緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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闇食い

#5

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 それから、どうやって自宅に帰ったのか、全く覚えていない…。気が付いたら、スーツのまま、自宅の玄関で倒れる様に寝ていた。
 スマホのアラームに毎日いつもの様に、叩き起こされ、反射的に上体を起こした。
 さっきまでの光景は、夢だったのではないかと思えるほど、頭がボーっとしていた。
 普段なら、無条件で顔を洗い、歯を磨き、出勤の準備に取り掛かるのだが…。
 身体は怠く、どうもそんな気にはならなかった。
 
  ―今日は、休もう…。

 そう頭の中で、考え上司に電話を入れた。
 忙しい職場とはいえ、有給が取れない程ブラックではない為、申請することは、容易だった。
 むしろ、上司には心配の声も掛けられた。
 何しろ、入社して初めて、有給を使ったのだから…。

 シャワーを浴びるため、スーツを脱いだその時、ポケットから、チリンと鈴の音が聞こえた。
 ハッとし、ポケットに手を突っ込み、中の物を引っ張り出した。出てきたものは、ジンの鈴だった。
 私は驚き、何度もその鈴を見回したが、間違いなく、彼の鈴だった…。
 私は、急いで実家にいる母に電話を掛けた。
 この鈴は、本来実家にあるものだ…。私は引っ越すときに、持ってきては居ないし、実家に帰った時、何度もそれを見ていた。
 だから、私の自宅に、私のポケットに入っているはずがない。
 母に、ジンの鈴が、何時もの処にあるかと、訊ねた。
 そして、驚く様な返事が返って来た。
 『なんで、その事を…。』
 「え?」
 『実は、昨日の夜、無くなっちゃったんだよね…。いつもの場所から、誰も動かしていない筈なのに、フッと消えた様に無くなっちゃった…。
 お父さんと、家中探したんだけど、見当たらなくて…。」
 久しぶりに聞いた、母の声は、少しか細くなっていた。

 私は、電話を切り、暫くボーっとした後、急いで荷物をまとめた。
 疲れて眠くて、身体中痛い筈なのに、それすら忘れて、クローゼットから引っ張り出したボストンバッグに、数日分の着替えを入れ、鈴を握りしめて、家を出た。
 バスに乗り、新幹線のチケットをスマホで予約し、実家に向かった。

 実家に着いたのは、昼を少し過ぎた頃、母は当然びっくりしていたが、何となく察してくれたのか、何も聞かず、家に入れてくれた。
 私は荷物を母に預け、直ぐに、近所にある、ジンの眠る墓に向かった。
 霊園に来る直前のスーパーで買った、猫用のおやつの缶詰と、例の鈴を置き、線香を立てた。
 そして、数年ぶりに、ジンの墓に手を合わせた。

 「ただいま。」

 そう言うと、足元に暖かい、そよ風が吹き抜け、鈴を鳴らした。
 それと同時に、今まで肩に乗っていた重い何かが、スッと消えていく様な気がした。
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