殺戮人形のわたしが敵国の黒騎士様の最愛になるまでの話

バナナマヨネーズ

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第四話 手遅れ

 マリカを出迎えるべく玄関の扉を開けようとしたティアナは、違和感を覚えて動きを止めていた。
 
(あれ? おかしくない? だって、お母さんなら扉を叩くことなんてしないで中に入るよね……)

 そう考えたティアナは、顔を青くさせて震えながら扉から後退った。
 
(大丈夫……大丈夫なんだから。だって、家にはお母さんがわたしとお母さん以外は入れない様に魔法を掛けてるって……)

 そう思うも、体の震えは止まらなかった。
 玄関の扉から距離を取ったところで、外側から地を這う様に低い声がのんびりとした口調で言うのだ。
 
「あれぇ? おかしいなぁ。気配はするんだけどなぁ」

 のんびりとした口調でそう言いつつも玄関の扉を叩く力は強まる一方だった。
 
 ドンドン!! バンバン!! ゴッ!!!
 
「ちっ! 仕方ないなぁ」

 場違いなほどにのんびりした口調でそう言った後だった。
 マリカが掛けていたはずの魔法が消えていたのだ。
 それと同時にキーっと玄関の扉が軋みながら開いたのだ。
 
 ティアナは腰を抜かし、ただ見ていることしかできなかった。
 
 薄く開いた玄関の扉の隙間から、暗闇の中から覗いているような不気味な瞳がティアナを見つめながら言ったのだ。
 
「いるじゃん。もう、君が素直に開けてくれないから、とおぉおおっても貴重な魔法道具が六個も無駄になっちゃったじゃないか……。ヒヒッ! この魔道具を六個……。ここに住んでいる魔法使いは相当な手練れだってことだよね。ヒヒヒッ!!」

 そう、不気味に微笑む人物は、無遠慮にティアナの細い手首を掴んだ。
 そして、恐怖に歪む空色の瞳をじっと見つめて愉快そうに顔を歪める。
 
「ヒヒヒッ! かぁわいいぃ。怯えちゃって。ねぇ、この家に魔法を掛けたのは、君のお父さんかなぁ? それともお母さんかなぁ?」

 不気味な侵入者に怯えるティアナの反応を楽しみながらそう呟いた人物は、嬉々とした声音で言い放つ。
 
「お帰りぃ。マァマァ~。待っていたよぉ?」

「ティアナ!! お前!! 今すぐにティアナを解放しなさい!!」

 そう言ったマリカが魔法の杖を取り出しながら男を威嚇したが、男は愉快そうにマリカを振り返りながらニタリと笑う。
 
「そんなこと言って。いいのかなぁ?」

 男は、そう言った後怯えるティアナの掴んでいた右手を舐めたのだ。
 
「ああ。まだ成熟してない女の子の手ぇ。美味しいなぁ~~」

「ひっ!! やぁ……。おかあさん……。こわい……」

「ヒヒッ!!」

「やめて頂戴!!」

「あぁん? 」

「やめてください。お願いします。娘を……」

 そう言ったマリカは、杖を放り投げて床に頭を擦りつけるようにして懇願した。
 それを見ていた男は、ヒヒッ! と不気味に笑った後、ティアナの手をしゃぶりながらマリカに近づいた。
 そして、何かを床に放り投げた後にマリカの前髪を鷲掴み言ったのだ。

「娘の貞操が大事ならそれを着けろ。そうすれば、娘には・・・手を出さないと約束する」

 そう言われたマリカは、男の言うそれが何か理解したうえでそれに手を伸ばしたのだ。
 
 ガチャリ……。
 硬い金属の嵌る音がマリカの首から聞こえた。
 マリカの首には武骨な首輪が嵌っていたのだ。それを見た男は、ティアナを投げ捨てて、マリカの掴んだ髪を強く引き寄せて何かの呪文を呟く。
 男が呪文を呟き終わる一瞬。マリカは、ティアナの手を強く握った。
 
「ヒヒヒッ!! 魔法兵一匹かぁくほぉ~」

 男のそんな愉快そうな声を聴きながら、ティアナは理解したのだ。
 逃げるのには遅すぎたのだということに。
 そして、自分の所為で大好きな母親が魔法兵として戦争に送られることになるという事実に。
 そんな母親の足かせとして自分が生かされたという事実に。
 ティアナは呆然とするしかなかった。
 
 
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