レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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14章:四人の約束

#8-10

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 「それはそうと、香織ちゃんは気になる人とかいないの?」
 自販機で買ったお茶のペットボトルに口を付けたとき、有美さんがそう訊ねてきた。
 そのため、少しばかり、口からお茶をこぼしてしまった。
 「さっき、貴女方の部屋の前を通った時、そんな会話が聞こえてきたから、随分と楽しそうだなぁ、と思ってね?」
 咽ている私を無視し、そう付け加えた。
 「い、居ませんよ…。そんな人…。居たとしても、向こうが私をどう思っているのか分からないじゃないですか…。」
 「ん~。でもそれが、恋ってものじゃない?好きな人の気持ちを知る前に、自分の気持ちに素直になった方が良いんじゃない?当たって砕けるのはその後よ?」
 「…。」
 異性を好きになったことなんて、今まで一度もない…。好きになる前に、嫌いになることの方が早かったからだ…。
 男なんて、誰も一緒だと思っていたのも、事実だ…。
 「ふ~ん。誰か居ないの?」
 そこまで言われると考えてしまう。私の知り合いの男性たちを色々と思い浮かべた…。
 その中でも、何故か九条さんの事を最初に思い浮かべてしまう…。
 「…い、居ません…。」
 何とか絞り出すように、私はそういった。
 有美さんは、微笑むと、持っていたカップ酒を呑んだ。
 「そう…。バイト先にも、そういう人いないの?例えば、店主さんとか?」
 有美さんは、たまに、人の心が読めるのかというくらい、気持ちを暴くのが得意だ…。特に今回のように、お酒を飲んでいるときは特に…。ここまでくると、隠しても仕方がないし、どうせ二人しかいない…。
 「…じ、実は、少しだけ気になる人はいます…。少しだけですよ!
 彼は、私にバイト先を提供してくれたり、私の悩みを吐かせてくれたり…。まだ知り合って、数か月しか経ってはいませんが、その…なんというか…。常にではないですが、意識するようになりました…。」
 そう話しているうちに、顔が火照ってくるのが分かった。
 有美さんは、私の言葉を聞き終えると、思いっきり、私の頭を撫でた。
 「良いねぇ~。若いって…。私の学生の頃もそんなんだったよ。
 せっかく輝いている時期なんだから、もっと自分を主張しないと、他の人に奪われちゃうかもよ?」
 有美さんは、またカップ酒を傾けた。
 私は、それから、少しばかり、有美さんと話をし、中庭を後にした。
 薄暗い階段を上り、廊下を通り、私たちが止まっている部屋に戻った。
 相変わらず、各々が自分の好きなところで眠っている…。それらを、踏まないように、端に敷いてある布団まで行き、潜り込んだ…。未だに顔が熱い…。眠れるかどうか不安だったが、とにかく目を瞑った。
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