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「それにこのアルフィオはすでに留学・・・・・・」
私が言いかけるとアルフィオは首を横に振りながら、元夫達に無邪気な笑顔を向けた。
「考えたらパッチーニ男爵家が大金持ちなのは素晴らしいですね。早速、パッチーニ男爵家にお世話になりましょう」
「え? 何を言うの? アルフィオ!」
「母上は黙っていてください。これは僕が決めたことです。だが、父上。僕に干渉しないという約束を破ったので、罰金は母上に払っていただきたい。ところで、僕はアーグイピン帝国のプリンチピーニ学園に通いたいと思っております。ですからその試験を受ける手続きをしてもらえますか?」
「なんだって! あの世界最高峰のプリンチピーニ学園か? あそこは諸外国の王族だって平気で落とす実力勝負の学園だぞ。受かる自信はあるのかい?」
元夫の憧れるような眼差しがおかしい。まるでアルフィオの背後から後光が差しているかのように、眩しそうに見つめていた。
「もちろんですよ、父上。軽く合格して見せましょう。ただ、あちらは入学金も学費もとても高いですが、パッチーニ男爵家なら払えるのでしょう? ヴァケカペスネ王立貴族学園の3倍の授業料と寄宿費がかかります。あちらは全寮制ですからね」
そう、この国ヴァケカペスネ王国の学園よりもハイレベルで、授業料もとても高いのがプリンチピーニ学園だ。
「あぁ、そんなものは安心していなさい。パッチーニ男爵家に金はうなるほどあるさ。寄宿舎の部屋も個室にしてもらうし、持ち物も服も全ては最高のものを用意しよう」
元舅は嬉しさと誇らしさで顔を赤くし涙まで流す。
プリンチピーニ学園に通うのは7歳から15歳までだ。学費はとんでもない金額がかかるが、そこを卒業しただけでもどこの国に行っても尊敬されたし、将来は安泰だった。
その授業料を私はなんとしても用意しようとしていたのに。商家のお嬢さん達の家庭教師をもう4年ほどしているし、以前元夫からもらった慰謝料だって手つかずで残っていた。
(苦労したって可愛い息子の為なら、それは楽しくて嬉しい苦労なのに・・・・・・)
アルフィオと引き換えに、私にはまた多額のお金がパッチーニ男爵家から支払われたけれど、そのお金にはなんの興味もわかない。生きる力が一瞬にして抜け落ちたみたいよ。息子と引き換えのお金なんて要らない・・・・・・
(愛しい息子を恨んではダメ。きっとあの子は私に負担をかけまいとあちらに行ったのだから)
家庭教師を生涯の仕事にして、再婚もせずにサントーニ男爵家の離れにお母様と住まわせてもらう。お母様も私と一緒に暮らせて安心しているし、本邸に住む弟夫妻とも仲良しだ。
元夫からアルフィオについての自慢話が綴られた手紙が定期的に来るようになった。忌々しいけれど息子の近況が知りたくて読むしかなかった。
あの子は見事プリンチピーニ学園に合格したこと。元気よくアーグイピン帝国に向かったことが書かれていた。
成績はいつも上位だ、とか。この間の試験ではトップだった、とか。背が伸びてますます美男になった、とか。
(このような話を聞けるだけでも感謝しなければいけないわね)
私はそう思うようになっていく。
やがてアルフィオがプリンチピーニ学園を主席で卒業し、アーグイピン帝国から宰相補佐の打診まで受けていると元夫から手紙をもらう。
(やっぱり天才だったんだ。私の手の届かないところにどんどん行ってしまうのね)
とても素晴らしい子を産んでくれたよ。アルフィオは帝国の第2皇女殿下の心をも射止めたらしい。もうすぐ帰ってくるから楽しみだ。パッチーニ男爵家はアーグイピン帝国に移住するかもしれない。アルフィオは大層な出世をしたぞ。
元夫からの手紙は誇らしいけれど、悲しい。私の息子なのに・・・・・・
「母上! ただいま戻りました」
ところがそれから数日後、すっかり大人びたアルフィオが帰宅した場所は、サントーニ男爵家の離れである私の住まいだったのだ。
「アルフィオ、どうしてここに?」
「もちろん、お迎えに来ました。わたしはあちらの国に永住します。アーグイピン帝国宰相補佐ができる地位を実力で手に入れましたよ。それから第2皇女殿下とは近々婚約する予定です。母上に会いたい、と皆が言ってくれます。わたしの身内は母上とサントーニ男爵家の人達だけですからね。母上とこれからはずっと一緒にいられますよ」
「あなたは私を捨てたのではないの?」
「まさか。あいつらの金持ち自慢が激しかったので、留学費用を出させただけです。お金だけでも出させてあげたのだから、これで満足でしょう? だって、わたしは『パッチーニ男爵家にお世話になりましょう』と言っただけです。わたしがあいつらを世話するとはひとことも言ってませんよ」
もうすぐ16歳になるアルフィオは、ぞっとするほど美しい微笑みを浮かべた。
確かにこれなら大国の宰相補佐も務まるだろう。7歳にして父親にこのような報復ができるのだから。
「さぁ、母上。支度をなさってください。これからが母上の本当の人生ですよ」
(息子を産んで本当に良かった!)
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
最終話はパッチーニ男爵家のあてが外れたマヌケな末路になっています。
私が言いかけるとアルフィオは首を横に振りながら、元夫達に無邪気な笑顔を向けた。
「考えたらパッチーニ男爵家が大金持ちなのは素晴らしいですね。早速、パッチーニ男爵家にお世話になりましょう」
「え? 何を言うの? アルフィオ!」
「母上は黙っていてください。これは僕が決めたことです。だが、父上。僕に干渉しないという約束を破ったので、罰金は母上に払っていただきたい。ところで、僕はアーグイピン帝国のプリンチピーニ学園に通いたいと思っております。ですからその試験を受ける手続きをしてもらえますか?」
「なんだって! あの世界最高峰のプリンチピーニ学園か? あそこは諸外国の王族だって平気で落とす実力勝負の学園だぞ。受かる自信はあるのかい?」
元夫の憧れるような眼差しがおかしい。まるでアルフィオの背後から後光が差しているかのように、眩しそうに見つめていた。
「もちろんですよ、父上。軽く合格して見せましょう。ただ、あちらは入学金も学費もとても高いですが、パッチーニ男爵家なら払えるのでしょう? ヴァケカペスネ王立貴族学園の3倍の授業料と寄宿費がかかります。あちらは全寮制ですからね」
そう、この国ヴァケカペスネ王国の学園よりもハイレベルで、授業料もとても高いのがプリンチピーニ学園だ。
「あぁ、そんなものは安心していなさい。パッチーニ男爵家に金はうなるほどあるさ。寄宿舎の部屋も個室にしてもらうし、持ち物も服も全ては最高のものを用意しよう」
元舅は嬉しさと誇らしさで顔を赤くし涙まで流す。
プリンチピーニ学園に通うのは7歳から15歳までだ。学費はとんでもない金額がかかるが、そこを卒業しただけでもどこの国に行っても尊敬されたし、将来は安泰だった。
その授業料を私はなんとしても用意しようとしていたのに。商家のお嬢さん達の家庭教師をもう4年ほどしているし、以前元夫からもらった慰謝料だって手つかずで残っていた。
(苦労したって可愛い息子の為なら、それは楽しくて嬉しい苦労なのに・・・・・・)
アルフィオと引き換えに、私にはまた多額のお金がパッチーニ男爵家から支払われたけれど、そのお金にはなんの興味もわかない。生きる力が一瞬にして抜け落ちたみたいよ。息子と引き換えのお金なんて要らない・・・・・・
(愛しい息子を恨んではダメ。きっとあの子は私に負担をかけまいとあちらに行ったのだから)
家庭教師を生涯の仕事にして、再婚もせずにサントーニ男爵家の離れにお母様と住まわせてもらう。お母様も私と一緒に暮らせて安心しているし、本邸に住む弟夫妻とも仲良しだ。
元夫からアルフィオについての自慢話が綴られた手紙が定期的に来るようになった。忌々しいけれど息子の近況が知りたくて読むしかなかった。
あの子は見事プリンチピーニ学園に合格したこと。元気よくアーグイピン帝国に向かったことが書かれていた。
成績はいつも上位だ、とか。この間の試験ではトップだった、とか。背が伸びてますます美男になった、とか。
(このような話を聞けるだけでも感謝しなければいけないわね)
私はそう思うようになっていく。
やがてアルフィオがプリンチピーニ学園を主席で卒業し、アーグイピン帝国から宰相補佐の打診まで受けていると元夫から手紙をもらう。
(やっぱり天才だったんだ。私の手の届かないところにどんどん行ってしまうのね)
とても素晴らしい子を産んでくれたよ。アルフィオは帝国の第2皇女殿下の心をも射止めたらしい。もうすぐ帰ってくるから楽しみだ。パッチーニ男爵家はアーグイピン帝国に移住するかもしれない。アルフィオは大層な出世をしたぞ。
元夫からの手紙は誇らしいけれど、悲しい。私の息子なのに・・・・・・
「母上! ただいま戻りました」
ところがそれから数日後、すっかり大人びたアルフィオが帰宅した場所は、サントーニ男爵家の離れである私の住まいだったのだ。
「アルフィオ、どうしてここに?」
「もちろん、お迎えに来ました。わたしはあちらの国に永住します。アーグイピン帝国宰相補佐ができる地位を実力で手に入れましたよ。それから第2皇女殿下とは近々婚約する予定です。母上に会いたい、と皆が言ってくれます。わたしの身内は母上とサントーニ男爵家の人達だけですからね。母上とこれからはずっと一緒にいられますよ」
「あなたは私を捨てたのではないの?」
「まさか。あいつらの金持ち自慢が激しかったので、留学費用を出させただけです。お金だけでも出させてあげたのだから、これで満足でしょう? だって、わたしは『パッチーニ男爵家にお世話になりましょう』と言っただけです。わたしがあいつらを世話するとはひとことも言ってませんよ」
もうすぐ16歳になるアルフィオは、ぞっとするほど美しい微笑みを浮かべた。
確かにこれなら大国の宰相補佐も務まるだろう。7歳にして父親にこのような報復ができるのだから。
「さぁ、母上。支度をなさってください。これからが母上の本当の人生ですよ」
(息子を産んで本当に良かった!)
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最終話はパッチーニ男爵家のあてが外れたマヌケな末路になっています。
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