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第八話 心は砕け散る
ふらふらとした足取りで進むティアナは、群青色のローブをはためかせた。
上官が口に出した言葉が頭の中で何度も繰り返された。
「可哀相にな……。母親がすでに死んでいることも知らされずに前線に立たされ続けて……。はぁ、早くこの戦争が―――――――――」
マリカが死んだ。
その言葉は、ティアナの心をずたずたに引き裂くには十分すぎる言葉だった。
ティアナは、頭の中が真っ白になっていた。
ただただ、マリカの死という言葉が重くのしかかり、どうしたらいいのか考えられなかった。
間に合わなかったのだ。マリカに掛けられた魔法を解く方法は、もうすぐ完成しそうだった。
魔法が完成したら、マリカを連れ出して、どこか遠くに逃げて……。
それが全部無駄なことだった。
沢山の帝国の兵士を戦線離脱させ、殺戮人形と揶揄され続けた結果がこれだとは……。
笑えもしない。
「ああ……。どうして……。なんで……。わたしは……わたしは今まで何のために……」
戦場に似つかわしくもない、とぼとぼとした足取りでティアナは、救いを求めるように歩き続ける。
「疲れた……。もう、疲れちゃったよ……」
マリカを失った今、ティアナには何もなかった。
たった一人の肉親。
マリカは、ティアナのすべてだった。
ぼんやりと歩き続けていたティアナだったが、その時確かに希望を見たのだ。
遠くに見える一際黒く輝く、黒騎士の戦う姿に一つの希望を見てしまったのだ。
戦場で戦い続けて二年。
彼は、ティアナにとって最強の敵だった。
名前も顔も知らない。それでも彼の実力だけは信じていた。
「そうだ……。彼に……彼に殺してもらおう……」
そう決めたティアナは無防備のまま黒騎士までの距離を詰めていた。
そんなティアナの存在に黒騎士も気が付く。
そして、戦場で出会ってから初めて、二人は近距離で顔を突き合わせたのだった。
とはいっても、黒騎士は漆黒の甲冑に身を包んでいるために素顔を見ることは出来なかったが。
流石の黒騎士。
何かの罠を考えつつも長剣を正眼に構え、隙など見せなかった。
のは僅かな時間だった。
初めて近くで見るティアナの幼さの残る顔を見た黒騎士は、内心の動揺を面に出してしまっていた。
「あれが……群青の魔法使い……? 信じられない。まだ、子供じゃないか……」
黒騎士のそんな呟きは、一際強く吹いた風のせいでティアナに届くことはなかった。
しかし、強く吹いた風はティアナのローブのフードを吹き飛ばし、幼さの残るティアナの美しい顔を晒したのだ。
肌艶も悪く、ガリガリに痩せていても分かる美しい顔。
手入れの行き届いていない灰色の髪。
暗く澱んだ青色の瞳。
完璧なバランスで配置された顔のパーツは、美しすぎてまるで生きた人形のようだと、ティアナの素顔を見た兵士たちは思うのだ。
帝国の兵士の中で会いたくないルーマニア王国の魔法使いナンバーワンの称号を持つ通称群青の魔法使い。
その正体が見るからに栄養失調な幼く見える美少女だったことにその場の全員が困惑を隠せずにいた。
そして、帝国に所属する魔法使いたちは、ティアナの纏うローズに憧れの眼差しを向ける。
幾重もの複雑な魔法を付与された最強のローブ。
ティアナを最強たらしめた象徴のようなローブ。
そんなローブをティアナは、簡単に投げ捨てたと思った次の瞬間だった。
魔法使いたちは風になびき戦場を転がるローブに視線を向け見てはいなかったが、それ以外の人間はあっという間の一幕に息を呑んだ。
ティアナの片手が黒騎士に向かって伸ばされたのだ。
黒騎士は、反射的に正眼に構えた長剣を振り下ろしていた。
ティアナは、安堵した。
これでお母さんのところに行けると。
上官が口に出した言葉が頭の中で何度も繰り返された。
「可哀相にな……。母親がすでに死んでいることも知らされずに前線に立たされ続けて……。はぁ、早くこの戦争が―――――――――」
マリカが死んだ。
その言葉は、ティアナの心をずたずたに引き裂くには十分すぎる言葉だった。
ティアナは、頭の中が真っ白になっていた。
ただただ、マリカの死という言葉が重くのしかかり、どうしたらいいのか考えられなかった。
間に合わなかったのだ。マリカに掛けられた魔法を解く方法は、もうすぐ完成しそうだった。
魔法が完成したら、マリカを連れ出して、どこか遠くに逃げて……。
それが全部無駄なことだった。
沢山の帝国の兵士を戦線離脱させ、殺戮人形と揶揄され続けた結果がこれだとは……。
笑えもしない。
「ああ……。どうして……。なんで……。わたしは……わたしは今まで何のために……」
戦場に似つかわしくもない、とぼとぼとした足取りでティアナは、救いを求めるように歩き続ける。
「疲れた……。もう、疲れちゃったよ……」
マリカを失った今、ティアナには何もなかった。
たった一人の肉親。
マリカは、ティアナのすべてだった。
ぼんやりと歩き続けていたティアナだったが、その時確かに希望を見たのだ。
遠くに見える一際黒く輝く、黒騎士の戦う姿に一つの希望を見てしまったのだ。
戦場で戦い続けて二年。
彼は、ティアナにとって最強の敵だった。
名前も顔も知らない。それでも彼の実力だけは信じていた。
「そうだ……。彼に……彼に殺してもらおう……」
そう決めたティアナは無防備のまま黒騎士までの距離を詰めていた。
そんなティアナの存在に黒騎士も気が付く。
そして、戦場で出会ってから初めて、二人は近距離で顔を突き合わせたのだった。
とはいっても、黒騎士は漆黒の甲冑に身を包んでいるために素顔を見ることは出来なかったが。
流石の黒騎士。
何かの罠を考えつつも長剣を正眼に構え、隙など見せなかった。
のは僅かな時間だった。
初めて近くで見るティアナの幼さの残る顔を見た黒騎士は、内心の動揺を面に出してしまっていた。
「あれが……群青の魔法使い……? 信じられない。まだ、子供じゃないか……」
黒騎士のそんな呟きは、一際強く吹いた風のせいでティアナに届くことはなかった。
しかし、強く吹いた風はティアナのローブのフードを吹き飛ばし、幼さの残るティアナの美しい顔を晒したのだ。
肌艶も悪く、ガリガリに痩せていても分かる美しい顔。
手入れの行き届いていない灰色の髪。
暗く澱んだ青色の瞳。
完璧なバランスで配置された顔のパーツは、美しすぎてまるで生きた人形のようだと、ティアナの素顔を見た兵士たちは思うのだ。
帝国の兵士の中で会いたくないルーマニア王国の魔法使いナンバーワンの称号を持つ通称群青の魔法使い。
その正体が見るからに栄養失調な幼く見える美少女だったことにその場の全員が困惑を隠せずにいた。
そして、帝国に所属する魔法使いたちは、ティアナの纏うローズに憧れの眼差しを向ける。
幾重もの複雑な魔法を付与された最強のローブ。
ティアナを最強たらしめた象徴のようなローブ。
そんなローブをティアナは、簡単に投げ捨てたと思った次の瞬間だった。
魔法使いたちは風になびき戦場を転がるローブに視線を向け見てはいなかったが、それ以外の人間はあっという間の一幕に息を呑んだ。
ティアナの片手が黒騎士に向かって伸ばされたのだ。
黒騎士は、反射的に正眼に構えた長剣を振り下ろしていた。
ティアナは、安堵した。
これでお母さんのところに行けると。
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