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4 罪を着せる夫と嘘を吐く姉
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すると、カラハン第一王子の胸が真っ赤に染まり、前のめりに倒れ込んだ。ハーランド第二王子は呆然としているアナスターシアにその銃を握らせ叫んだ。
「アナスターシア! 君はなんてことをしたのだ! いくら、銃が珍しくて触ってみたかったからと言って、兄上に向かって発砲するとは!」
ハーランド王子の声を聞きつけ、騎士たちが次々と駆けつけてくる足音が響いた。だが、意外なことに、最初に姿を現したのはローズリンだった。
「アナスターシア、なんてことをしたのよ? 素行の悪いアナスターシアだから、いつか困ったことになると思っていたわ。大変よぉーー! アナスターシアがカラハン王子を殺したわぁーー!」
婚礼の宴で陽気に呑んでいた貴族たちも気づきだし、あっという間に宝物庫の前に人だかりができた。
アナスターシアは必死に自分の無実を訴えた。
「ローズリンお姉様、私はなにもしていないわ」
「嘘よ。アナスターシアはいつも我が儘放題だったし、珍しい物や新しい物が大好きじゃない? その首にかかっている大きなサファイアも、ここから盗もうとしたのでしょう?」
「そうなのだよ。婚礼の宴にすっかり飽きてしまったアナスターシアに、宝物庫を見たいとせがまれたのさ。サファイアを盗もうとしたので注意したら、今度は銃を触りだした。僕はアナスターシアに銃を元に戻すようにと言った。だが、アナスターシアは戻さなかった。兄上は僕たちの言い争う声をききつけて、宝物庫に来たのさ」
「なるほどね。カラハン第一王子殿下はアナスターシアから銃を取り上げようとしていたのね? アナスターシアが暴れた弾みに発砲したのだわ。アナスターシア、あなたって人はなんて愚かなの?」
まるで打ち合わせをしていたかのように、ハーランド第二王子とローズリンはアナスターシアに罪を着せた。
「二人ともなにを言っているの? 嘘をつくのはよして。カラハン第一王子を撃ったのはハーランド様だわ」
「嘘です! 私はアナスターシアがカラハン第一王子殿下を撃つのを見ました。ハーランド第二王子殿下に罪をなすりつけようとするなんて、なんて恥知らずなの。姉として情けなくて、泣きたくなってくるわ。私やお母様が甘すぎたのかもしれないわね。アナスターシアがこうなったのは私のせいでもあります。アナスターシアと一緒に喜んで罰を受けますわ」
ローズリンの頬に一筋の涙がつたう。まるで歌劇のひと幕のようだった。
ローズリンの優しい言葉に貴族たちはいたく感動した。
「なんと美しい姉妹愛だ。ローズリン様はカッシング侯爵夫人の連れ子だろう? アナスターシア様とは血が繋がっていないはずなのに、なんともお優しい。ハーランド第二王子殿下にはローズリン様のような方がお似合いだ」
「ローズリン様はなにも悪くない。罰を受ける必要などないさ。罰を受けるのはアナスターシア様だけでいい。カラハン第一王子殿下を殺した罪は大きい」
王家の騎士たちの多くは、カラハン第一王子を尊敬していたのだ。
大事な主を殺されたカラハン第一王子の側近たちは、怒りのあまり恐ろしい言葉を連発しだした。彼らは主従関係以上の厚い信頼関係で結ばれていたからだ。
「死刑だ! カラハン殿下殺しは八つ裂きにするべきだ!」
「いや、火あぶりが妥当かもしれない。最も残酷な罰になればいい!」
「そうだ、そうだ! アナスターシアを殺せ!」
「違う、違う! 私はやっていないわ。無実なのよ」
悲痛な叫びが響くなか、前に進み出たのはマッキンタイヤー公爵だった。
「アナスターシア。本当にカラハン第一王子殿下を撃っていないのだな?」
「伯父様、本当よ。私じゃない。ハーランド様が撃ったのよ」
マッキンタイヤー公爵がハーランド第二王子を睨むと、ハーランド第二王子は眉を寄せ、悲しげにため息をついた。
「マッキンタイヤー公爵、僕が兄上を撃つなどありえないです。兄上は頭脳明晰で眉目秀麗と評判でした。僕がそんな兄上を尊敬し慕っていたのは、みんなが知っている事実です。アナスターシア、罪から逃れたい気持ちはわかるが、嘘を吐くなんて・・・・・・僕は悲しいよ」
「アナスターシア、本当のことを言いなさい。私は実際見たのだから。アナスターシアがカラハン第一王子殿下ともみ合いになり発砲しました。マッキンタイヤー公爵は、私とハーランド第二王子殿下が嘘をついているとおっしゃるのですか?」
マッキンタイヤー公爵は厳めしい顔つきで宣言する。
「私はアナスターシアの伯父だ。私だけはどんな時でも味方でいてやりたいのだ。だれも信じなくとも、私はアナスターシアを信じる」
周りの貴族たちはマッキンタイヤー公爵を非難した。
「英雄と呼ばれた高潔な男も、身内の過ちには甘いのか。アナスターシア様は幼い頃から我が儘で乱暴者だったと評判ではないか」
「栄光あるマッキンタイヤー公爵家も地に落ちたな」
そんな言葉が囁かれてもマッキンタイヤー公爵はアナスターシアを庇い、その胸にそっと抱きしめた。
「マッキンタイヤー公爵閣下。アナスターシア様をお離しください。この者は大罪人です。それを庇うようなことがあれば、マッキンタイヤー公爵も大きな罪に問われましょう」
王家の騎士たちが上司であるマッキンタイヤー公爵に進言した。
「そのようなことを恐れて将軍が務まると思うか? この命などなにも惜しくはない」
だが、マッキンタイヤー公爵の抵抗も虚しく、ゴルボーン国王自身がこの騒ぎを聞きつけ宝物庫の前に姿を現したのだった。
「アナスターシア! 君はなんてことをしたのだ! いくら、銃が珍しくて触ってみたかったからと言って、兄上に向かって発砲するとは!」
ハーランド王子の声を聞きつけ、騎士たちが次々と駆けつけてくる足音が響いた。だが、意外なことに、最初に姿を現したのはローズリンだった。
「アナスターシア、なんてことをしたのよ? 素行の悪いアナスターシアだから、いつか困ったことになると思っていたわ。大変よぉーー! アナスターシアがカラハン王子を殺したわぁーー!」
婚礼の宴で陽気に呑んでいた貴族たちも気づきだし、あっという間に宝物庫の前に人だかりができた。
アナスターシアは必死に自分の無実を訴えた。
「ローズリンお姉様、私はなにもしていないわ」
「嘘よ。アナスターシアはいつも我が儘放題だったし、珍しい物や新しい物が大好きじゃない? その首にかかっている大きなサファイアも、ここから盗もうとしたのでしょう?」
「そうなのだよ。婚礼の宴にすっかり飽きてしまったアナスターシアに、宝物庫を見たいとせがまれたのさ。サファイアを盗もうとしたので注意したら、今度は銃を触りだした。僕はアナスターシアに銃を元に戻すようにと言った。だが、アナスターシアは戻さなかった。兄上は僕たちの言い争う声をききつけて、宝物庫に来たのさ」
「なるほどね。カラハン第一王子殿下はアナスターシアから銃を取り上げようとしていたのね? アナスターシアが暴れた弾みに発砲したのだわ。アナスターシア、あなたって人はなんて愚かなの?」
まるで打ち合わせをしていたかのように、ハーランド第二王子とローズリンはアナスターシアに罪を着せた。
「二人ともなにを言っているの? 嘘をつくのはよして。カラハン第一王子を撃ったのはハーランド様だわ」
「嘘です! 私はアナスターシアがカラハン第一王子殿下を撃つのを見ました。ハーランド第二王子殿下に罪をなすりつけようとするなんて、なんて恥知らずなの。姉として情けなくて、泣きたくなってくるわ。私やお母様が甘すぎたのかもしれないわね。アナスターシアがこうなったのは私のせいでもあります。アナスターシアと一緒に喜んで罰を受けますわ」
ローズリンの頬に一筋の涙がつたう。まるで歌劇のひと幕のようだった。
ローズリンの優しい言葉に貴族たちはいたく感動した。
「なんと美しい姉妹愛だ。ローズリン様はカッシング侯爵夫人の連れ子だろう? アナスターシア様とは血が繋がっていないはずなのに、なんともお優しい。ハーランド第二王子殿下にはローズリン様のような方がお似合いだ」
「ローズリン様はなにも悪くない。罰を受ける必要などないさ。罰を受けるのはアナスターシア様だけでいい。カラハン第一王子殿下を殺した罪は大きい」
王家の騎士たちの多くは、カラハン第一王子を尊敬していたのだ。
大事な主を殺されたカラハン第一王子の側近たちは、怒りのあまり恐ろしい言葉を連発しだした。彼らは主従関係以上の厚い信頼関係で結ばれていたからだ。
「死刑だ! カラハン殿下殺しは八つ裂きにするべきだ!」
「いや、火あぶりが妥当かもしれない。最も残酷な罰になればいい!」
「そうだ、そうだ! アナスターシアを殺せ!」
「違う、違う! 私はやっていないわ。無実なのよ」
悲痛な叫びが響くなか、前に進み出たのはマッキンタイヤー公爵だった。
「アナスターシア。本当にカラハン第一王子殿下を撃っていないのだな?」
「伯父様、本当よ。私じゃない。ハーランド様が撃ったのよ」
マッキンタイヤー公爵がハーランド第二王子を睨むと、ハーランド第二王子は眉を寄せ、悲しげにため息をついた。
「マッキンタイヤー公爵、僕が兄上を撃つなどありえないです。兄上は頭脳明晰で眉目秀麗と評判でした。僕がそんな兄上を尊敬し慕っていたのは、みんなが知っている事実です。アナスターシア、罪から逃れたい気持ちはわかるが、嘘を吐くなんて・・・・・・僕は悲しいよ」
「アナスターシア、本当のことを言いなさい。私は実際見たのだから。アナスターシアがカラハン第一王子殿下ともみ合いになり発砲しました。マッキンタイヤー公爵は、私とハーランド第二王子殿下が嘘をついているとおっしゃるのですか?」
マッキンタイヤー公爵は厳めしい顔つきで宣言する。
「私はアナスターシアの伯父だ。私だけはどんな時でも味方でいてやりたいのだ。だれも信じなくとも、私はアナスターシアを信じる」
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「そのようなことを恐れて将軍が務まると思うか? この命などなにも惜しくはない」
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