(完)愛人を持とうとする夫

青空一夏

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私達は、とても仲睦まじかったのです。
私は、信虎様に心から仕えて、宝のように扱っておりました。
信虎様も、また、私を気遣い大事にしてくださったのです。

そうして、私はめでたくお子を授かることができたのでした。

「「「「おめでとうございまする」」」」

侍女達は、皆一様に喜んで私達にお祝いの言葉を言ってくれるのです。
嬉しくて、たまりませんでした。

隣の敷地の屋敷に住んでいる両親も、お祝いに駆けつけてくれました。

「なんと、めでたい! でかしたな。胡蝶!」

「あぁ、嬉しい。孫の顔が見られるなんて。夢のようだわ」

私は、たんと褒められて、上機嫌でおりました。



*:゚+。.☆.+



お腹はそれほど目立たなくて妊娠している実感はありませんでしたが、つわりがひどくて食欲もないのです。
顔も少しだけ、やつれて、髪や肌のつやがなくなっていくのがわかりました。

そんな苦しいなか、旦那様は私におっしゃったのです。

「胡蝶よ。そなたは大事な体ゆえ、ゆっくりと体を休ませた方がいいだろう。ついては、このおなごをこれからはわたしの寝所に寝かせようと思う」

「はい?」

「いや、だから、胡蝶の代わりにこのおなごを・・・・・・・・」

「それは、本気でおっしゃっているのですか?」

私は、とても穏やかに微笑みながらたずねたのです。

「もちろんだ。このおなごを側室に迎えてもよい。支度をさせてやってくれ」

当然のようにおっしゃる旦那様に、思わず声を荒げたくなる私なのですが、気分を落ち着かせるために目を閉じて深呼吸をしました。

「どうした? やきもちか? これぐらいの我慢はせよ。お腹にややができた。それだけで充分だろう? 夫としての義務は果たした。わたしは、胡蝶のようなふっくらしたおなごよりこのおなごのように華奢で可憐な女が好きなのだ」

私は、我が耳を疑いました。私の信虎様はこんなことを言うはずがない! これは夢だわ。お願い! 覚めて!

自分で頬の肉をぎゅっとつまむと、やはり痛いだけで、目の前のこの状況は変わっておりません。

「どうした? 聞こえなかったのか? 我慢して抱いてやって子供までさずけたんだ。好みの女ぐらい抱かせてくれよ!」

 ああぁ、私はまだ幻聴が聞こえているようです。
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