聖女様から「悪役令嬢竹生える」と言われた男爵令嬢は、王太子の子を身籠ってしまったので、全力で身を隠すことにしました。

バナナマヨネーズ

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第十話 結婚

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 リビングにジグが戻ると、その場は微妙な空気が漂っていたのだ。
 残してしまったイヴァンが心配になったジグは、小さな体を抱きしめるのだ。
 
「イヴァン。ただいま。いい子にしてた?」

「うん。イヴいいこしてた。おじちゃが、わるいしないか、みはってた!!」

 イヴァンの言いように、ジグの後をついてきたオーエンが噴き出していた。
 しかし、ジグはそんなことを気にするそぶりもなく、イヴァンの頭を撫でたのだ。
 
「そっか。もう遅い時間だし、お風呂に入って寝ましょうね」

「うん。まぁま、あひるさんもいっしょにはいる~」

「そうだね。それじゃ、準備しようか」

「は~い」

 イヴァンが自分のパジャマを取りに行くのを見送ったジグは、ユーリたちを振り向いて言うのだ。
 
「もし……、よろしければ、今日はここに泊まっていってください……。それで、少しお話をさせて欲しいことが……」

 ジグがそう言うと、ユーリが答える前にオーエンが答えたのだ。
 
「おう。それじゃ、厄介になるよ。その前に、今日泊まる予定だった家の奥さんに、ジグリールの家で厄介になるって伝えてくるから、ジグリールは、息子とゆっくり風呂に入ってろな。てことで、ユーリ、行くぞ」

「えっ?」

「おいおい。俺らがいたら、ジグリールが風呂に入りづらいだろうが。そういうところ、本当にお前は駄目だなぁ」

 呆れたようにそう言うオーエンをど突くようにしてユーリは、家の外に出たのだ。
 そして、赤くなった顔を隠すように言い捨てたのだ。

「俺たちが出たら、ちゃんと鍵を掛けろ。時間をおいてまた来る。オーエン、行くぞ!!」

「じゃ、ジグリール。また後でな」

 二人の後ろ姿を見送ったジグは、覚悟を決めた後に、イヴァンと風呂に入ったのだ。
 そして、イヴァンを寝かしつけたころ、戻ってきたユーリたちを家に招き入れたのだ。
 

 二人にお茶を出したジグは、少し悩んだ後に口を開いていた。
 
「オーエン様から聞きました。殿下の妻が書類上わたしになっているというおかしな話をです……」

 ジグがそう問いかけると、お茶を思いっきりユーリが噴き出していた。
 まさかそんなことになるとは思っていなかったジグは、慌ててタオルをユーリに渡していた。
 渡されたタオルで口元を拭ったユーリは、隣に座るオーエンを睨みつけた後に、大きなため息を吐いたのだ。
 
「そうだ……。はぁ……。こんなの格好悪いよな。よし! ジグリール。オーエンのことはデカい置物だと考えろ」

「えっ?」

 どう見ても、オーエンを置物と考えられないジグは、困惑気味にユーリとオーエンを交互に見つめる。しかし、オーエンは、諦めたように肩を竦めるだけだった。
 しかし、そんなジグを他所に、ユーリはジグの側に移動して、その両手を取って真剣な声で言うのだ。
 
「ジグリール。君を愛している」

「え? あ、あいし? え?」

 混乱するジグに構うことなく、ユーリは言葉を連ねるのだ。
 
「君が十二の時、魔法教育のために王宮に来た時、一目惚れだった。だけど、俺は自分で言うのもあれだが、いろいろと素直になれず、君につれない態度を取ってしまった。俺は、そのことを後悔していた。魔王討伐後、君に気持ちを告げようと思っていたのに……。目が覚めたら君が消えていた……。だから、無茶だと知りつつも、書類上の君と結婚した……」

「えっ? 言っている意味が良く分からないんですけど……」

 目をぱちくりとするジグの両手を握ったユーリは、頬を赤くして言うのだ。
 
「だから、俺は君が好きすぎて、逃げられたことがショックで、権力を使って、書類婚をしたんだ!!」

 ユーリのとんでもない告白に、ジグがどう反応していいのか分からないでいると、置物だったはずのオーエンが爆笑のあまり、呼吸困難に陥っていたが、それを助けられるものはその場にはいなかったのだった。
 
 
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