274 / 309
14章:四人の約束
#8-9
しおりを挟む
廊下は既に消灯されており、間接照明だけが怪しく照らしていた。
この風景は数か月前と、何ら変わっていない…。夏とはいえ、夜のこの涼しさを味わえるのは、窓の多いこの館の特権だろう…。
階段の踊り場に差し掛かったところ、中庭の方にある窓を見下ろすと浴衣姿の有美さんが目に入った。
自動販売機のある一階までおり、渡り廊下から、中庭に出た。有美さんは夜空を見上げながら、腰を下ろしていた。
「あら…眠れない?」
「い、いえ、たまたま喉が渇きまして…。」
「そう…よかったら飲む?あの人、今日も仕事とか言って、帰ってこないみたいだから余っちゃって…。」
少し寂しそうに有美さんがそう言って、差し出してきたのは、缶ビールだった…。
「すみません…。私未成年なので…。」
「そういわないで、たまにはいいんじゃない?それに、一年後には二十歳になるんでしょ、一年くらい早めても、関係ないわよ…。」
「とはいっても…。読者の前もありますので…。」
「そう…。だったら、ちょっと付き合いなさい…。」
有美さんはそういうと、ベンチの開いているところを手で叩き、座るように示した。
有美さんは、お酒に弱い。というのは、ここでバイトをするようになって、3日後くらいに知った。
他の宿泊施設やイベント施設との打ち合わせで、有美さんの旦那さん…つまり、麻由美のお父さんは、一か月に数回程度しか、百乃季には帰ってこない。
その寂しさを度数の高いお酒で埋めるのが有美さんのルーティンらしい…。
ただ、こうやって、中庭のベンチで、そんなことをしているのは、初めて見た…。
「珍しいですね…。女将さんが中庭に居るなんて。」
「たまには、星空でも見ようと思ってね…。それより、大学に入ってからはどう?楽しい?」
「えぇ。友だちも増えましたし、ありがたいことに、バイト先もどうにかできましたし。何とか上手くやっていけてます。」
私がそう答えると、有美さんは瓶制のカップ酒を啜った。
「そう…。確か、喫茶店だっけ?結構お洒落なところ働いてるじゃない…。それに、結構いいお友達もできてるし…。聞くだけ、無駄か…。」
「お陰様で、何とか上手くやって行けてます。」
「よかった。私はそれだけを心配していて…。貴女が幸せなら、それに越したことはないからね…。」
有美さんはそういうと、私の頭を少し強めに撫でた。彼女には、本当に色々とお世話になった。私には、本当の母親の優しさなど、知らないが、彼女のその優しさに何度も救われたことか…。この頭を撫でられているときだけ、他の嫌なことも忘れられる…。
これが母親の力…。そんな力を、幼いころから知っている、麻由美が羨ましく思うことは、多々あった…。
この風景は数か月前と、何ら変わっていない…。夏とはいえ、夜のこの涼しさを味わえるのは、窓の多いこの館の特権だろう…。
階段の踊り場に差し掛かったところ、中庭の方にある窓を見下ろすと浴衣姿の有美さんが目に入った。
自動販売機のある一階までおり、渡り廊下から、中庭に出た。有美さんは夜空を見上げながら、腰を下ろしていた。
「あら…眠れない?」
「い、いえ、たまたま喉が渇きまして…。」
「そう…よかったら飲む?あの人、今日も仕事とか言って、帰ってこないみたいだから余っちゃって…。」
少し寂しそうに有美さんがそう言って、差し出してきたのは、缶ビールだった…。
「すみません…。私未成年なので…。」
「そういわないで、たまにはいいんじゃない?それに、一年後には二十歳になるんでしょ、一年くらい早めても、関係ないわよ…。」
「とはいっても…。読者の前もありますので…。」
「そう…。だったら、ちょっと付き合いなさい…。」
有美さんはそういうと、ベンチの開いているところを手で叩き、座るように示した。
有美さんは、お酒に弱い。というのは、ここでバイトをするようになって、3日後くらいに知った。
他の宿泊施設やイベント施設との打ち合わせで、有美さんの旦那さん…つまり、麻由美のお父さんは、一か月に数回程度しか、百乃季には帰ってこない。
その寂しさを度数の高いお酒で埋めるのが有美さんのルーティンらしい…。
ただ、こうやって、中庭のベンチで、そんなことをしているのは、初めて見た…。
「珍しいですね…。女将さんが中庭に居るなんて。」
「たまには、星空でも見ようと思ってね…。それより、大学に入ってからはどう?楽しい?」
「えぇ。友だちも増えましたし、ありがたいことに、バイト先もどうにかできましたし。何とか上手くやっていけてます。」
私がそう答えると、有美さんは瓶制のカップ酒を啜った。
「そう…。確か、喫茶店だっけ?結構お洒落なところ働いてるじゃない…。それに、結構いいお友達もできてるし…。聞くだけ、無駄か…。」
「お陰様で、何とか上手くやって行けてます。」
「よかった。私はそれだけを心配していて…。貴女が幸せなら、それに越したことはないからね…。」
有美さんはそういうと、私の頭を少し強めに撫でた。彼女には、本当に色々とお世話になった。私には、本当の母親の優しさなど、知らないが、彼女のその優しさに何度も救われたことか…。この頭を撫でられているときだけ、他の嫌なことも忘れられる…。
これが母親の力…。そんな力を、幼いころから知っている、麻由美が羨ましく思うことは、多々あった…。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる