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第八話
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「おかしい……」
シユニナが騎士団に入団して数日のことだった。
最初に所属していた第十三班の隊長から移動命令が下されたのは。
そして、命令があった移動先が副団長の雑務係だったことにシユニナは首を傾げるばかりだった。
それでも、最愛のミハエルの傍で仕事が出来ることが嬉しくて、最初に感じていた疑問もいつしか薄れていたのだ。
それでも、副団長として忙しい身のミハエルの仕事を減らすための雑務係なのに、現在のシユニナはその仕事がなくて非常に困っていたのだ。
「副団長様。お仕事を下さい。何でもいいので、お仕事を下さい」
シユニナがそう訴えてもミハエルは、淡々と言うのだ。
「今、君に振れる仕事がないんだ。だから、そこのソファーに座って休んでいなさい」
「いえ、そういう訳には……。それに、今副団長様がされているお仕事は、本来私がするべき雑務だと思うのですが……」
「いや、これくらいは俺が処理した方が早い。だから、シユは休んでいなさい。これは上官命令だ」
「…………」
騎士団に身を置くうえで、男になってしまったことを公表していないシユニナは、シユと名乗って騎士団に所属していた。
ミハエルの配下として配属されたものの、するべき仕事がないためシユニナは、どうしたものかと頭を抱えていたのだ。
しかし、このまま何もしないわけにはいかないと考えたシユニナはミハエルに許可を求める。
「それでは、訓練場に行ってまいります。よろしいですか?」
「だっ…………。はぁ、分かった。行ってきなさい。しかし、ほどほどのところで休むことを忘れないようにすることだ。シユは頑張りすぎるところがあるからな」
「はい!」
ミハエルから許可を得たシユニナは、訓練場に向かった。
そこには、今回の試験で入った同期の騎士がすでに訓練を始めていたのだ。
「おーい! 私も混ぜてください」
「おお、シユ! 久しぶりだな! 異動になってから訓練に顔出してなかったから心配してたんだ」
「あっ、シユ! 元気だったか? 副団長の部下は大変だって聞くからさ。俺たち心配してたんだよ」
「大変? 副団長様はとてもお優しいですよ? 全然大変じゃないです。むしろもっと仕事を振ってほしいくらいです!」
シユニナが、仕事の少なさの不満を同僚の騎士に愚痴っていると、近くにいた先輩騎士が信じられないとばかりにシユニナに言ったのだ。
「おいおい。そんな訳ないだろうが? 副団長は、騎士団内でも鬼だとか冷血漢だとか言われている男だぞ?」
「えっ? 全然! とてもお優しいです」
「信じられないな」
そんなやり取りとしていると、訓練所にいた教官騎士が手を叩いて間に入ってきた。
「はいはい。ここでは口を動かすのではなく、体を動かすこと」
教官騎士にそう釘を刺されてしまった一同は、深く頭を下げた後に、それぞれの訓練メニューに戻って行った。
教官騎士は、久しぶりに顔を出したシユニナの頭を撫でながら今日はどうするのかを聞いてきた。
「今日は、軽く走った後に素振りをしようと思います」
「分かった。しっかり準備運動をしてから走るようにな」
「はい。ありがとうございます」
教官騎士にお礼を言ったシユニナは、じっくり体を解した後に訓練場の周りを自分のペースで走り出した。
十分体が温まってきた後は、木刀で素振りを黙々と行う。
そんなシユニナに、先輩の一人が声を掛ける。
「おーい。手合わせするのに人数が足りないんだけど、付き合ってもらえないか?」
シユニナに断る理由はなかったので、喜んでその申し出を受ける。
お互いに木刀を合わせた後に、実戦さながらの手合わせが開始された。
互いに足捌きや、体捌きを駆使して相手に有効打を打たせないように警戒しつつ、数合木刀を合わせる。
カンカンカン!!
なんども木刀のぶつかり合う音が響く。
しかし、先輩騎士の方が実戦経験の差もあり、徐々に攻撃回数が増していき、シユニナは防戦一方になっていた。
何度目かの打ち合いをした時だった。
先輩騎士の打ち下ろしを受け止めきれなかったシユニナは、後ろによろめいていた。
そんな隙を見逃さなかった先輩騎士は、シユニナの足に自分の足をひっかけて態勢を崩させた後に、そのまま押し倒すようにして木刀を眼前に突きつけた。
地面に転がされたシユニナは、「参りました」と降参の声を上げる。
先輩騎士は、素直に負けを認めたシユニナに明るい笑みを見せた後に、手を差し出す。
「ほら」
「ありがとうございます」
転がっていたシユニナは、お礼を言いつつ伸ばされた手を借りてその身を起こす。
先輩騎士もシユニナを引き起こすために掴まれた手を思いっきり引いたのだ。
しかし、先輩騎士は、ムキムキのマッチョの見た目のシユニナは重いだろうと考えて思い切り手を強く引いたのだが、想像よりもシユニナが軽くて、その勢いのまま、シユニナと二人で地面を転がってしまうのだ。
「悪い……。力が強すぎたみたいだ」
「いいえ、こちらこそ、すみません?」
「はは! なんでお前が謝るんだ?」
「だって、先輩は親切で手を貸してくれたのに、私がとろくさい所為でこんなことに……」
「ははは! お前、面白いやつだな! それにそんな見た目でその軽さはちょっと心配だぞ? ちゃんと食っているか? 腰も細いな……」
「ふふっ……。くすぐったいですよ」
先輩を下敷きにした格好のままそんなやり取りをしていたシユニナと先輩騎士だったが、頭上からの低い声に顔を引きつらせることとなったのだ。
「お前たち、楽しそうだな……」
聞こえてきたミハエルの地を這うような低い声に先輩は、飛び起きてアワアワとしていたが、そんなことなど眼中にないとばかりに寝転がっていたままのシユニナを肩に抱き上げたミハエルの不機嫌そうな顔を見た騎士たちは、震えあがる。
そして、連れ去られたシユニナの無事を祈るのだった。
シユニナが騎士団に入団して数日のことだった。
最初に所属していた第十三班の隊長から移動命令が下されたのは。
そして、命令があった移動先が副団長の雑務係だったことにシユニナは首を傾げるばかりだった。
それでも、最愛のミハエルの傍で仕事が出来ることが嬉しくて、最初に感じていた疑問もいつしか薄れていたのだ。
それでも、副団長として忙しい身のミハエルの仕事を減らすための雑務係なのに、現在のシユニナはその仕事がなくて非常に困っていたのだ。
「副団長様。お仕事を下さい。何でもいいので、お仕事を下さい」
シユニナがそう訴えてもミハエルは、淡々と言うのだ。
「今、君に振れる仕事がないんだ。だから、そこのソファーに座って休んでいなさい」
「いえ、そういう訳には……。それに、今副団長様がされているお仕事は、本来私がするべき雑務だと思うのですが……」
「いや、これくらいは俺が処理した方が早い。だから、シユは休んでいなさい。これは上官命令だ」
「…………」
騎士団に身を置くうえで、男になってしまったことを公表していないシユニナは、シユと名乗って騎士団に所属していた。
ミハエルの配下として配属されたものの、するべき仕事がないためシユニナは、どうしたものかと頭を抱えていたのだ。
しかし、このまま何もしないわけにはいかないと考えたシユニナはミハエルに許可を求める。
「それでは、訓練場に行ってまいります。よろしいですか?」
「だっ…………。はぁ、分かった。行ってきなさい。しかし、ほどほどのところで休むことを忘れないようにすることだ。シユは頑張りすぎるところがあるからな」
「はい!」
ミハエルから許可を得たシユニナは、訓練場に向かった。
そこには、今回の試験で入った同期の騎士がすでに訓練を始めていたのだ。
「おーい! 私も混ぜてください」
「おお、シユ! 久しぶりだな! 異動になってから訓練に顔出してなかったから心配してたんだ」
「あっ、シユ! 元気だったか? 副団長の部下は大変だって聞くからさ。俺たち心配してたんだよ」
「大変? 副団長様はとてもお優しいですよ? 全然大変じゃないです。むしろもっと仕事を振ってほしいくらいです!」
シユニナが、仕事の少なさの不満を同僚の騎士に愚痴っていると、近くにいた先輩騎士が信じられないとばかりにシユニナに言ったのだ。
「おいおい。そんな訳ないだろうが? 副団長は、騎士団内でも鬼だとか冷血漢だとか言われている男だぞ?」
「えっ? 全然! とてもお優しいです」
「信じられないな」
そんなやり取りとしていると、訓練所にいた教官騎士が手を叩いて間に入ってきた。
「はいはい。ここでは口を動かすのではなく、体を動かすこと」
教官騎士にそう釘を刺されてしまった一同は、深く頭を下げた後に、それぞれの訓練メニューに戻って行った。
教官騎士は、久しぶりに顔を出したシユニナの頭を撫でながら今日はどうするのかを聞いてきた。
「今日は、軽く走った後に素振りをしようと思います」
「分かった。しっかり準備運動をしてから走るようにな」
「はい。ありがとうございます」
教官騎士にお礼を言ったシユニナは、じっくり体を解した後に訓練場の周りを自分のペースで走り出した。
十分体が温まってきた後は、木刀で素振りを黙々と行う。
そんなシユニナに、先輩の一人が声を掛ける。
「おーい。手合わせするのに人数が足りないんだけど、付き合ってもらえないか?」
シユニナに断る理由はなかったので、喜んでその申し出を受ける。
お互いに木刀を合わせた後に、実戦さながらの手合わせが開始された。
互いに足捌きや、体捌きを駆使して相手に有効打を打たせないように警戒しつつ、数合木刀を合わせる。
カンカンカン!!
なんども木刀のぶつかり合う音が響く。
しかし、先輩騎士の方が実戦経験の差もあり、徐々に攻撃回数が増していき、シユニナは防戦一方になっていた。
何度目かの打ち合いをした時だった。
先輩騎士の打ち下ろしを受け止めきれなかったシユニナは、後ろによろめいていた。
そんな隙を見逃さなかった先輩騎士は、シユニナの足に自分の足をひっかけて態勢を崩させた後に、そのまま押し倒すようにして木刀を眼前に突きつけた。
地面に転がされたシユニナは、「参りました」と降参の声を上げる。
先輩騎士は、素直に負けを認めたシユニナに明るい笑みを見せた後に、手を差し出す。
「ほら」
「ありがとうございます」
転がっていたシユニナは、お礼を言いつつ伸ばされた手を借りてその身を起こす。
先輩騎士もシユニナを引き起こすために掴まれた手を思いっきり引いたのだ。
しかし、先輩騎士は、ムキムキのマッチョの見た目のシユニナは重いだろうと考えて思い切り手を強く引いたのだが、想像よりもシユニナが軽くて、その勢いのまま、シユニナと二人で地面を転がってしまうのだ。
「悪い……。力が強すぎたみたいだ」
「いいえ、こちらこそ、すみません?」
「はは! なんでお前が謝るんだ?」
「だって、先輩は親切で手を貸してくれたのに、私がとろくさい所為でこんなことに……」
「ははは! お前、面白いやつだな! それにそんな見た目でその軽さはちょっと心配だぞ? ちゃんと食っているか? 腰も細いな……」
「ふふっ……。くすぐったいですよ」
先輩を下敷きにした格好のままそんなやり取りをしていたシユニナと先輩騎士だったが、頭上からの低い声に顔を引きつらせることとなったのだ。
「お前たち、楽しそうだな……」
聞こえてきたミハエルの地を這うような低い声に先輩は、飛び起きてアワアワとしていたが、そんなことなど眼中にないとばかりに寝転がっていたままのシユニナを肩に抱き上げたミハエルの不機嫌そうな顔を見た騎士たちは、震えあがる。
そして、連れ去られたシユニナの無事を祈るのだった。
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