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(アーロー視点)
私は幼い頃から、従姉妹のエルシー・マケラ公爵令嬢が好きだった。それは父上であるワウテルス公爵にも打ち明けたし、叔父上も知っている事実だ。
私達の結婚をお互いの両親は望んでいたし、私ももちろんそれを望んでいた。だがエルシーは私を避けていて、最近では滅多に挨拶すらできない日々が続く。
(なにか気に入らないことをしたのだろうか? なぜ嫌われたのかな? 昔はあんなに懐いてくれたのに)
落ち込む気持ちを振るい立たせるように、騎士団で日々精進を重ね邁進していく私だ。きっとこの努力は報われると信じた。
その甲斐あってかマケラ公爵家を両親と訪問した際に、エルシーは満面の笑みで迎えてくれた。しかも私が来期の騎士団長になることへのお祝いに、彼女の瞳色と同じ水色の剣穂もプレゼントしてくれた。
恋人同士は自分の瞳色のプレゼントを贈り合う慣習がある。だから、これは・・・・・・もしかして・・・・・・期待に胸を弾ませた。私とエルシーの両親も、もちろん大喜びだ。
父上と叔父上は仲のよい兄弟だし、私の母上とエルシーの母上は王立学園の同級生で親友同士だったから。
庭園を一緒に散歩しながら夜会のドレスの色を聞くと・・・・・・コヨーテブラウンに琥珀をつけると教えてくれた。私の髪は淡い茶色、瞳の色はゴールド。琥珀にも例えられる私の瞳と同じ宝石をつけていくって・・・・・・これが愛の告白じゃなければなんだって言うんだ?
「私はもちろん水色だ。一番好きな色だからね」
もちろん、それはエルシーの瞳の色だから好きなのさ。
「あ、うん。わかってる・・・・・・」
彼女はそう言って微笑む。なんてことだ! 知っていて今まで、じらされていたのか・・・・・・ほっとしたと同時にどうしようもないほど嬉しかった。
それからは毎日のように彼女に会いに行く。会う度に綺麗になっていき、淡いブラウンのリボンや髪飾りが増えていく。彼女はその色をコヨーテブラウンと表現した。なぜコヨーテが出てくるのか謎だが、その色は明らかに私の髪色だから素直に嬉しい。そんなに私を愛してくれていたなんて知らなかった。
エルシーがいつも別れ際に聞く言葉は、「私のことを守ってくれるでしょう?」だ。
当然だよ。未来の愛妻を守らない男がいるか? だから私は彼女に跪いて誓う。
「我が命に代えても、エルシーは全力で守る」
エルシーは「大袈裟ね!」そう言いながら笑うけれど、少しも大袈裟じゃない。
夜会の当日は空気が澄み渡り、夜空に星が煌めいていた。でも僕のエルシーは、僕の髪色と瞳色に包まれ夜空に煌めく星より輝いて見える。私も彼女の水色を纏い夜会に向かった。
彼女をエスコートしていると、エルシーに蛇のような粘着質な眼差しを向けている男に気がつく。ぞっとするほど綺麗な男だが、あまりいい噂を聞かないウィレムス男爵家三男のヒューゴだ。
このパーティホールには騎士団に所属する私の部下もいたので、ヒューゴを見張るようにさりげなく指示を出す。
しばらく待っていると、「嫌な話を聞いてきました。ホールウェイ(廊下)で報告します」と部下。
「さきほど信じられない会話を耳にしました。ヒューゴはジゴロのような男ですよ。平民の女を誘惑し娼館に売り飛ばし豪遊した、という自慢話をしきりにしています。今度は平民の女ではなく高位貴族の令嬢を狙うと言っています。エルシー嬢のような女性をたぶらかし金を貢がせ、堕としてやったらきっと楽しいだろうな、とも。あり得ないクズです。パーティホールの庭園側のバルコニーで、男爵家三男ども5,6人が話していた内容です」
部下のスタンは、不快そうに顔を歪ませる。
「あのようなクズがいるから男爵家は敬遠されるのですよ。本当にいい迷惑です。この僕も実家は男爵家ですよ。スタン先輩、その”男爵家三男ども”って表現やめてもらっていいですか? 全く許せないなぁ!」
カンカンに怒っているカイもマース男爵家の三男だ。
あのろくでなしは私のエルシーに金を貢がせて、娼館に売るつもりらしい。
ホールウェイ(廊下)からエルシーの元に戻ると、彼女にヒューゴの悪巧みを話す。青ざめて唇を震わせ戸惑うエルシーの髪をそっと撫でた。
「私がエルシーを守るから大丈夫だ。だがそんな計画を立てていた身の程知らずを、懲らしめる必要はあるだろう。わかるよね? そんな悪党は檻の外にいてはダメさ」
涙目になりながら頷く彼女を必ず守ってみせる。
「あいつを罠にかけよう。きっと君に声をかけてくると思う。私がその隙をつくるから、君は愛想良くして、好意があるふりをしてほしい。わかるね? 近くにいるから安心して」
私が離れた隙にこちらの思惑通り、バルコニーにエルシーを誘導していくヒューゴに、黒い笑みを浮かべる。私の最愛に手を出そうとするなんていい度胸だ。そっと近くまで自分も移動し、耳を澄ます。
「俺と結婚してくださいませんか?」
「はい? 身分が違いますから無理ですわ。両親が許しません」
「大丈夫ですよ。あなただって俺が好きでしょう? 俺はあなたがいないと死んでしまうかもしれない」
「そうですね、好きかもしれませんね。ですが、両親は侯爵以上の家柄の男性でなければ許してくれません」
「俺にいい考えがあります。マケラ公爵家の馬車置き場の鍵をくれませんか?」
なるほど、・・・・・・馬車に細工をして叔父上夫妻を殺害する魂胆か? 完璧な犯罪者じゃないか! 叩きつぶしてやるから、待っていろ。私の妻になる女性を毒牙にかけようとしたことを一生後悔させてやろう。
私は幼い頃から、従姉妹のエルシー・マケラ公爵令嬢が好きだった。それは父上であるワウテルス公爵にも打ち明けたし、叔父上も知っている事実だ。
私達の結婚をお互いの両親は望んでいたし、私ももちろんそれを望んでいた。だがエルシーは私を避けていて、最近では滅多に挨拶すらできない日々が続く。
(なにか気に入らないことをしたのだろうか? なぜ嫌われたのかな? 昔はあんなに懐いてくれたのに)
落ち込む気持ちを振るい立たせるように、騎士団で日々精進を重ね邁進していく私だ。きっとこの努力は報われると信じた。
その甲斐あってかマケラ公爵家を両親と訪問した際に、エルシーは満面の笑みで迎えてくれた。しかも私が来期の騎士団長になることへのお祝いに、彼女の瞳色と同じ水色の剣穂もプレゼントしてくれた。
恋人同士は自分の瞳色のプレゼントを贈り合う慣習がある。だから、これは・・・・・・もしかして・・・・・・期待に胸を弾ませた。私とエルシーの両親も、もちろん大喜びだ。
父上と叔父上は仲のよい兄弟だし、私の母上とエルシーの母上は王立学園の同級生で親友同士だったから。
庭園を一緒に散歩しながら夜会のドレスの色を聞くと・・・・・・コヨーテブラウンに琥珀をつけると教えてくれた。私の髪は淡い茶色、瞳の色はゴールド。琥珀にも例えられる私の瞳と同じ宝石をつけていくって・・・・・・これが愛の告白じゃなければなんだって言うんだ?
「私はもちろん水色だ。一番好きな色だからね」
もちろん、それはエルシーの瞳の色だから好きなのさ。
「あ、うん。わかってる・・・・・・」
彼女はそう言って微笑む。なんてことだ! 知っていて今まで、じらされていたのか・・・・・・ほっとしたと同時にどうしようもないほど嬉しかった。
それからは毎日のように彼女に会いに行く。会う度に綺麗になっていき、淡いブラウンのリボンや髪飾りが増えていく。彼女はその色をコヨーテブラウンと表現した。なぜコヨーテが出てくるのか謎だが、その色は明らかに私の髪色だから素直に嬉しい。そんなに私を愛してくれていたなんて知らなかった。
エルシーがいつも別れ際に聞く言葉は、「私のことを守ってくれるでしょう?」だ。
当然だよ。未来の愛妻を守らない男がいるか? だから私は彼女に跪いて誓う。
「我が命に代えても、エルシーは全力で守る」
エルシーは「大袈裟ね!」そう言いながら笑うけれど、少しも大袈裟じゃない。
夜会の当日は空気が澄み渡り、夜空に星が煌めいていた。でも僕のエルシーは、僕の髪色と瞳色に包まれ夜空に煌めく星より輝いて見える。私も彼女の水色を纏い夜会に向かった。
彼女をエスコートしていると、エルシーに蛇のような粘着質な眼差しを向けている男に気がつく。ぞっとするほど綺麗な男だが、あまりいい噂を聞かないウィレムス男爵家三男のヒューゴだ。
このパーティホールには騎士団に所属する私の部下もいたので、ヒューゴを見張るようにさりげなく指示を出す。
しばらく待っていると、「嫌な話を聞いてきました。ホールウェイ(廊下)で報告します」と部下。
「さきほど信じられない会話を耳にしました。ヒューゴはジゴロのような男ですよ。平民の女を誘惑し娼館に売り飛ばし豪遊した、という自慢話をしきりにしています。今度は平民の女ではなく高位貴族の令嬢を狙うと言っています。エルシー嬢のような女性をたぶらかし金を貢がせ、堕としてやったらきっと楽しいだろうな、とも。あり得ないクズです。パーティホールの庭園側のバルコニーで、男爵家三男ども5,6人が話していた内容です」
部下のスタンは、不快そうに顔を歪ませる。
「あのようなクズがいるから男爵家は敬遠されるのですよ。本当にいい迷惑です。この僕も実家は男爵家ですよ。スタン先輩、その”男爵家三男ども”って表現やめてもらっていいですか? 全く許せないなぁ!」
カンカンに怒っているカイもマース男爵家の三男だ。
あのろくでなしは私のエルシーに金を貢がせて、娼館に売るつもりらしい。
ホールウェイ(廊下)からエルシーの元に戻ると、彼女にヒューゴの悪巧みを話す。青ざめて唇を震わせ戸惑うエルシーの髪をそっと撫でた。
「私がエルシーを守るから大丈夫だ。だがそんな計画を立てていた身の程知らずを、懲らしめる必要はあるだろう。わかるよね? そんな悪党は檻の外にいてはダメさ」
涙目になりながら頷く彼女を必ず守ってみせる。
「あいつを罠にかけよう。きっと君に声をかけてくると思う。私がその隙をつくるから、君は愛想良くして、好意があるふりをしてほしい。わかるね? 近くにいるから安心して」
私が離れた隙にこちらの思惑通り、バルコニーにエルシーを誘導していくヒューゴに、黒い笑みを浮かべる。私の最愛に手を出そうとするなんていい度胸だ。そっと近くまで自分も移動し、耳を澄ます。
「俺と結婚してくださいませんか?」
「はい? 身分が違いますから無理ですわ。両親が許しません」
「大丈夫ですよ。あなただって俺が好きでしょう? 俺はあなたがいないと死んでしまうかもしれない」
「そうですね、好きかもしれませんね。ですが、両親は侯爵以上の家柄の男性でなければ許してくれません」
「俺にいい考えがあります。マケラ公爵家の馬車置き場の鍵をくれませんか?」
なるほど、・・・・・・馬車に細工をして叔父上夫妻を殺害する魂胆か? 完璧な犯罪者じゃないか! 叩きつぶしてやるから、待っていろ。私の妻になる女性を毒牙にかけようとしたことを一生後悔させてやろう。
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