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幕間
延命(シアン視点)
しおりを挟む馬車で走ること数分、目的地に到着した。
リラは心底嫌そうな顔をして俺の家を見上げている。
「……金持ちまじムカつくわ」
俺の財産は大抵が戦争の褒賞である、そのため屋敷は無駄に派手で豪華だ。
「ほとんど帰っていないからな、宝の持ち腐れだ」
「爆破したい」
何か物騒なことを言っているが、ほっておいて屋敷の中に入る。
数日に一度屋敷の管理のために使用人が入るが、常駐している者はいない。人気のない屋敷の中、照明をつけて進んでいく。
「客っていつくるの?」
「昼頃と聞いているが」
「もういるぞ」
「…」
リラの魔力探知は精度が高い、間違いなく主人不在の家に侵入者がいる。
(アイツならそれぐらいするか)
客室の照明がついている
「……早かったな」
客室の扉を開けると人の家のソファで茶を飲みながらくつろぐ男がいた。
「あぁ、先にお茶を頂いているよ」
色素のない髪と肌、薄い赤の瞳のアルビノ、人形のように美しい少年がそこにいた。
「リラ、彼は隣国の魔法使いセトだ。時の魔法使いと呼ばれている。セト、彼が手紙に書いたリラだ。」
「リラっ!」
セトは目にも止まらぬ早さで距離を詰めリラの両手を握る。
「素晴らしいね!君の瞳は!!こんなに美しい色は見た事がない!!いいねぇ、いいね!僕にくれよ!!」
興奮して鼻息荒く詰め寄るセト
「…………」
リラが引き攣った顔で俺を見る。すまん、変人なんだ。
「セト、離れてやれ。手紙に書いた通りだ、リラの体を見てやってほしい。」
手を握ったままセトはニコニコしながら話す。
「時の魔法使いに病を見てほしいなんて、変なことを考える男だ。いつもなら取り合いもしないが、こんなに美しいものをなくすのは忍びないからね。昔の借りもあるし見てあげてもいいよ。」
俺は昔諸国を回っていた時に、コイツが空腹で生き倒れているところを助けた。高名な魔法使いにありがちで、コイツも生活力が終わっていた。
「……時の魔法使いって?」
リラが不思議そうに尋ねる。
「この国では研究が進んでいないが、世界には時空魔法というものがある。私はその分野の第一人者なのだ。」
「へー、タイムトラベル?」
リラ、もっと持ち上げろ。足りない顔してるぞ。
「勘違いされがちだが、時空魔法は過去に行ったり未来を見たり出来るわけではない。細胞の成長速度遅くしたり、速くしたり、止めたり出来るのだ。」
「なにそれ、不老不死になれるじゃん」
「いや、基本的に生物は対象にできない。対象が大きいと魔力が足りないのだ。」
「ふーん、…使えなくね?」
セトがショックを受けている、素直すぎるぞ、リラ。
「そんなこと言っていいのー!?僕の力がいるんでしょー!!!」
子供のように地団駄を踏んで暴れ出した、落ち着け落ち着け。
「リラ、セトを呼んだのは…、お前の病の進行を遅くするためだ」
「…………は?」
「病気の細胞の成長を止めれば多少は延命できるよってはなし~」
「………………くだんね、それしてなんになるわけ?どうせ死ぬんだし意味ねぇだろ」
投げやりなリラのセリフに俺はなんとか返す
「俺はそうは思わない、方法を見つけ……」
「いらない、帰る」
「リラ!」
感情のない冷たい表情で踵を返すリラ、部屋から出ようとしたその時
「ほいっ」
セトの間の抜けた声が響き、扉が閉まり鍵がかかる。
怒りの表情で振り向いたリラの手を握るセト
「怒らないでおくれよ、美しい君。」
「ちょっ!はな」
「さぁ、おやすみ」
「……く、っそ……」
こんな強行策に出てくると思っていなかったんだろう、睡眠魔法でリラは意識を失った。
抱き上げゆっくりソファに運ぶ。
「勝手をするなって怒らないの?」
「……リラは受け入れることはないだろう」
「いいの?」
同意なく無理矢理魔法をかけていいのかと、セトは聞いている。先ほどのリラの反応ではまず同意を得ることは出来ないだろう。
ただの時間稼ぎでしかないかもしれない。でも俺はお前を諦められない。
(俺のエゴを許してくれ、リラ)
「……いい」
「ふーん、恋は人を愚かにするというのは本当なんだね」
「見てくれ、何年延ばせる?」
セトはリラの胸に手を当て魔力を巡らせる。
「かなり悪いね、傷ついた細胞は治せない。遅延できても……2年かな?」
「……2年」
「うん、僕の魔法でも2年が限界かな、それ以上は体が耐えられない。」
2年でリラを救う手立てが生まれるのだろうか。一つ、希望はそれだけ。そしてその時のために俺は準備を進めるだけだ。
「やってくれ。」
「ふふふ、強くなることにしか興味がなかったわんぱく小僧がこんなに必死になるなんてね、恋って恐ろしいね」
右の鎖骨上、首元を指差しながらセトがケラケラ笑う。
「シアン、僕はお前の望みを叶える事ができるよね。君はご褒美に僕に何をくれるの?」
無邪気な顔でセトがねだる。昔の借りだけでは足りないか。
「……何が欲しいんだ?」
にっこり笑ったセトはリラの頬を撫でうっとり心酔した様子で告げる。
「僕は生まれつき色素がない。だから美しい色に目が無いんだ。」
リラの閉じた瞼に触れ
「この色をちょうだい」
「ダメだ」
それは俺のだ……だれにもやらん。
殺気が溢れる、感情が溢れて止まらない。
「ひっ!怖い怖い!じゃぁそれでもいいよ、今の感情のこもった色はとても美しかった!」
俺に向かって嬉しそうに指をさす。
「片方でいいよ!……2年後に頂戴ね」
セトがにっこり笑う。
「……いいだろう。2年後にまた貰いにこい」
「やったー!楽しみに待ってるよ!」
セトは向き直り、リラの薄い胸に手のひらを当てる。
淡い黄色い光が手のひらの周りにふわふわ舞っている。
「起きたら怒られるよ~!なんて言い訳するの?」
「………………謝るしかないだろうな。」
烈火の如く怒り狂うリラが目に浮かぶ。どうにかして怒りを鎮めなければ、想像するだけで恐ろしいが。
「怒るくらい元気なら、……それでいい。」
「ははっ!ベタ惚れだね!今日は来てよかったよ!面白いものが見れた!」
「それはよかったよ」
話しているうちに光が弱まりやがて完全に消える。
「よし!終わり!これで、2年は病は進行しないよ。ただ治したわけじゃないからね!無理はしない事!症状緩和の治療も続ける事!」
「あぁ、本当に助かった。ありがとう、恩にきる……」
感謝の思いを込めて頭を下げる。
「いいってことよ~!でも君の戦いはこれからなんだろ?僕もこの美しい人に死んでほしくない、精精頑張ってくれよ!」
「あぁ」
セトに力強く答えてリラを見る。
2年後、お前が幸せに生きられるように俺の全てを尽くそう、改めて固く決意を固めたのだった。
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