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9 忖度されて捨てられた私(ジャンヌ・ユゲット男爵令嬢視点)
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「なぜ泣くのですか? これでは私がジャンヌ様を虐めているみたいに思われます。もっと、背筋を伸ばして堂々としていたら良いのです。カタレヤ様の意見が正しいと思って、あの場にいたのでしょう?」
デリア様は私の目を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。
「あぁ、そのお話はデリアから聞いていますよ。デリアを複数で囲み、クラーク様と別れるように迫ったのですってね? きっちりご挨拶をして、その時の非礼を詫びれば印象も良かったのに。残念なお嬢さんだこと」
グラフトン侯爵夫人は、私が誤魔化そうとしたことを批判した。
「まぁ、良いではないか。トリスタン君が誰と結婚しようが彼の自由だ」
グラフトン侯爵閣下は穏やかな声でそうおっしゃった。
「そうよ、トリスタン様がどなたを娶ろうと、私たちにはなんの関係もありませんわ。お幸せになってくださいませね」
デリア様も朗らかに笑った。
やった! 私は許されたのよ!
ホッとした途端に食欲がでてきたわ。
「具合が悪いのでしょう? 食事は中断して帰りましょう」
トリスタン様に促されたけれど、私は首を横に振った。
「いいえ、もうすっかり気分が良くなりました。続きを頂きましょう」
満面の笑みで席まで戻ると、私はおしゃべりを続けた。トリスタン様も終始穏やかな笑顔を浮かべ、和やかな雰囲気がその場を包み込んでいたのよ。
けれど、その翌日にはシュリ伯爵家から、お断りのお手紙が届いた。そこにはグラフトン侯爵家が歓迎しない女性を妻にはできない、とはっきりと書かれていた。
お父様はその手紙を見て私に詰め寄る。
「どういうことだ。なぜ、グラフトン侯爵家がでてくるのだ? お前はいったいなにをした?」
お父様の鬼の形相に、私は泣きながらデリア様との経緯を説明した。お母様は号泣し、お父様は力なく肩を落とした。
「我が家は破滅だ。そのレストランには大勢の貴族たちがいたのだろう? 十日もすれば、ジャンヌのやらかしは社交界で知らぬ者はいなくなる。トリスタン様が断るはずだ」
「なんてことをしてくれたの? ユゲット男爵家はお終いだわ。ジャンヌも、もう貴族出身の男性とは結婚できませんよ。平民でもグラフトン侯爵家と縁のある有力者たちからは避けられるでしょうね」
「レストランでは、グラフトン侯爵はトリスタン様が誰と結婚しても良いとおっしゃったわ。デリア様だって自分たちには関係ないって言ったのよ」
「関係ないという言葉を、トリスタン様はマイナスに捉えたのだろうな。デリア様の代になったら確実に切り捨てられる、と感じたのかもしれない。忖度というやつだ」
「だったら、私が謝ってきます。デリア様に許してもらえれば良いのでしょう?」
私はグラフトン侯爵家まで馬車を走らせ、門番に要件を告げた。門番は魔道具でグラフトン侯爵家の執事と連絡をとった。
やがて、私はグラフトン候爵邸のサロンに案内された。その場で床に頭をこすりつけるように謝罪する。
「デリア様、申し訳ございませんでした。お願いですから、トリスタン様との結婚を邪魔しないでください」
泣きながら懇願した私に、グラフトン侯爵夫人とデリア様は戸惑っていた。
「邪魔なんてしていませんわ。トリスタン様がどなたを妻に迎えようが、デリアも私もそれほど興味はないのよ。グラフトン侯爵家は多くの商会と取引をしています。シュリ商会もそのなかのひとつにすぎませんからね」
これが家格の違い? 嫌がらせするほどの価値もないと言いたいの?
では、なぜ私は振られたの?
グラフトン侯爵邸から外に出ると、先ほどまで晴れていた空から小雨が降っていた。
「風邪を引いてしまいますわ。傘を持って行ってください」
デリア様が私に傘を手渡した。私が乗ってきた馬車がとめてある停留所までは、たいした距離もないのに優しい子だ。
だったら・・・・・・私の言い訳も通用するかもしれないわ。
「お願い、反省しているのよ。あんなことを言うべきではなかったわ。全てはカタレヤ様とファニー様が言い出したことなのです。私は反対したわ、本当よ。」
「ジャンヌ様が本当に反対したとしたら、あの場にいるべきではありませんでした。そして、あのお話しのあいだじゅう、ニヤニヤと笑っているべきでもなかったのですわ。あの場にいながら、自分だけが関係ないふりをなさるなんてみっともないです」
私の言葉に、すっと背筋を伸ばしたデリア様が、冷たい眼差しで私を見つめた。
「ごめんなさい。だけど、私は被害者なのよ。あの二人に無理矢理付き合わされただけなのよ。カタレヤ様が怖くて命令に従っただけなのです」
「私がもっとも嫌いなのは、友人を貶めて自分だけ得をしようとする方ですわ。では、ご機嫌よう! 二度と私の目の前に姿を現わさないでくださいね」
私はデリア様を本気で怒らせてしまったことを悟った。
☆彡 ★彡
その後、シュリ伯爵家に向かった私は、トリスタン様に泣いて懇願した。
「妻にしたくないと思ったのは、ジャンヌ嬢が不誠実だからです。大事なことを誤魔化して逃げようとする姿勢は、私の妻には全く相応しくない。私は結婚したら妻同伴で商会関係のざまざまなパーティに出席する必要がありますからね」
「その時はちゃんと対応しますわ! トリスタン様に断られたら、私にはもうまともな縁談はきません」
「だろうね。グラフトン侯爵家を敢えて敵にまわす貴族なんていませんからね。だが、平民で貴族と全く関わりのない仕事をしている者なら大丈夫だと思いますよ。例えば、船乗りとか煙突掃除夫とか靴磨きとかなら、絶対結婚できますよ。まぁ、頑張ってみてくださいね」
「へ? 船乗り? 煙突掃除夫? ばっ、ばかにしないでよぉおおーー!」
わかっていたわ。トリスタン様にとって私は、結婚してやっても良い相手であって、どうしても結婚したい相手ではなかった。
・・・・・・あぁ、失敗した。私はなんてバカだったんだろう・・・・・・
デリア様は私の目を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。
「あぁ、そのお話はデリアから聞いていますよ。デリアを複数で囲み、クラーク様と別れるように迫ったのですってね? きっちりご挨拶をして、その時の非礼を詫びれば印象も良かったのに。残念なお嬢さんだこと」
グラフトン侯爵夫人は、私が誤魔化そうとしたことを批判した。
「まぁ、良いではないか。トリスタン君が誰と結婚しようが彼の自由だ」
グラフトン侯爵閣下は穏やかな声でそうおっしゃった。
「そうよ、トリスタン様がどなたを娶ろうと、私たちにはなんの関係もありませんわ。お幸せになってくださいませね」
デリア様も朗らかに笑った。
やった! 私は許されたのよ!
ホッとした途端に食欲がでてきたわ。
「具合が悪いのでしょう? 食事は中断して帰りましょう」
トリスタン様に促されたけれど、私は首を横に振った。
「いいえ、もうすっかり気分が良くなりました。続きを頂きましょう」
満面の笑みで席まで戻ると、私はおしゃべりを続けた。トリスタン様も終始穏やかな笑顔を浮かべ、和やかな雰囲気がその場を包み込んでいたのよ。
けれど、その翌日にはシュリ伯爵家から、お断りのお手紙が届いた。そこにはグラフトン侯爵家が歓迎しない女性を妻にはできない、とはっきりと書かれていた。
お父様はその手紙を見て私に詰め寄る。
「どういうことだ。なぜ、グラフトン侯爵家がでてくるのだ? お前はいったいなにをした?」
お父様の鬼の形相に、私は泣きながらデリア様との経緯を説明した。お母様は号泣し、お父様は力なく肩を落とした。
「我が家は破滅だ。そのレストランには大勢の貴族たちがいたのだろう? 十日もすれば、ジャンヌのやらかしは社交界で知らぬ者はいなくなる。トリスタン様が断るはずだ」
「なんてことをしてくれたの? ユゲット男爵家はお終いだわ。ジャンヌも、もう貴族出身の男性とは結婚できませんよ。平民でもグラフトン侯爵家と縁のある有力者たちからは避けられるでしょうね」
「レストランでは、グラフトン侯爵はトリスタン様が誰と結婚しても良いとおっしゃったわ。デリア様だって自分たちには関係ないって言ったのよ」
「関係ないという言葉を、トリスタン様はマイナスに捉えたのだろうな。デリア様の代になったら確実に切り捨てられる、と感じたのかもしれない。忖度というやつだ」
「だったら、私が謝ってきます。デリア様に許してもらえれば良いのでしょう?」
私はグラフトン侯爵家まで馬車を走らせ、門番に要件を告げた。門番は魔道具でグラフトン侯爵家の執事と連絡をとった。
やがて、私はグラフトン候爵邸のサロンに案内された。その場で床に頭をこすりつけるように謝罪する。
「デリア様、申し訳ございませんでした。お願いですから、トリスタン様との結婚を邪魔しないでください」
泣きながら懇願した私に、グラフトン侯爵夫人とデリア様は戸惑っていた。
「邪魔なんてしていませんわ。トリスタン様がどなたを妻に迎えようが、デリアも私もそれほど興味はないのよ。グラフトン侯爵家は多くの商会と取引をしています。シュリ商会もそのなかのひとつにすぎませんからね」
これが家格の違い? 嫌がらせするほどの価値もないと言いたいの?
では、なぜ私は振られたの?
グラフトン侯爵邸から外に出ると、先ほどまで晴れていた空から小雨が降っていた。
「風邪を引いてしまいますわ。傘を持って行ってください」
デリア様が私に傘を手渡した。私が乗ってきた馬車がとめてある停留所までは、たいした距離もないのに優しい子だ。
だったら・・・・・・私の言い訳も通用するかもしれないわ。
「お願い、反省しているのよ。あんなことを言うべきではなかったわ。全てはカタレヤ様とファニー様が言い出したことなのです。私は反対したわ、本当よ。」
「ジャンヌ様が本当に反対したとしたら、あの場にいるべきではありませんでした。そして、あのお話しのあいだじゅう、ニヤニヤと笑っているべきでもなかったのですわ。あの場にいながら、自分だけが関係ないふりをなさるなんてみっともないです」
私の言葉に、すっと背筋を伸ばしたデリア様が、冷たい眼差しで私を見つめた。
「ごめんなさい。だけど、私は被害者なのよ。あの二人に無理矢理付き合わされただけなのよ。カタレヤ様が怖くて命令に従っただけなのです」
「私がもっとも嫌いなのは、友人を貶めて自分だけ得をしようとする方ですわ。では、ご機嫌よう! 二度と私の目の前に姿を現わさないでくださいね」
私はデリア様を本気で怒らせてしまったことを悟った。
☆彡 ★彡
その後、シュリ伯爵家に向かった私は、トリスタン様に泣いて懇願した。
「妻にしたくないと思ったのは、ジャンヌ嬢が不誠実だからです。大事なことを誤魔化して逃げようとする姿勢は、私の妻には全く相応しくない。私は結婚したら妻同伴で商会関係のざまざまなパーティに出席する必要がありますからね」
「その時はちゃんと対応しますわ! トリスタン様に断られたら、私にはもうまともな縁談はきません」
「だろうね。グラフトン侯爵家を敢えて敵にまわす貴族なんていませんからね。だが、平民で貴族と全く関わりのない仕事をしている者なら大丈夫だと思いますよ。例えば、船乗りとか煙突掃除夫とか靴磨きとかなら、絶対結婚できますよ。まぁ、頑張ってみてくださいね」
「へ? 船乗り? 煙突掃除夫? ばっ、ばかにしないでよぉおおーー!」
わかっていたわ。トリスタン様にとって私は、結婚してやっても良い相手であって、どうしても結婚したい相手ではなかった。
・・・・・・あぁ、失敗した。私はなんてバカだったんだろう・・・・・・
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