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本編
第四章 皇帝の初恋(1)
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時は少し遡る。
テンペランス帝国の皇帝、ジークフリート・テンペランスは、宰相のセドルに言われた言葉から、自分の気持ちを確かめるため、執務室を飛び出していた。
ジークフリートは、足早に離宮の奥まった場所にある小屋に向かっていた。
花のような微笑みで、いつもジークフリートを迎えてくれる美しい少女を思うと、ジークフリートの足取りは自然と軽いものとなっていた。
小屋にたどり着いた時、ミリアリアはいつもの木の根元でうたたねをしていたのだ。
その可愛らしい寝顔を見たジークフリートは、起こすのは忍びないと思いつつも、ミリアリアの元を去ることはしなかった。
木にもたれるように眠るミリアリアの横に座ったジークフリートは、ミリアリアを横にさせて自分の膝を枕にさせたのだ。
すやすやと眠るミリアリアの触り心地のいい髪を梳きながら寝顔を見ていたジークフリートは、自然と小さな唇に視線が吸い寄せられていた。
気が付くと、指先でその小さなさくらんぼのような唇に触れていたのだ。
指先に感じる柔らかさに喉を鳴らすジークフリートは、すやすやと眠るミリアリアの額にそっと口付けてから言ったのだ。
「ミリーちゃんは、本当に可愛いなぁ。俺の部屋に連れ帰って閉じ込めてしまいたいよ。なんてね。そんなこと許されないけどね」
無意識にそんな言葉が口を突いて出ていたのだ。
口から出た言葉の意味を考える前にミリアリアが寝返りを打ってジークフリートの腹に顔を向けてきた時は、鼓動が高鳴ったが、それよりもミリアリアから膝枕を提案されたことにジークフリートは心が浮き立つのを感じたのだ。
そして、柔らかい太腿に頭を預けたジークフリートは、ドキドキと早いリズムで鼓動を刻む胸について考えていた。
(甘く柔らかいミリーという少女の存在……。俺は、この子をどうしたいのだろう? 守りたいと思うし、毎日可愛い笑顔を見に会いに来たいくらいだ。いや、ミリーには常に俺の傍にいて欲しいと思う。抱きしめて、腕の中に閉じ込めてしまいたいとも思う。これは、庇護欲なのか? いや、それだけじゃない。ただの庇護欲なら、この子の唇に触れたいなどと思うはずがない。なら、この気持ちは何なのだ? そうか、恋情……。俺は、ミリーに恋をしているのか……。好きだから守りたいし、抱きしめてキスをしたい。ああ、そうか。そういうことか……)
自分の中の気持ちに名前を付け終わったジークフリートは、そっと目を閉じて、愛しい少女の存在を感じることに集中した。
そして、ジークフリートは決めたのだ。
ミリアリアに気持ちを伝えることを。そして、思いが通じた時には、妻に迎えようと。
しかし、そこでジークフリートは気が付いたのだ。
この少女のことについて何も知らないという事実に。
ミリアリアは、いつも何も言わずに微笑んでジークフリートを迎えてくれたが、ただそれだけだった。
一緒に過ごした時間を思い出し、ミリアリアから淡い好意を感じなくもなかったが、自分と同じ気持ちでいてくれているとは断言できなかったのだ。
それに、思いが通じたとして、平民の少女を王宮に入れるには、様々な手続きが必要となるのだ。
皇帝権限で何もかも踏み倒す手もなくもないが、そうするとミリアリアに肩身の狭い思いをさせてしまうことを考えると、正規の手続きを踏む必要があったのだ。
そこまで考えたジークフリートは、ミリアリアを養女として受け入れさせるに値する家を決める必要もあったため、ミリアリアの元を去った後にそう急に動き始めたのだった。
それは、深夜に差し掛かる時間にだった。
夕暮れ時にミリアリアの調査をするように命じられていたセドルが調査結果をもってジークフリートの元に現れたのだ。
自室の机で資料を読んでいたジークフリートは、セドルを労った後に調査結果を受け取った。
文字を目で追っていたジークフリートの表情は、徐々に険しくなっていき、読み終わったころには、傍に控えていたセドルの顔色は真っ青になり倒れる寸前の状態になっていたのだ。
テンペランス帝国の皇帝、ジークフリート・テンペランスは、宰相のセドルに言われた言葉から、自分の気持ちを確かめるため、執務室を飛び出していた。
ジークフリートは、足早に離宮の奥まった場所にある小屋に向かっていた。
花のような微笑みで、いつもジークフリートを迎えてくれる美しい少女を思うと、ジークフリートの足取りは自然と軽いものとなっていた。
小屋にたどり着いた時、ミリアリアはいつもの木の根元でうたたねをしていたのだ。
その可愛らしい寝顔を見たジークフリートは、起こすのは忍びないと思いつつも、ミリアリアの元を去ることはしなかった。
木にもたれるように眠るミリアリアの横に座ったジークフリートは、ミリアリアを横にさせて自分の膝を枕にさせたのだ。
すやすやと眠るミリアリアの触り心地のいい髪を梳きながら寝顔を見ていたジークフリートは、自然と小さな唇に視線が吸い寄せられていた。
気が付くと、指先でその小さなさくらんぼのような唇に触れていたのだ。
指先に感じる柔らかさに喉を鳴らすジークフリートは、すやすやと眠るミリアリアの額にそっと口付けてから言ったのだ。
「ミリーちゃんは、本当に可愛いなぁ。俺の部屋に連れ帰って閉じ込めてしまいたいよ。なんてね。そんなこと許されないけどね」
無意識にそんな言葉が口を突いて出ていたのだ。
口から出た言葉の意味を考える前にミリアリアが寝返りを打ってジークフリートの腹に顔を向けてきた時は、鼓動が高鳴ったが、それよりもミリアリアから膝枕を提案されたことにジークフリートは心が浮き立つのを感じたのだ。
そして、柔らかい太腿に頭を預けたジークフリートは、ドキドキと早いリズムで鼓動を刻む胸について考えていた。
(甘く柔らかいミリーという少女の存在……。俺は、この子をどうしたいのだろう? 守りたいと思うし、毎日可愛い笑顔を見に会いに来たいくらいだ。いや、ミリーには常に俺の傍にいて欲しいと思う。抱きしめて、腕の中に閉じ込めてしまいたいとも思う。これは、庇護欲なのか? いや、それだけじゃない。ただの庇護欲なら、この子の唇に触れたいなどと思うはずがない。なら、この気持ちは何なのだ? そうか、恋情……。俺は、ミリーに恋をしているのか……。好きだから守りたいし、抱きしめてキスをしたい。ああ、そうか。そういうことか……)
自分の中の気持ちに名前を付け終わったジークフリートは、そっと目を閉じて、愛しい少女の存在を感じることに集中した。
そして、ジークフリートは決めたのだ。
ミリアリアに気持ちを伝えることを。そして、思いが通じた時には、妻に迎えようと。
しかし、そこでジークフリートは気が付いたのだ。
この少女のことについて何も知らないという事実に。
ミリアリアは、いつも何も言わずに微笑んでジークフリートを迎えてくれたが、ただそれだけだった。
一緒に過ごした時間を思い出し、ミリアリアから淡い好意を感じなくもなかったが、自分と同じ気持ちでいてくれているとは断言できなかったのだ。
それに、思いが通じたとして、平民の少女を王宮に入れるには、様々な手続きが必要となるのだ。
皇帝権限で何もかも踏み倒す手もなくもないが、そうするとミリアリアに肩身の狭い思いをさせてしまうことを考えると、正規の手続きを踏む必要があったのだ。
そこまで考えたジークフリートは、ミリアリアを養女として受け入れさせるに値する家を決める必要もあったため、ミリアリアの元を去った後にそう急に動き始めたのだった。
それは、深夜に差し掛かる時間にだった。
夕暮れ時にミリアリアの調査をするように命じられていたセドルが調査結果をもってジークフリートの元に現れたのだ。
自室の机で資料を読んでいたジークフリートは、セドルを労った後に調査結果を受け取った。
文字を目で追っていたジークフリートの表情は、徐々に険しくなっていき、読み終わったころには、傍に控えていたセドルの顔色は真っ青になり倒れる寸前の状態になっていたのだ。
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