緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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廃洋館

#38

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 『貴女が居たから戻って来れたのよ。』
 地面に着地した、もう一人のナツミさんが、そう言った。
 『人格は分かれているとはいえ、肉体事態は同じだから、一緒に行かないと無理みたいね。それに、私は神格だから、行きたい道を選ばせ貰えた。だから、戻ってきたのよ。』
 『そんな都合が良いものなのか?あの世って言うのは…。』
 『さぁ…。でも、また二人で護れるわね…。』
 『…』
 私たちには目触れず、そんな会話をしていた。正直、“あの世”とか言われても、ピンと来ていないが、彼女等にとっては、それが普通の感覚なのだろうか…。まして、“神格”と呼ばれている、存在にとっては特に…。
 「これで、館の不浄は全て浄化できたんですか?」
 大谷が、そう言った。
 『あぁ…。だが、リセットされた訳では無い…。これからまた、年月をかけて又、不浄は戻り始める…。君たち人間の所為でな…。』
 「人間の…所為?」
 思わず聞き返してしまった。 
 「不浄な物って例えば、悪霊とか、お化けとかですよね…。それが人間の所為って…。」
 「…陣内…気付け…。」
 寺井さんが、私の肩を掴み、そう言った。
 「不浄な物は、人間が全て持ち込んでいるんですよ…。」
 「え?」
 大谷の言葉に耳を疑った。悪霊というのは、人間に取り憑くという話は、よく聞くが、悪さをするのは、悪霊なのではないのか…。 
 『その悪霊を作り上げるのも、人間なのよ…。』
 心を読んだかの様にも言う一人のナツミさんが、そう答えた。
 『そもそも、人間が、憎しみや恨み、妬みと言った、不浄な感情を持たなければ悪霊なんて、生み出されることはありません。現に、私たちの存在も、元をたどれば、人間の儀式から産まれました。本来産まれなくても良い筈だったのに…。』
 「殺人とか自殺とか…。必ず人間が関わっている死が、悪霊を産み出してしまう…。だから、こんな館、燃やしきってしまえば良いと思ったが、それでも、神格の力に少しでも肖りたくて、この館に来る事もある…。私たちに、浄化してほしくて…。」
 「…。」
 言われてみれば、確かにそうだ…。殺人事件や、自殺の名所となっている場所が、心霊スポットとなっているケースが多い…。
 この館も、実際殺人事件が起きているから、“曰く付き”だの、“心霊屋敷”だの噂が付いて回った…。
 それでも、居たのは“悪”ではなく、主人に命じられた、従順な彼女等だ…。
 その子らに救いを求めて、悪霊化してしまった者たちがこの館に取り憑いてしまう…。
 「ナツミさんは、この館が好きなんですね…。」
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