勘違い令嬢の行動力が異常な件~愛しの貴方が男が好きだというのなら男にだってなってみせます~

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
2 / 17

第二話

しおりを挟む
 それから4年。
 月に一回程度、手紙を送るだけで一切帰国しなかったシユニナが、留学を終えて伯爵家に戻る日がやってきた。
 
 アガート伯爵に代々仕えているシエンミル男爵家の長男、カイド・シエンミル。そして、その妹のカレンは、シユニナの滞在先まで迎えに行く道すがら、思い出話に盛り上がっていた。
 
 
「ああ、シユニナ様に四年ぶりにお会いできる! きっと、さらにお美しく成長されているんでしょうね」

「そうだな」

「ええ! だけど、身長はお小さいままよ。だって、お小さいシユニナ様って、本当にお可愛らしいんだもの!!」

「ははっ。カレンは本当にシユニナ様が大好きだな」

「ええ! 世界一大好きですよ! 世界中が敵になったとしても私はシユニナ様の味方ですから!!」

「俺もだ」

 カイドとカレンは、黒髪黒目の美しい容姿をしていた。
 兄のカイドは、執事見習いとしてアガート伯爵家で働いていたが、シユニナが留学をする前は、彼女の護衛も勤めていたこともあり、そこそこに腕が立った。
 妹のカレンもまた、侍女としてアガート伯爵家で働いていた。
 もちろん、シユニナが留学する前は、彼女の専属侍女を務めていたのだが、シユニナは、誰も連れずにたった一人で留学してしまった。
 その間は、屋敷に仕える侍女の一人として働いていたが、シユニナが帰ってくるということで、彼女の専属侍女の座に復帰することとなったのだ。
 妹大好きなシュミットが仕事で迎えに行けない代わりに、屋敷を代表して迎えに行くこととなったのだ。
 
 その手紙を受け取ったシユニナは、すぐに断りの手紙を出したが、シュミットの涙で滲む長々しい手紙を読んで諦めて迎えを待つことになったのだ。
 
 そして、馬車で十日の道のりを馬車を急がせて進み、隣国までやってきたのだ。
 
 シユニナから教えられた滞在先に向かう二人は、少しだけ雲行きが怪しいと感じていた。
 滞在先として教えられていた場所は、隣国の騎士養成学校として知られる場所だったからだ。
 
「カイド……。おかしくない? さっき見えた看板によると、この先の建物は騎士養成学校の寮だって……」

「カレン……。何かがおかしいと俺も思う。だけど、シユニナ様から教えていただいた住所は、間違いなくこの先だ……」

 カイドとカレンは互いに顔を見合わせて顔色を青くさせる。
 そして同時に、シユニナの異常なほどの行動力を思い出してしまい胃が痛くなってくるのだ。
 
「まさかとは思うけど……」

「まさかなぁ……」

 二人は同時に思ってしまうのだ。
 
(私のシユニナ様ならありえなくもないかもしれない……)

(シユニナ様ならなくもないか……)

 お互いに口に出さずとも、同じことを想像していることが予想できた二人は、同時に大きな溜息を吐いていた。
 
 そして、騎士養成学校の寮にたどり着いた二人は、間違っていてくれと思いつつも寮の管理人に問い合わせたのだ。
 すると、管理人はにっこりと微笑んで言うのだ。
 
「ああ、アガートさんだね。部屋に案内するよ。いや~。アガートさんが行ってしまうの寂しいねぇ~。だけど、アガートさんの帰国後の活躍をここから応援しているよ!!」

 やけに馴れ馴れしい様子でそう話す管理人に案内された二人は、シユニナの部屋だという扉の前にたどり着いていた。
 
「アガートさ~ん。お迎えの人が来ましたよ~」

 管理人がそう声を掛けると中から明るい声が聞こえた。
 
「は~い」

 すぐに開いた扉から出て来たその人は、扉の外のカイドとカレンを見てにっこりと微笑んで言うのだ。
 
「わぁ~。カイド、カレン。久しぶりだね」

「…………」

「…………」

「二人ともどうしたの? ああ、ごめんね。長旅で疲れただろう? さあ、入って入って。お茶でもご馳走するね」

 そう言われたカイドとカレンは、真っ白な頭のまま招き入れられた部屋に入ったが、身動き一つできなかった。
 
「管理人さん。ちょっと休憩してから出るので、もう少しだけお願いしますね」

「ああ、アガートさんなら大歓迎だよ。ゆっくり休んでから出発でいいからね」

「ありがとう」

 管理人と和やかに会話をしたその人は、テキパキとお茶を淹れて、立ち尽くしたままのカイドとカレンに笑顔で言うのだ。
 
「ほらほら、座ってよ。お茶も淹れたから。疲れただろう?」

 カイドとカレンは、優しい笑みを浮かべるその人に向かって同時に言い放つのだった。
 
 
「「どちら様ですか?!」」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

処理中です...