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第十九話 sideラヴィリオ

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「ティアリア。俺の話、少し長くなるけど聞いてくれるか?」
 
「はい」

 俺がそう言うと、ティアリアは、少し驚いたような仕草で顔を上げていた。
 その仕草が可愛らしく感じたが、いつもの調子で軽く済ませる気はなかった。
 彼女が俺との出会いを覚えていてくれたことに、どうしようもない嬉しさと、罪悪感が俺の中でせめぎ合う。
 つい、長年の癖でティアリアの頬をベール越しに右手で触れてしまっていた。
 
「母上の趣味でドレスなんかを着せられていたことが原因で少しだけ女性不振になったんだ」

 これは本当の話だが、女性不振になった事が切っ掛けで、女性を見ると冷たくし、話すことも嫌だった時期があった。
 しかし、母上の着せ替え遊びはそこまで長い間続くことはなかった。
 だが、幼少期に感じた苦痛は成長してもひしひしと感じ続けていた。
 女性の好む容姿をしていたためなのか、見た目を褒められることがとても嫌だった。
 そして、そんな苦痛を感じる中、俺を次期皇帝に推そうとする派閥まで現れたのは最悪だった。
 俺は帝位なんて欲しくもなかった。
 帝位は兄上が継ぐべきだと思っていたからだ。
 そんな中、俺が十二になった年に転機がやってきたのだ。
 それは、公務の一環としてディスポーラ王国に行く機会が訪れたことだ。
 その公務自体はとても簡単な内容だったと思う。
 早々に仕事を片付けた俺は、退屈を紛らわすために王城をぶらぶらと歩いていた。
 
 暇そうに、珍しくもない庭園を歩いている時だった。
 貴族の令嬢の集団にあったのは。
 あの令嬢の集団は、俺を見るなりものすごい勢いで俺を取り囲んだ。
 そして、顔や頭を撫でまわし、可愛いという呪いの言葉を口にしたのだ。
 十二になったとはいえ、年上の令嬢たちをうまくあしらうことなど出来なかった俺は、通り魔に合ったかのような気分で俺で遊び終えた令嬢たちの背を見送った。
 
 母上に遊ばれていたころと何も変わっていない自分に腹が立った俺は、走り出していた。
 無我夢中で走って、どこか人気のない場所までたどり着いていた。
 そこで、悔し泣きをしていると、俺に声を掛ける少女が現れたのだ。
 
「綺麗……、天使さん?」

 その言葉に俺は、再び怒りがこみ上げるのを感じた。
 無礼な少女を睨みつけながらぶっきら棒に言葉をぶつけていた。
 
「なんだお前?!」

「えっと……、天使さんはどうして泣いているの?」

 俺の不機嫌さが全く伝わっていないのか、それとも頭がおかしいのか、その少女は俺の苛立ちに構うことなく自分の中の疑問を俺に聞くのだ。
 
「お前には関係ない!!」

「でも……、天使さんのことなんだか放っておけなくて……」 

 怒りを抑えることもしない俺に対して、恥ずかしげもなく、臆することもなくそう言い放ったのだ。
 当時の俺は、少女からの天使扱に途轍もない恥ずかしさを感じていた。
 自分でも分かるくらい顔が赤くなっていたと思う。
 恥ずかしさと、怒りの感情が爆発した俺は、少女に手を出してしまったのだ。
 
「うるさい!! それに俺は天使なんかじゃない!」

 そう言って、無抵抗の少女を両手で力いっぱい押してしまったのだ。
 
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