅ、でも……」
「くすくす。姫様のお優しいお気持ちだけいただきますね」
「うん。それじゃ、別のケーキをもらった時は、一緒に食べよう」
「はい。そうさせてもらいますね」
セイラによって綺麗に切り分けられたケーキを目にしたミリアリアは、嬉しそうに誕生日ケーキを頬張った。
大きめにフォークで掬ったケーキを口を大きくあけて口にいれる。口にいれた瞬間に広がるクリームの甘さと、苺の甘酸っぱさ、スポンジケーキの甘く柔らかい触感に、ミリアリアは、瞳を輝かせたのだ。
「あまーい。おいしー。あまーい。やわらかーい。おいしー」
そう言って、一口ごとにはしゃぐミリアリアを見たセイラは、少しだけ涙目ではあったが、目を細めてミリアリアの拙い感想に頷いたのだった。
幸福な時間には代償が伴うのだと言わんばかりに、その後ミリアリアの身に大きな不幸が訪れることとなった。
誕生日の数日後のことだった。
王宮の片隅にある王族が使う部屋にしては小さく質素な部屋のベッドで熱にうなされるミリアリアの姿があった。
(くるしい……いたい……。わたし、死んじゃうのかな? ああ、まだ何もできてないのに。いつか、ここを抜け出して、外の世界を見て見たかった。本で読んだみたいに、王子様に恋をして幸せになって、ああ、それと美味しい物ももっと食べたかったなぁ。ケーキ、美味しかったなぁ)
高熱にうなされながら、ミリアリアは自分が死に向かっていると実感していた。
セイラは、泣きながら何かを言っていたが、何も聞こえなかった。
ただ、ミリアリアの手を握る感覚だけは分かった。ミリアリアをこの世界に引き留めるかのように強くその手を握ってくれていたことだけが、救いだった。
ミリアリアが熱を出して数日。死を覚悟していたミリアリアは、順調に回復していた。
ただし、熱が下がって数日が経っても倦怠感は無くならなかった。
セイラの付きっきりの看病のお陰で、次第に熱が出る前の状態に戻っていったのだった。
ただし、熱が出た時に飲んだ薬の後遺症なのか、声が出にくくなる症状が出ていた。
少し掠れた声ではあったが、死なずに済んだと思えば何ということはなかった。
その後、完全に回復したミリアリアは、書庫通いを再開していた。
しかし、次第に視力が落ちていき、十一歳になるころには、何も見えなくなっていたのだ。
薄らと、太陽の強い光は感じられるものの、視界の殆どは真っ暗な世界へと黒く染められてしまっていた。
更には、声も失ってしまっていた。最初は掠れていた声が次第に出しにくくなり、最後には声も発せられなくなってしまったのだった。
ミリアリアは、自分がこの場所で安穏と暮らしていける理由を理解していた。
他国との交渉材料としての価値しかないこの身に欠陥があることが知られれば、生かす価値などないと判断されることは明白だった。
だから、誰にもこの欠陥を知られるわけにはいかなかった。
しかし、常に共に居るセイラには初期症状のうちに異変を知られてしまっていた。
当初セイラは、ミリアリアの状態を泣きながら悲しんでくれたのだ。そして、今後のことを考えて、完全に声が出せなくなった後の意思の伝達方法について一緒になって考えてくれたのだった。
その結果、声の代わりに鈴を鳴らすことで意思を伝えるようになったのだった。
目については、部屋から出ないという方法で凌ぐこととなった。
ただ、頭の中に書庫で記憶した王宮の見取り図があったため、歩き回れなくもなかったが、イレギュラーな出来事が起こったときに対処できる自信が無かったミリアリアは、部屋に籠るという選択肢を選んだのだった。
その後、ミリアリアの置かれた状況も相まって、体の欠陥を気付かれることなく十六歳の誕生日を迎えたのだった。
81
あなたにおすすめの小説
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた
向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。
聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。
暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!?
一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる