殺戮人形のわたしが敵国の黒騎士様の最愛になるまでの話

バナナマヨネーズ

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第二話 魔女の娘

 ルーマニア王国のとある森の中。
 今年十三歳になるティアナは、大好きな母親のために森イチゴを籠いっぱいに摘んでいた。
 ティアナとその母親マリカは、魔女の家系に生まれた。
 ルーマニア王国で魔法使いは珍しくない存在ではあったが、ティアナの祖先の魔女がとある魔法に携わったことが原因で母子は隠れるように暮らしていたのだ。
 
「アルゥヒ、モリノナカ、クマサンニ、デアアタ~」

 ティアナは、物心つく前から見ている不思議な夢の中で覚えた歌を口ずさみながら、楽しそうに森イチゴを摘んでいく。
 
「コノォキ、ナンノキ、キニナルキ~、フフフフフ~ンフフ、フフフフフ~」

 不思議なリズムとうろ覚えの歌詞を適当に口ずさんでいたティアナは、ふと空を見上げた。

「いい天気だなぁ」

 そう呟いたティアナは、目を細めた。
 空を見上げると心に思い浮かぶ光景がティアナにはあった。
 自分の目で見た訳ではなく、それでも自分の目で見た様に感じる光景だ。
 誰かの隣で見上げた空は、驚くほど星に近く、そして美しいものだった。
 星が尾を引き、円を描くように空を回る。それはとても不思議な光景だった。
 
 
 ティアナには前世の記憶のようなものがあった。
 しかし、それはとても曖昧な記憶で、印象的な場面を断片的にしか覚えていなかった。
 それでも、こことは全く異なる世界の記憶はティアナにとっては、とても面白いものだった。
 中でも、前世の自分と同い年の少年との記憶を特に覚えていた。
 前世のティアナは、前世の世界的に言うと『モブ中のモブ』と呼ばれる、立ち位置の人間だったようだ。
 自分のことはよく覚えていないが、同い年の少年のことは自分の前世以上に記憶に残っていた。
 背が高く、力持ちで、優しく、格好いい。
 前世のティアナは、きっとその少年のことが好きだったのだろう。
 何故そう思ったのかというと、すごく分かりやすい記憶の残り具合からの想像だ。
 なんせ、前世の記憶はその少年のことで埋め尽くされていたのだ。
 記憶を掘り返すと、必ずと言っていいほど、前世の自分らしき少女の隣には少年がいた。
 少し低い優しい声。普段はキリリとした涼やかな目元は、ふとした瞬間に甘やかな眼差しに変わる。
 その視線と目が合うと、実際に視線が合った訳でもないのにティアナは、胸をドキドキさせてしまっていた。
 
 つまり恋してしまっていたのだ。
 
 生まれてこの方、森暮らしが今の今まで続いていた。
 ティアナの知る唯一の男性と言っても過言ではなかった。
 だからという訳ではないが、記憶の中の少年に興味を抱き、それがいつしか恋に変わっていてもおかしなことではないだろう。
 
 
 森イチゴを摘み終えたティアナは、再び不可思議な歌を口ずさみながら家路を急ぐ。
 摘んだ森イチゴを洗って、水気を切る。事前に用意していたパン生地に自家製のカスタードクリームと摘んできた森イチゴを一緒に包んでオーブンに入れる。
 パンが焼きあがるまで家の中の掃除をしていると玄関の開く音が聞こえた。
 ティアナは、ぱっと顔を明るくさせて玄関に駆けだす。
 
「おかえりなさい!!」

 ティアナに声を掛けられたのは、母親のマリカだった。
 マリカは、ティアナを抱きしめて「ただいま」と言った。
 二人は台所に移動した後、今日あったお互いの出来事を交互に話し合う。
 そのうちに、パンが焼きあがっていた。
 
「お母さん。お誕生日おめでとう!!」

 そう言って、ティアナは焼き立ての森イチゴの入ったパンをマリカに笑顔で差し出した。
 マリカは、目を丸くさせた後に優しい笑みを浮かべる。
 
「ティアナ。ありがとう。うん。すごく美味しそうね」

「ふふっ。夢の中で作り方を見たからすごく美味しいはずだよ」

 ティアナは、マリカに前世の記憶のことを話していた。
 最初は驚いたマリカだったが、そう言ったことも無くはないだろうと、すぐに受け入れていた。
 マリカがすぐに受け入れられたのには、ティアナの祖先にあたる魔女が関わった魔法に大きく関係していた。
 しかし、マリカはまだ十三歳のティアナに祖先のやらかしについて教えるか迷っていた。
 もう少し大きくなった時に教えようとは思っていたが、その機会が訪れることが無くなることをこの時のマリカは考えてもいなかったのだった。
 
 
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