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66 この国が羨ましい(皇太子視点)
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「私は特に贅沢を望んでいるわけではありません。爵位を望むのはここにいるデリア嬢と一生添い遂げるためです。デリア嬢が男爵でも構わないというのなら、私は全く不満などないのですよ」
(なんと欲のない男なのだろう。しかも、一人の女性を大事にするという誠実さも好ましい)
「ナサニエル様。私は男爵でも全く気にしませんし、爵位などなくても構いません。多くの魔獣を一掃したナサニエル様の功績は誰もが評価します。爵位などという小さな枠には収まりきらない偉業なのです! いずれ伝説となり歴史に英雄や勇者として名が刻まれるでしょう」
(確かにそうだ。英雄や勇者がいる国とは、なんと素晴らしいのだろう)
「いや、ちょっと待て。男爵しかやらぬとは言っておらんぞ。貴族院で議会を開き多くの意見を聞いたうえで、相応しい爵位と栄誉を与える。それから、皇太子殿下。冗談が過ぎますぞ! 一歩間違えれば、戦争だ」
「申し訳ありません。あまりにもナサニエル君の活躍が素晴らしかったので、義弟になってもらえれば大変嬉しいと思いました。それに、ナサニエル君が望めば神獣もいる今、国王陛下にはナサニエル君を止める術はありません。これから各国の皇帝や王は、ナサニエル君を欲しがり、争いだすかもしれません」
デリア嬢に撫でられていた子猫が、私の前に飛び出し元の姿に戻ったかと思うと、謁見の間いっぱいに巨大化した。グラフトン侯爵夫妻とナサニエル君にデリア嬢は、いつのまにかグリオンドールの背に乗せられている。国王陛下と私はグリオンドールの巨体のせいで、謁見の間の壁にムギュッと押しつけられ苦しい。
「主の幸せは我が守るゆえ、そのような心配は無用だぞ! 主、いいかげんここは飽きた。帰ろう!」
「猫ちゃんが神獣様だったのね? 素敵! グラフトン侯爵家にいらっしゃいません? また猫の姿に戻ったら侍女たちが猫じゃらしで遊んでくれますし、どんな本でも揃っている大きな図書室もあります。それに、グラフトン侯爵家のコックはとても料理上手ですよ。きっと、毎日楽しいわ」
「デリア嬢。グリオは魔獣の生命エネルギーを吸いますから、多分食事は一緒にできませんよ」
「ナサニエルよ。我は雑食だ。魔獣も食うが、我は人間の食い物もいける。古代の魔法使いたちが作ってくれたシチューは美味しかった」
グリオンドールはさきほどの子猫に戻ると、デリア嬢の胸に飛び込みつぶやいた。
「シチューとグラタンは格別ですよね? わかりますよ、私も大好物です。だったら、これから毎日グラフトン侯爵家に行けますね。私は毎晩、グラフトン侯爵家でディナーを食べます」
ナサニエル君たちは楽しそうにディナーの話をしながら去って行った。神獣は猫の姿のままデリア嬢に抱かれている。私も謁見の間を去ろうとすると、イシャーウッド国王が呼び止めた。
「皇太子のお父上にはきちんと報告します。覚悟しておくように」
「我が国に来ないかとナサニエル君を誘ったことですか? 別に父上が怒ることはないと思いますね。優秀な男を褒め称えただけの話です」
「そのことではない。『聖域の間』に避難するように言われたにも拘わらず、勝手な行動をしましたね? それによって、ナサニエルは不利な状況下で戦わねばならなくなった。ナサニエルが神獣を召喚したから生き延びたものの、できなかったらふたりとも命の危険がありました」
「あぁ、そっちか。確かにそうですね。今回のことは全て私の至らなさが引き起こしたことです。どうぞ、どうとでも報告してもらって構いません」
(父上に怒られても仕方あるまい。そこは別に気にならない。自分はまだまだ考えが甘すぎるのだ)
謁見の間を出て庭園にさしかかると、ナサニエル君たちがまだ馬車に乗っておらず、ベンチに座っているのが見えた。
「一緒にグラフトン侯爵家で食事をしませんこと? ナサニエル様の素晴らしさを国王陛下に認識させるために煽ったのでしょう?」
デリア嬢がふわりとした笑顔を浮かべた。
「買いかぶりすぎですよ。私はナサニエル君の力が欲しいだけの利己的な人間です」
「下手な嘘はつくな。我は人間どもの心の細かな機微まではわからぬが、敵か味方かぐらいはわかるのだ」
子猫が私の手の前に、ぬっと頭をさしだす。
「なっ、なんですか?」
「ほら、我の頭を撫でよ。グリオンドールの頭を撫でる栄誉を与えてやる」
私が頭をそっと撫でると、目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。あの大きく優雅で恐ろしい神獣が子猫になっている姿が微笑ましい。この国は素敵すぎる。
「私が伴ってきた文化大使のなかに『蕎麦職人』と『鰻職人』がいるのだが、グラフトン侯爵家で料理をさせましょうか? ナサニエル君に助けてもらったお礼です」
「蕎麦? 鰻? 我も食べたい!」
子猫がキラキラとした大きな目を輝かせたのだった。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※「文化大使」: その国の文化を代表し、紹介する役割を持った人物のこと。特に外国訪問の際には、その国の文化や伝統を紹介する役割を果たす。
※インスタのbluesky77_77にグリオンドールのイメージAIイラストあります。子猫のイメージも投稿しています。
(なんと欲のない男なのだろう。しかも、一人の女性を大事にするという誠実さも好ましい)
「ナサニエル様。私は男爵でも全く気にしませんし、爵位などなくても構いません。多くの魔獣を一掃したナサニエル様の功績は誰もが評価します。爵位などという小さな枠には収まりきらない偉業なのです! いずれ伝説となり歴史に英雄や勇者として名が刻まれるでしょう」
(確かにそうだ。英雄や勇者がいる国とは、なんと素晴らしいのだろう)
「いや、ちょっと待て。男爵しかやらぬとは言っておらんぞ。貴族院で議会を開き多くの意見を聞いたうえで、相応しい爵位と栄誉を与える。それから、皇太子殿下。冗談が過ぎますぞ! 一歩間違えれば、戦争だ」
「申し訳ありません。あまりにもナサニエル君の活躍が素晴らしかったので、義弟になってもらえれば大変嬉しいと思いました。それに、ナサニエル君が望めば神獣もいる今、国王陛下にはナサニエル君を止める術はありません。これから各国の皇帝や王は、ナサニエル君を欲しがり、争いだすかもしれません」
デリア嬢に撫でられていた子猫が、私の前に飛び出し元の姿に戻ったかと思うと、謁見の間いっぱいに巨大化した。グラフトン侯爵夫妻とナサニエル君にデリア嬢は、いつのまにかグリオンドールの背に乗せられている。国王陛下と私はグリオンドールの巨体のせいで、謁見の間の壁にムギュッと押しつけられ苦しい。
「主の幸せは我が守るゆえ、そのような心配は無用だぞ! 主、いいかげんここは飽きた。帰ろう!」
「猫ちゃんが神獣様だったのね? 素敵! グラフトン侯爵家にいらっしゃいません? また猫の姿に戻ったら侍女たちが猫じゃらしで遊んでくれますし、どんな本でも揃っている大きな図書室もあります。それに、グラフトン侯爵家のコックはとても料理上手ですよ。きっと、毎日楽しいわ」
「デリア嬢。グリオは魔獣の生命エネルギーを吸いますから、多分食事は一緒にできませんよ」
「ナサニエルよ。我は雑食だ。魔獣も食うが、我は人間の食い物もいける。古代の魔法使いたちが作ってくれたシチューは美味しかった」
グリオンドールはさきほどの子猫に戻ると、デリア嬢の胸に飛び込みつぶやいた。
「シチューとグラタンは格別ですよね? わかりますよ、私も大好物です。だったら、これから毎日グラフトン侯爵家に行けますね。私は毎晩、グラフトン侯爵家でディナーを食べます」
ナサニエル君たちは楽しそうにディナーの話をしながら去って行った。神獣は猫の姿のままデリア嬢に抱かれている。私も謁見の間を去ろうとすると、イシャーウッド国王が呼び止めた。
「皇太子のお父上にはきちんと報告します。覚悟しておくように」
「我が国に来ないかとナサニエル君を誘ったことですか? 別に父上が怒ることはないと思いますね。優秀な男を褒め称えただけの話です」
「そのことではない。『聖域の間』に避難するように言われたにも拘わらず、勝手な行動をしましたね? それによって、ナサニエルは不利な状況下で戦わねばならなくなった。ナサニエルが神獣を召喚したから生き延びたものの、できなかったらふたりとも命の危険がありました」
「あぁ、そっちか。確かにそうですね。今回のことは全て私の至らなさが引き起こしたことです。どうぞ、どうとでも報告してもらって構いません」
(父上に怒られても仕方あるまい。そこは別に気にならない。自分はまだまだ考えが甘すぎるのだ)
謁見の間を出て庭園にさしかかると、ナサニエル君たちがまだ馬車に乗っておらず、ベンチに座っているのが見えた。
「一緒にグラフトン侯爵家で食事をしませんこと? ナサニエル様の素晴らしさを国王陛下に認識させるために煽ったのでしょう?」
デリア嬢がふわりとした笑顔を浮かべた。
「買いかぶりすぎですよ。私はナサニエル君の力が欲しいだけの利己的な人間です」
「下手な嘘はつくな。我は人間どもの心の細かな機微まではわからぬが、敵か味方かぐらいはわかるのだ」
子猫が私の手の前に、ぬっと頭をさしだす。
「なっ、なんですか?」
「ほら、我の頭を撫でよ。グリオンドールの頭を撫でる栄誉を与えてやる」
私が頭をそっと撫でると、目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。あの大きく優雅で恐ろしい神獣が子猫になっている姿が微笑ましい。この国は素敵すぎる。
「私が伴ってきた文化大使のなかに『蕎麦職人』と『鰻職人』がいるのだが、グラフトン侯爵家で料理をさせましょうか? ナサニエル君に助けてもらったお礼です」
「蕎麦? 鰻? 我も食べたい!」
子猫がキラキラとした大きな目を輝かせたのだった。
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※「文化大使」: その国の文化を代表し、紹介する役割を持った人物のこと。特に外国訪問の際には、その国の文化や伝統を紹介する役割を果たす。
※インスタのbluesky77_77にグリオンドールのイメージAIイラストあります。子猫のイメージも投稿しています。
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