あなたを解放してあげるね【本編完結・続編連載中】

青空一夏

文字の大きさ
70 / 88

66 この国が羨ましい(皇太子視点)

しおりを挟む
「私は特に贅沢を望んでいるわけではありません。爵位を望むのはここにいるデリア嬢と一生添い遂げるためです。デリア嬢が男爵でも構わないというのなら、私は全く不満などないのですよ」

(なんと欲のない男なのだろう。しかも、一人の女性を大事にするという誠実さも好ましい)

「ナサニエル様。私は男爵でも全く気にしませんし、爵位などなくても構いません。多くの魔獣を一掃したナサニエル様の功績は誰もが評価します。爵位などという小さな枠には収まりきらない偉業なのです! いずれ伝説となり歴史に英雄や勇者として名が刻まれるでしょう」

(確かにそうだ。英雄や勇者がいる国とは、なんと素晴らしいのだろう)

「いや、ちょっと待て。男爵しかやらぬとは言っておらんぞ。貴族院で議会を開き多くの意見を聞いたうえで、相応しい爵位と栄誉を与える。それから、皇太子殿下。冗談が過ぎますぞ! 一歩間違えれば、戦争だ」

「申し訳ありません。あまりにもナサニエル君の活躍が素晴らしかったので、義弟になってもらえれば大変嬉しいと思いました。それに、ナサニエル君が望めば神獣もいる今、国王陛下にはナサニエル君を止める術はありません。これから各国の皇帝や王は、ナサニエル君を欲しがり、争いだすかもしれません」

 デリア嬢に撫でられていた子猫が、私の前に飛び出し元の姿に戻ったかと思うと、謁見の間いっぱいに巨大化した。グラフトン侯爵夫妻とナサニエル君にデリア嬢は、いつのまにかグリオンドールの背に乗せられている。国王陛下と私はグリオンドールの巨体のせいで、謁見の間の壁にムギュッと押しつけられ苦しい。

「主の幸せは我が守るゆえ、そのような心配は無用だぞ! 主、いいかげんここは飽きた。帰ろう!」

「猫ちゃんが神獣様だったのね? 素敵! グラフトン侯爵家にいらっしゃいません? また猫の姿に戻ったら侍女たちが猫じゃらしで遊んでくれますし、どんな本でも揃っている大きな図書室もあります。それに、グラフトン侯爵家のコックはとても料理上手ですよ。きっと、毎日楽しいわ」

「デリア嬢。グリオは魔獣の生命エネルギーを吸いますから、多分食事は一緒にできませんよ」
 
「ナサニエルよ。我は雑食だ。魔獣も食うが、我は人間の食い物もいける。古代の魔法使いたちが作ってくれたシチューは美味しかった」
 グリオンドールはさきほどの子猫に戻ると、デリア嬢の胸に飛び込みつぶやいた。

「シチューとグラタンは格別ですよね? わかりますよ、私も大好物です。だったら、これから毎日グラフトン侯爵家に行けますね。私は毎晩、グラフトン侯爵家でディナーを食べます」
 ナサニエル君たちは楽しそうにディナーの話をしながら去って行った。神獣は猫の姿のままデリア嬢に抱かれている。私も謁見の間を去ろうとすると、イシャーウッド国王が呼び止めた。

「皇太子のお父上にはきちんと報告します。覚悟しておくように」

「我が国に来ないかとナサニエル君を誘ったことですか? 別に父上が怒ることはないと思いますね。優秀な男を褒め称えただけの話です」

「そのことではない。『聖域の間』に避難するように言われたにも拘わらず、勝手な行動をしましたね? それによって、ナサニエルは不利な状況下で戦わねばならなくなった。ナサニエルが神獣を召喚したから生き延びたものの、できなかったらふたりとも命の危険がありました」

「あぁ、そっちか。確かにそうですね。今回のことは全て私の至らなさが引き起こしたことです。どうぞ、どうとでも報告してもらって構いません」

(父上に怒られても仕方あるまい。そこは別に気にならない。自分はまだまだ考えが甘すぎるのだ)

 謁見の間を出て庭園にさしかかると、ナサニエル君たちがまだ馬車に乗っておらず、ベンチに座っているのが見えた。

「一緒にグラフトン侯爵家で食事をしませんこと? ナサニエル様の素晴らしさを国王陛下に認識させるために煽ったのでしょう?」
 デリア嬢がふわりとした笑顔を浮かべた。

「買いかぶりすぎですよ。私はナサニエル君の力が欲しいだけの利己的な人間です」

「下手な嘘はつくな。我は人間どもの心の細かな機微まではわからぬが、敵か味方かぐらいはわかるのだ」
 子猫が私の手の前に、ぬっと頭をさしだす。

「なっ、なんですか?」

「ほら、我の頭を撫でよ。グリオンドールの頭を撫でる栄誉を与えてやる」
 私が頭をそっと撫でると、目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。あの大きく優雅で恐ろしい神獣が子猫になっている姿が微笑ましい。この国は素敵すぎる。

「私が伴ってきた文化大使のなかに『蕎麦職人』と『鰻職人』がいるのだが、グラフトン侯爵家で料理をさせましょうか? ナサニエル君に助けてもらったお礼です」

「蕎麦? 鰻? 我も食べたい!」
 子猫がキラキラとした大きな目を輝かせたのだった。



 ୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※「文化大使」: その国の文化を代表し、紹介する役割を持った人物のこと。特に外国訪問の際には、その国の文化や伝統を紹介する役割を果たす。

※インスタのbluesky77_77にグリオンドールのイメージAIイラストあります。子猫のイメージも投稿しています。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
健康で、元気なお姉様が羨ましかったの。 物心付いたときから、いつも体調が悪かった。いつもどこかが苦しかった。 お母様が側にいてくれて、ずっと看病してくれた。お父様は、わたしのお医者様の費用やお薬代を稼ぐのが大変なんだってお母様が言ってた。 わたし、知らなかったの。 自分が苦しかったから。お姉様のことを気にする余裕なんてなかったの。 今年こそは、お姉様のお誕生日をお祝いしたかった……んだけど、なぁ。 お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの? ※『わたくしの誕生日を家族で祝いたい、ですか? そんな我儘仰らないでくださいな。』の、妹視点。多分、『わたくしの誕生日を~』を先に読んでないとわかり難いかもです。 設定はふわっと。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

処理中です...