21 / 97
本編
第四章 皇帝の初恋(1)
時は少し遡る。
テンペランス帝国の皇帝、ジークフリート・テンペランスは、宰相のセドルに言われた言葉から、自分の気持ちを確かめるため、執務室を飛び出していた。
ジークフリートは、足早に離宮の奥まった場所にある小屋に向かっていた。
花のような微笑みで、いつもジークフリートを迎えてくれる美しい少女を思うと、ジークフリートの足取りは自然と軽いものとなっていた。
小屋にたどり着いた時、ミリアリアはいつもの木の根元でうたたねをしていたのだ。
その可愛らしい寝顔を見たジークフリートは、起こすのは忍びないと思いつつも、ミリアリアの元を去ることはしなかった。
木にもたれるように眠るミリアリアの横に座ったジークフリートは、ミリアリアを横にさせて自分の膝を枕にさせたのだ。
すやすやと眠るミリアリアの触り心地のいい髪を梳きながら寝顔を見ていたジークフリートは、自然と小さな唇に視線が吸い寄せられていた。
気が付くと、指先でその小さなさくらんぼのような唇に触れていたのだ。
指先に感じる柔らかさに喉を鳴らすジークフリートは、すやすやと眠るミリアリアの額にそっと口付けてから言ったのだ。
「ミリーちゃんは、本当に可愛いなぁ。俺の部屋に連れ帰って閉じ込めてしまいたいよ。なんてね。そんなこと許されないけどね」
無意識にそんな言葉が口を突いて出ていたのだ。
口から出た言葉の意味を考える前にミリアリアが寝返りを打ってジークフリートの腹に顔を向けてきた時は、鼓動が高鳴ったが、それよりもミリアリアから膝枕を提案されたことにジークフリートは心が浮き立つのを感じたのだ。
そして、柔らかい太腿に頭を預けたジークフリートは、ドキドキと早いリズムで鼓動を刻む胸について考えていた。
(甘く柔らかいミリーという少女の存在……。俺は、この子をどうしたいのだろう? 守りたいと思うし、毎日可愛い笑顔を見に会いに来たいくらいだ。いや、ミリーには常に俺の傍にいて欲しいと思う。抱きしめて、腕の中に閉じ込めてしまいたいとも思う。これは、庇護欲なのか? いや、それだけじゃない。ただの庇護欲なら、この子の唇に触れたいなどと思うはずがない。なら、この気持ちは何なのだ? そうか、恋情……。俺は、ミリーに恋をしているのか……。好きだから守りたいし、抱きしめてキスをしたい。ああ、そうか。そういうことか……)
自分の中の気持ちに名前を付け終わったジークフリートは、そっと目を閉じて、愛しい少女の存在を感じることに集中した。
そして、ジークフリートは決めたのだ。
ミリアリアに気持ちを伝えることを。そして、思いが通じた時には、妻に迎えようと。
しかし、そこでジークフリートは気が付いたのだ。
この少女のことについて何も知らないという事実に。
ミリアリアは、いつも何も言わずに微笑んでジークフリートを迎えてくれたが、ただそれだけだった。
一緒に過ごした時間を思い出し、ミリアリアから淡い好意を感じなくもなかったが、自分と同じ気持ちでいてくれているとは断言できなかったのだ。
それに、思いが通じたとして、平民の少女を王宮に入れるには、様々な手続きが必要となるのだ。
皇帝権限で何もかも踏み倒す手もなくもないが、そうするとミリアリアに肩身の狭い思いをさせてしまうことを考えると、正規の手続きを踏む必要があったのだ。
そこまで考えたジークフリートは、ミリアリアを養女として受け入れさせるに値する家を決める必要もあったため、ミリアリアの元を去った後にそう急に動き始めたのだった。
それは、深夜に差し掛かる時間にだった。
夕暮れ時にミリアリアの調査をするように命じられていたセドルが調査結果をもってジークフリートの元に現れたのだ。
自室の机で資料を読んでいたジークフリートは、セドルを労った後に調査結果を受け取った。
文字を目で追っていたジークフリートの表情は、徐々に険しくなっていき、読み終わったころには、傍に控えていたセドルの顔色は真っ青になり倒れる寸前の状態になっていたのだ。
テンペランス帝国の皇帝、ジークフリート・テンペランスは、宰相のセドルに言われた言葉から、自分の気持ちを確かめるため、執務室を飛び出していた。
ジークフリートは、足早に離宮の奥まった場所にある小屋に向かっていた。
花のような微笑みで、いつもジークフリートを迎えてくれる美しい少女を思うと、ジークフリートの足取りは自然と軽いものとなっていた。
小屋にたどり着いた時、ミリアリアはいつもの木の根元でうたたねをしていたのだ。
その可愛らしい寝顔を見たジークフリートは、起こすのは忍びないと思いつつも、ミリアリアの元を去ることはしなかった。
木にもたれるように眠るミリアリアの横に座ったジークフリートは、ミリアリアを横にさせて自分の膝を枕にさせたのだ。
すやすやと眠るミリアリアの触り心地のいい髪を梳きながら寝顔を見ていたジークフリートは、自然と小さな唇に視線が吸い寄せられていた。
気が付くと、指先でその小さなさくらんぼのような唇に触れていたのだ。
指先に感じる柔らかさに喉を鳴らすジークフリートは、すやすやと眠るミリアリアの額にそっと口付けてから言ったのだ。
「ミリーちゃんは、本当に可愛いなぁ。俺の部屋に連れ帰って閉じ込めてしまいたいよ。なんてね。そんなこと許されないけどね」
無意識にそんな言葉が口を突いて出ていたのだ。
口から出た言葉の意味を考える前にミリアリアが寝返りを打ってジークフリートの腹に顔を向けてきた時は、鼓動が高鳴ったが、それよりもミリアリアから膝枕を提案されたことにジークフリートは心が浮き立つのを感じたのだ。
そして、柔らかい太腿に頭を預けたジークフリートは、ドキドキと早いリズムで鼓動を刻む胸について考えていた。
(甘く柔らかいミリーという少女の存在……。俺は、この子をどうしたいのだろう? 守りたいと思うし、毎日可愛い笑顔を見に会いに来たいくらいだ。いや、ミリーには常に俺の傍にいて欲しいと思う。抱きしめて、腕の中に閉じ込めてしまいたいとも思う。これは、庇護欲なのか? いや、それだけじゃない。ただの庇護欲なら、この子の唇に触れたいなどと思うはずがない。なら、この気持ちは何なのだ? そうか、恋情……。俺は、ミリーに恋をしているのか……。好きだから守りたいし、抱きしめてキスをしたい。ああ、そうか。そういうことか……)
自分の中の気持ちに名前を付け終わったジークフリートは、そっと目を閉じて、愛しい少女の存在を感じることに集中した。
そして、ジークフリートは決めたのだ。
ミリアリアに気持ちを伝えることを。そして、思いが通じた時には、妻に迎えようと。
しかし、そこでジークフリートは気が付いたのだ。
この少女のことについて何も知らないという事実に。
ミリアリアは、いつも何も言わずに微笑んでジークフリートを迎えてくれたが、ただそれだけだった。
一緒に過ごした時間を思い出し、ミリアリアから淡い好意を感じなくもなかったが、自分と同じ気持ちでいてくれているとは断言できなかったのだ。
それに、思いが通じたとして、平民の少女を王宮に入れるには、様々な手続きが必要となるのだ。
皇帝権限で何もかも踏み倒す手もなくもないが、そうするとミリアリアに肩身の狭い思いをさせてしまうことを考えると、正規の手続きを踏む必要があったのだ。
そこまで考えたジークフリートは、ミリアリアを養女として受け入れさせるに値する家を決める必要もあったため、ミリアリアの元を去った後にそう急に動き始めたのだった。
それは、深夜に差し掛かる時間にだった。
夕暮れ時にミリアリアの調査をするように命じられていたセドルが調査結果をもってジークフリートの元に現れたのだ。
自室の机で資料を読んでいたジークフリートは、セドルを労った後に調査結果を受け取った。
文字を目で追っていたジークフリートの表情は、徐々に険しくなっていき、読み終わったころには、傍に控えていたセドルの顔色は真っ青になり倒れる寸前の状態になっていたのだ。
あなたにおすすめの小説
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。