俺の最悪な異世界転移の顛末

胡桃 ぱんこ

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本編

泣き虫な俺の騎士

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 崩壊した壁の向こう、木々が生い茂り隙間から夜空が見える。爆散した壁だったものを超えてジェードが室内へ歩いてくる。


「おい!とま……」
「黙れ」


 ジェードが手を振った瞬間、鋭い氷の棘が男の肩を貫いた。男は血飛沫を上げながら喚き散らす。


「コイツがどうなっても……」
「汚い手でさわるんじゃねぇよ!」


 ジェードの怒号が響く、足元から生えた氷の棘が男の右足を貫き天井まで伸びた。

 騎士の制服を着た最後の1人が、後退りながら情けない声でジェードにすがる。


「お、同じ騎士じゃねぇか……見逃してくれねぇか。俺はこんな酷い国から、この子供を助けてやろうと思っただけだ……」
「……騙して攫って、裸に向いて、……無理やり襲うのがお前の言う助けることなのか?」


 怒りを通り越して表情を失ったその顔は、造形の美しさも相まって異常なオーラを醸し出す。

 ジュードが指を鳴らすと騎士の背後で爆発が起こる、2度、3度指を鳴らすたびに起こる爆発に男は右左とボールのようにはねる。

 動かなくなった男に一瞥もせずジュードがユウの元へ駆け寄る、壊れ物を触るかのようにゆっくり小さな体を抱き起こす。


「遅くなってごめん、怪我はない?怖かったろ……、辛い思いさせてごめんな……」


ゆっくりゆっくり俺を抱きしめて、振り絞るように出したその声は震えていた。


「……お前がいなくなったらどうしようって、考えたらどうにかなりそうだった……本当に、本当に怪我がなくて……よかった……」


顔を押し付けられた肩口が濡れる。
 
 コイツは俺が本当に大切なんだ、愛してくれてるんだ。
 今やっとわかった、本当に、心の底から信じることができた。


「泣くなよ、バカ」

 ジェードが濡れた顔を上げる。
 
「俺の騎士は、……泣き虫だな」
 

 驚きに目を見開いた後、幸せそうにフニャりと笑った。

 その泣き笑いは、情けなくて、バカみたいに愛おしかった。


「とりあえずこれ解いて、ここってどこだ?」
「……ん、ここは郊外の森の奥だ。ユウが攫われたのは昼過ぎだったから7時間近く経ってる」

 ジェードが手をかざすと、手枷が氷で砕け散る。

「ッお前、それ……」

 ジェードの拳は皮が裂けて血が滲んでいた。

「なんでもない、かすり傷だから。結界が固くて、穴開けるのにちょっとな。大したことないから。」
「……」

 ジェードが痛々しい手を自身の手で包み隠す。



 
 ずっと隠してた俺の。使うなら今だよな。

 本当は最初からわかってたんだ、


 俺は……なりたい俺になれるって。
 

 
 目を瞑ってジェードの手に俺の手をかざす。掌から暖かい光が放たれ、2人の周囲に白い粒子がキラキラと舞う。

 目を開けるとジュードの怪我は跡形もなく治っていた。


「ユウ、お前……」

 


「ぐわぁッ!」


 突然、叫び声が響き男が床に伏した。

「甘ちゃんだねぇ~」

 ハスキーで色っぽい、最近聞いたばかりの美声が響く。先日、令嬢のアタックから守ってくれた紫眼の美人が音もなく歩いてくる。

 城で会った時とは違うフードがついた真っ黒の装束に身を包み、二の腕から彼岸花のタトゥーがのぞいている。


 なんというか、何もしてないのにエロい。
 

「ツメが甘い坊ちゃんが、索敵が足りてねぇぞ。魔法使いは一番に殺らねぇと。」


喋りながらナイフを2本、流れるように虚空に投げる。何もなかったところから血を吹いた男が2人現れ倒れる。


「……この人が、ここを教えてくれたんだ」


 坊ちゃん呼ばわりが効いたのか、明らかに落ち込んだ様子でジェードが答える。


「ふん、感謝しろよ~。まぁ俺はこのガキが強姦されようと死のうとどうでもよかったんだけど」
「じゃぁ、なんで?」
「命令だからな」
「……?」




「敵襲か!」
「結界が破られてんぞ!!」
「魔法使いたちの交信が切れた!お前ら急げ!」


 部屋の入り口が騒がしくなる、騒ぎに気づいた男の仲間たちが部屋の中に傾れ込んできた。

 戦闘体制をとるジェードとは裏腹に美人は余裕の表情で告げる。


「……大丈夫だ。そろそろくる、戦車がな」





 ドガーーーーーーーーンッ!!!!!!!



 その時、とんでもない轟音が響き透明なガラス片のようなものが砕け散り周りに舞っているのが見える。

 美人はヒューと口笛を吹いた。


「待たせたな、全員怪我はないか?」


 現れたのは騎士団長、シアン・ブレイズ、英雄の降臨である。


 ジェードが「1人でこのレベルの結界全破壊しちゃうんだ、本当に人間か?」と呟いている。


 美人が「魔法使いが精魂込めて作った結界も人間戦車の前には無意味なんだよね~、まじぶっ壊れすぎてキメェ~」とぼやく。


 なんとなくわかった。この人はチートってやつか。


 シアンが手を叩いた瞬間、突然の英雄の登場に気を取られていた男たちが一瞬にして全員氷漬けになる。


「さぁ、帰ろうか」


 
 こうして、俺のドタバタ誘拐事件は唐突に幕を下ろしたのであった。


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