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第六話

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 わたしが第三騎士団団長の直属部隊に配属されてから一月が経った。
 ベルナー様は、騎士団の運営にとても力を入れているのか、毎日のように顔を出していた。
 そして、精力的に訓練に参加し、騎士たちを指導してくれていた。
 ベルナー様は、剣の才能がある方で、といってもシュナイゼルには及ばないけどね。

 姉の贔屓目と言われそうですけど、決してそんなことありません。

 シュナイゼルは、剣の天才の上、優しくて、姉思いで、可愛くて、一言で言うと最高の弟なの。
 そんなシュナイゼルは、本当に天才だった。
 まだ、十三歳だった時、シュナイゼルの師匠で剣聖や、剣の賢人と呼ばれていた人を打ち破ったのだ。
 わたしは、シュナイゼルと剣聖様の立ち合いを見ていたけど、よく分からないうちに剣聖様が膝を付いていたっけ。
 二人が数秒睨み合っていたと思ったら、風がわたしのスカートを翻していて、慌ててスカートを押さえている間に全てが終わっていたの。
 剣聖様は、あの一瞬で三合打ち合って負けを確信したとおっしゃっていたっけ。
 
 つまり、それくらいシュナイゼルは凄いのよ。
 そのシュナイゼルには劣るけど、ベルナー様も相当な剣の使い手だとわたしにも分かったわ。
 そんなベルナー様が連日指導してくれるということで、騎士団内の指揮も上がっていた。
 
 でも、そんなベルナー様は、お友達を求めるお可哀そうなお方。
 いつも、訓練後、汗を流してからわたしがシャワー室を出ると、ソワソワした様子のベルナー様が待ち構えていて、わたしをお茶に誘うのだ。
 お茶に誘えるようなお友達がいないベルナー様がお可哀そうで、最初はお断りしていたけど、最近は断らずにお供するようになっていた。
 だけど、お茶の前に部隊長に許可をもらってね。

「隊長、ベルナルドゥズ殿下がお茶の供をしろと仰せです。訓練後の仕事は後ほど行いますので、殿下のお茶にお付き合いする許可をいただけませんか?」

「お茶?」

「はい。殿下は親しいご友人がいらっしゃらないようで……。役不足とは存じますが、少しでも殿下のお心の慰めになればと……」

 遠回しにわたしが、ベルナー様には友達がいなくて可哀そうだと言っていると気が付いたのか、隊長は遠い目をしてから小さく何がを言ったのだ。
 
「はぁ。殿下……。全然脈なしですよ……。ああ、不毛だ……」

 隊長が何かをぶつぶつ言っているのに首を傾げていると、何とも言えない表情になった隊長が「許可する。それと、仕事は明日の午前中までに処理すればいいから」と言って、お茶が終わった後はそのまま直帰していいとも言ってくれたのだ。
 わたしは、隊長のお言葉に甘えることにして、団長室に向かったのだった。
 
 
 そして、なんだかんだで親しくなりつつあるベルナー様と向かい合ってお茶をしたのだった。
 
 別に好きだと口に出したわけでもないのに、ベルナー様は、いつもわたしの好物をお茶うけに出してくれた。
 偶然にしても、毎回好物をお茶うけに出されるのが不思議だったわたしは、それとなく質問していた。
 
「あの……。毎回お茶うけに出していただいているお菓子ですけど……」

「ああ。美味いか? ああ、えっと……そう! あれだ、王宮のシェフが持たせてくれるんだが、どうだ?」

「とても美味しいです」

「そうか! ならよかった」

 そう言って、ニコリと微笑まれるてしまったのだ。
 つまり、王宮のシェフの神がかったチョイスによるものらしい。
 
「王宮のシェフの方とは食の好みが合いそうです。機会があればお会いしてみたいです。ベルナー様、シェフの方にとても美味しかったとお伝えいただいてもよろしいでしょうか?」

 わたしがそう言うと、ベルナー様はニカっと白い歯を見せて微笑んだのだ。

「ああよかった。作った本人もゼルに美味しいと言ってもらえて、とても喜んでいると思うぞ」

「そうですか?」

「ああ」

「菓子作りをあいつに習って正解だったな」

「ベルナー様? 何か仰いましたか?」

「いいや。今日の菓子も上手くできていると思ってな」

「はい。とても美味しいです」

 美味しいお菓子につい表情が緩んでしまったわたしだったけど、ベルナー様から髪の毛をワシャワシャにされてしまって、ベルナー様の表情を見ることは出来なかった。けど、そのお声はとても嬉しそうだった。
 きっと、シェフの方と親しいのだろう。もしかしたら、ベルナー様は、気が付いていないみたいだけど、その方とお友達の関係なのではないのかと思った。だけど、それをわたしが口に出すのは違う気がして、何も言わずにただベルナー様の気が済むまで髪をワシャワシャされるのだった。

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