欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
3 / 97
本編

第一章 花嫁候補(2)

 それから数日後のことだった。十歳の誕生日を迎えたミリアリアは、生まれて初めてセイラ以外から誕生日を祝われることとなった。
 誕生日の日の昼過ぎのことだった。その日、父親から誕生日を祝うケーキがミリアリアに届けられたのだ。

 今まで食べていた質素な食事と違って、砂糖がたっぷりと使われた真っ白なケーキと、その上に乗った真っ赤に熟れた苺にミリアリアは、瞳を輝かせていた。

「セイラ! こんなの初めて!! これがケーキなのね。すごーい、苺が乗ってる。うわー、甘いいい匂いがする。ねぇ、これ、わたしが食べていいの? いいの?」

 嬉しそうにはしゃぐミリアリアを見たセイラは、少しだけ眉を辛そうに歪めた。ただ、それは一瞬のことで、そんなセイラにミリアリアは、気が付くことはなかった。
 
「ええ。勿論です。さぁ、姫様お食べください」

「やったぁ。ねぇ、セイラも一緒に食べよう」

 ミリアリアがそう言うと、セイラは緩く首を振り遠慮するように言ったのだ。
 
「いいえ、これは陛下から、姫様への贈り物です。私が頂くわけにはいきません。さぁ、遠慮せずに、お食べください」

「うぅ、でも……」

「くすくす。姫様のお優しいお気持ちだけいただきますね」

「うん。それじゃ、別のケーキをもらった時は、一緒に食べよう」

「はい。そうさせてもらいますね」

 
 セイラによって綺麗に切り分けられたケーキを目にしたミリアリアは、嬉しそうに誕生日ケーキを頬張った。
 大きめにフォークで掬ったケーキを口を大きくあけて口にいれる。口にいれた瞬間に広がるクリームの甘さと、苺の甘酸っぱさ、スポンジケーキの甘く柔らかい触感に、ミリアリアは、瞳を輝かせたのだ。

「あまーい。おいしー。あまーい。やわらかーい。おいしー」

 そう言って、一口ごとにはしゃぐミリアリアを見たセイラは、少しだけ涙目ではあったが、目を細めてミリアリアの拙い感想に頷いたのだった。
 
 幸福な時間には代償が伴うのだと言わんばかりに、その後ミリアリアの身に大きな不幸が訪れることとなった。
 


 誕生日の数日後のことだった。
 王宮の片隅にある王族が使う部屋にしては小さく質素な部屋のベッドで熱にうなされるミリアリアの姿があった。
 
(くるしい……いたい……。わたし、死んじゃうのかな? ああ、まだ何もできてないのに。いつか、ここを抜け出して、外の世界を見て見たかった。本で読んだみたいに、王子様に恋をして幸せになって、ああ、それと美味しい物ももっと食べたかったなぁ。ケーキ、美味しかったなぁ)

 高熱にうなされながら、ミリアリアは自分が死に向かっていると実感していた。
 セイラは、泣きながら何かを言っていたが、何も聞こえなかった。
 ただ、ミリアリアの手を握る感覚だけは分かった。ミリアリアをこの世界に引き留めるかのように強くその手を握ってくれていたことだけが、救いだった。
 
 
 ミリアリアが熱を出して数日。死を覚悟していたミリアリアは、順調に回復していた。
 ただし、熱が下がって数日が経っても倦怠感は無くならなかった。
 セイラの付きっきりの看病のお陰で、次第に熱が出る前の状態に戻っていったのだった。
 ただし、熱が出た時に飲んだ薬の後遺症なのか、声が出にくくなる症状が出ていた。
 少し掠れた声ではあったが、死なずに済んだと思えば何ということはなかった。
 その後、完全に回復したミリアリアは、書庫通いを再開していた。
 しかし、次第に視力が落ちていき、十一歳になるころには、何も見えなくなっていたのだ。
 薄らと、太陽の強い光は感じられるものの、視界の殆どは真っ暗な世界へと黒く染められてしまっていた。
 更には、声も失ってしまっていた。最初は掠れていた声が次第に出しにくくなり、最後には声も発せられなくなってしまったのだった。
 
 ミリアリアは、自分がこの場所で安穏と暮らしていける理由を理解していた。
 他国との交渉材料としての価値しかないこの身に欠陥があることが知られれば、生かす価値などないと判断されることは明白だった。
 だから、誰にもこの欠陥を知られるわけにはいかなかった。
 
 しかし、常に共に居るセイラには初期症状のうちに異変を知られてしまっていた。
 当初セイラは、ミリアリアの状態を泣きながら悲しんでくれたのだ。そして、今後のことを考えて、完全に声が出せなくなった後の意思の伝達方法について一緒になって考えてくれたのだった。
 その結果、声の代わりに鈴を鳴らすことで意思を伝えるようになったのだった。
 目については、部屋から出ないという方法で凌ぐこととなった。
 ただ、頭の中に書庫で記憶した王宮の見取り図があったため、歩き回れなくもなかったが、イレギュラーな出来事が起こったときに対処できる自信が無かったミリアリアは、部屋に籠るという選択肢を選んだのだった。
 
 
 その後、ミリアリアの置かれた状況も相まって、体の欠陥を気付かれることなく十六歳の誕生日を迎えたのだった。


感想 182

あなたにおすすめの小説

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。