男装令嬢の恋の行方

バナナマヨネーズ

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第十七話

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 シュナイゼルの呪いのことを初めて誰かに話したわたしは、話し終わった後、とても疲労してしまっていた。
 話している時、夢中で吐き出すようにしゃべっていたので、きっとめちゃくちゃ聞きにくかったと思うのに、ベルナー様は黙って最後まで聞いてくれた。
 そして、シュナイゼルのことに協力してくれるとも言ってくれたのだ。
 そのことには感謝しかなかった。
 
 秘密を話してからは、前よりもベルナー様と過ごす時間が増えたように思う。
 といっても、それぞれが調べたことについて話し合うことが目的だったんだっけどね。
 でも、周りはそうは思っていないみたいで、わたしが気が付いた時にはベルナー様とシュナイゼルが恋仲なのではという噂が広がっていたのだ。
 わたしは何とかしてその噂を否定しているんだけど、ベルナー様がそのことには触れずに嬉しそうな笑顔を浮かべていることから、ベルナー様の片思いなのではという噂に発展してしまっていたのだ。
 会うたびにわたしは、ベルナー様に噂を否定するようにお願いをしていたけど無駄だった。
 だって、ベルナー様ったら、嬉しそうな調子で言うのよ。
 
「シュナイゼルには悪いけど、フェルルカと恋人のように周囲に見られるなんて嬉しいな」

 確かに、このままではシュナイゼルにも男色の疑いが掛かってしまうけど、それよりも王族であるベルナー様の方が問題よ。
 別に、男性同士でパートナーになる人たちだっているけど、王族の場合それは難しいことだった。
 世継ぎのことだったり、政治的な理由だったり。
 だけど、わたしが頑張って噂を否定しようとすればするほど、何故か噂が真実を帯びたものの様に広がっていくのだ。
 解せない……。
 
 それもこれもベルナー様の所為でもある。
 だって、普段はあまり笑顔を見せない人だってわたしは初めて知った。
 お会いするときは、いつだってキラキラした笑顔を見せてくれる方だから、普段もそうなのだと思っていた。
 だけど、いつもはクールな表情であまり笑顔は見せないと知ったのはつい最近だった。
 
 その日も、恒例となりつつお茶をしている時だった。
 情報交換を終えた後に、わたしが用意したお菓子を取り出して見せたら、ベルナー様はとても喜んでくれたの。
 それで、お茶を飲みながら持ってきたアップルパイを食べていたベルナー様が嬉しそうに大きな口で頬張って食べてくれて。
 でも、カスタードクリームが口の端についていて、ついついいつもシュナイゼルにしているように指先で拭っていたのよね。
 それで、いつものように自分の口に入れてしまって、気が付いた時には遅かったのよ。
 自分でやっていて、全身が赤くなっていくのが分かって、もう恥ずかしくて死にそうだった。
 だけど、ベルナー様は、何が嬉しいのか満面の笑みでわたしに抱き着いてきたのだ。
 
「ゼル、好きだ!! 俺の嫁になってくれ」

「ちょっ、抱き着かないでください。嫁にもなりません」

「ゼルーーー」

 そんな感じでじゃれ付かれていた時、ノックの音と同時に扉が開かれたのだ。
 
「団長! だいしきゅ……うぅぅ? えっ! あの団長が満面の笑顔……。あっ! し、失礼しました!!」

 そう言って、部屋に入ってきた誰かが慌てて飛び出していってしまったのだ。
 ベルナー様に抱き着かれていたわたしは誰が入ってきたのか姿を見られなかったから、追いかけて口止めしようにも無理だったのよ。
 でも、その日からなんていうか……。
 第三騎士団公認の仲? みたいになってしまっていて……。
 
 
 そんな日々を送る中、第三騎士団に迷惑な来客があったのだ。
 わたしに面会したいという人がいると呼び出されて指示された一室に向かうとそこにいたのは、数年ぶりに合う義妹だった。
 
「お久しぶりですわね。お義兄様おにいさま……。いえ、お義姉さまおねえさま?」

 そう言って、わたしにきつい眼差しを向けるのは、義妹のゲルダだった。
 ゲルダは、継母とよく似た黒髪黒目の少女だった。
 以前に見た時にあったソバカスは、化粧で隠されていた。
 ゲルダは、優雅にティーカップを口元に運びながら、わたしに言ったのだ。
 
「くすくす。あんたのその様子だとあいつは身動きできない状態ってことよね」

 その言葉にわたしは感情が爆発してしまいそうになるのを抑えるのに必死だった。
 ゲルダの口調から、やっぱり呪いをかけたのは継母たちだと言っているようなものだったから。
 わたしが自白したようなものなゲルダに対して、怒りに震える両手を握って、きつく唇を噛んで耐えていると、ゲルダは言った。
 
「うふふ。あんたが周囲に偽ってここにいることが知られたら、あんたたち破滅よ? わかる? これは犯罪なんですよ? くすくす。あんたが守りたくて必死のシュナイゼルも路頭に迷うことでしょうね?」

「何か用があるなら言え。わたしも暇じゃない」

 感情を抑えるのに必死で、自分でも驚くくらい低い声が出た。
 ゲルダは一瞬驚いた表情をした後、楽しそうに表情を歪めて言ったのだ。
 
「分かるわ。私だって、弟がいるからね。弟を守りたい気持ち……。だから、あんたがわたしを楽しませてくれたらこのことは黙っていてもいいと思っているわ」

 ゲルダの歪んだ表情から、良くないことを提案されると分かっていても聞かざるを得なかった。
 
「条件は?」

「これから数日後に行われる新人大会は分かるわよね?」

 ゲルダに言われて、わたしも思い出していた。
 数日後に開催される今年度の新人騎士たちが武芸を競う大会が開かれることを。
 もちろん、今年入団の新人騎士全員が出場しなければならないものだったので、わたしも参加予定だ。
 それが何だという視線をゲルダに向けると、彼女は心底楽しそうに言ったのだ。
 
「そこで、優勝することが出来れば考えなくもないと言っているのよ」

 その言葉に、ゲルダが何を考えているのか分からなくてわたしは眉を寄せていた。
 新人大会は、魔力を使用することが可能だった。
 その状態であれば、恐らくわたしが優勝することは難しくないだろう。
 ゲルダのことだから、無理難題を言ってわたしがどうあがいても果たせないことを言い出すと思っていたのに……。
 
 だけど、条件を飲まずにいれば確実に正体をばらされてしまう。
 とりあえず条件を飲めば猶予が出来る。その間に対策を考えることだって出来るはずだと考えたわたしはゲルダの条件を飲んでいた。
 
「分かった」

「くすくす。せいぜいがんばることね」

 そう言って、ゲルダは騎士団を去っていったのだ。
 だけど、わたしの心の中には、何とも言えない不安だけが残ったのだった。

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