緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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燃えた人形

#3

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 突き当りの窓から、差し込む光は、どうやら太陽の物ではなく、街灯や、月光の、冷たい光だった。
 私は、窓の横にある、階段を降り、一階に向かった。一階には、両親の寝室と、リビングがある。そこに行けば、私以外の、誰かに会える。そう、思ったからだ。
 しかし、私を、待ち受けていたのは、両親でも、人形でもない、小さな、女の子だった。
 女の子は、こちら側に、背を向け、リビングの扉の前に立っていた。
 背格好からして、4~6歳くらいだろう。服装は、黒いTシャツに、ミニスカートをはいている。髪は、両側ゴムで縛り、ツインテールにしている。
 「何…しているの…?」
 女の子に向かって、そう訊ねたが、聞こえていないのか、反応がなかった。
 「ね、ねぇ?」
 私は、もう一度、彼女に、声を掛けた。すると、女の子は、扉の取手を曳いた。“キィー”っと、甲高い嫌な音を立てて、扉は開き、彼女を、その奥へと、誘った。
 私の自宅は、築年数でいえば、それなりに立っているが、ドアや金具は、まだ、現役で、錆びている所は、殆どない。そのため、この家で、扉や、クローゼット等で、今の様な、鈍い音が、する場所など、ない。あるとすれば、精々、キッチンのシンクの下あたりだろう…。だから、今の扉の音は、余りにも、不自然だった。
 私は、恐る恐る、その扉に近づき、取手に触れた。心臓は、今にもはち切れそうな程、胸を叩いていた。呼吸を整え、一思いに、扉を、開け放った。
 中には、女の子の姿はなく、言ったって普通の、見慣れたリビングが、そこにあった。
 しかし、違うところが、一点だけ、存在した。それは、異様に、この部屋が、熱いのだ。
 夏なのに、暖房でも焚いている様な、頭が、ボーっとする程に、熱い。
 幸い、今は夢の世界。触感は、伝わるものの、耐えられない程の、物ではない。だが、全身から、汗が噴き出してくるのには、変わりがない。今、この状態で、目が覚めれば、確実に、ベッドと枕は、寝汗で、ずぶ濡れになっているであろう…。

 私は、兎に角辺りを見渡した。私が、何故、夢で、こんな経験をしなければならないのか、何のための、夢なのか。それを知らない限る、この夢からは、一生覚める事が、ないと、何となくだが、分かっていた。
 茹だる様な熱さの中、私は、リビングとキッチンを一通り見て回った。だが、これと言って、変ったものや、不自然な物というのは、見当たらなかった。
 流石に疲れ、ダイニングの椅子に腰かけた。その時だった。視界の端に、何か、動くものを、捉えた。
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