(完結)夫と姉(継母の連れ子)に罪を着せられた侯爵令嬢の二度目の人生ー『復讐』よりも『長生き』したい!

青空一夏

文字の大きさ
7 / 33

6 アナスターシアの最期

しおりを挟む
 ハーランド第二王子とローズリンが地下牢を去った後、アナスターシアは抜け殻のように床にへたりこむ。明け方、刑の執行前にマッキンタイヤー公爵が姿を現した。

「アナスターシア。毒杯を飲む際はこの花びらを口に含みなさい。一瞬で命が絶てるから、長く苦しまずにすむ。アナスターシアにしてやれるのがこれぐらいしかないとは情けない。だが、怖がらなくていい。私もすぐにアナスターシアの後を追う。ユーフェミア様やバイオレッタにアナスターシアを守れなかったことを謝りに行かねばならん」
「伯父様、ごめんなさい。私がもう少し賢かったらこんなことにはならなかったのよ。伯父様の言うように、もっと真面目に生きていたら、ハーランドなんかに利用されないですんだのに。ローズリンにもサリナにも気を許してはいけなかったのよ。楽な生き方ばかりを追い求めてしまった私のせいだわ」
「自分の過ちに気づけたことは良いことだ。一緒に天国で幸せに暮らそう」
 マッキンタイヤー公爵の気持ちはすでに決まっていた。
(可愛い姪を死なせて、自分だけがなぜのうのうと生きていられようか?)
 彼はそう思っていたのだった。

「やはり、自害なさるおつもりですか? だったら、僕の手柄に一役買ってくださいよ。マッキンタイヤー公爵は愛する姪を逃そうとした。大犯罪人の逃亡を阻止した僕は英雄になれる。あっは! 英雄を殺して英雄になれるなんて面白いですよね?」 
 ハーランド第二王子が上機嫌でマッキンタイヤー公爵の背後に立っていた。

 彼は自分の専属騎士たちにマッキンタイヤー公爵を囲ませ、鋭い剣を四方から突き立てさせた。右腕を失ったマッキンタイヤー公爵は咄嗟のことで応戦もできず、その場に倒れ込んだ。
「愚かな姪を守ろうとするなんて滑稽だな」
 あざ笑うハーランド第二王子は、絶命したマッキンタイヤー公爵の身体を乱暴に蹴り、アナスターシアの手から花びらを奪い取った。

「こんなもので楽に死のうなんて甘いよ。君はさんざん我が儘をし放題だったのだから、そのツケを払わなきゃいけない。遅効性の毒杯でゆっくり内臓が侵されていく苦しみを味わうのだよ。僕はね、人が苦しみながら死ぬのを見るのが大好きだ。兄上は銃一発で死んじまったから、とても残念だったよ」
「今まで優しいふりをしていただけだったのね? 本性は薄汚い卑怯者だわ」
「なんとでも言えよ。所詮は負け犬の遠吠えさ。アナスターシア、君は人生というゲームに負けたのさ」

☆彡 ★彡

 
 死刑執行の場は王都で一番大きな広場であった。その場にはたくさんの物見高い見物人が溢れていた。
「悪女め! 早く毒を飲みやがれーー」
「カラハン王子殿下がお気の毒だわ。あんな女に殺されただなんて」
「毒婦め、地獄に墜ちろ。マッキンタイヤー公爵はアナスターシアを逃がそうとして斬られたらしい。英雄だったのに、姪可愛さに判断を誤ったな。ハーランド様が発見してくれて良かったよなぁーー」
 ハーランド第二王子の大嘘を信じた民たちが、見当違いの意見を言い合うなかで、アナスターシアはひたすら後悔し続けた。

「伯父様、ごめんなさい。私がバカだった。もし、やり直せるなら今度は絶対ハーランドたちには騙されないわ。伯父様の言うことを聞いて、絶対陥れられたりしないのに」
 アナスターシアは毒杯を手に取り、口にゆっくりと近づけた。杯の端に唇がついた途端、アナスターシアの指輪のオパールが七色に光った。その光はアナスターシアもハーランド第二王子も、周りで見物していた全ての者をも覆い尽くし・・・・・・
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです

珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。 だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。 それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。

私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです

珠宮さくら
恋愛
ルチア・ヴァーリは、勘違いされがちな幼なじみと仲良くしていた。周りが悪く言うような令嬢ではないと心から思っていた。 そんな幼なじみが婚約をしそうだとわかったのは、いいなと思っている子息に巻き込まれてアクセサリーショップで贈り物を選んでほしいと言われた時だった。 それを拒んで、証言者まで確保したというのにルチアが幼なじみの婚約を台無しにわざとした悪女のようにされてしまい、幼なじみに勘違いされたのではないかと思って、心を痛めることになるのだが……。

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。 そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。

姉に婚約破棄されるのは時間の問題のように言われ、私は大好きな婚約者と幼なじみの応援をしようとしたのですが、覚悟しきれませんでした

珠宮さくら
恋愛
リュシエンヌ・サヴィニーは、伯爵家に生まれ、幼い頃から愛らしい少女だった。男の子の初恋を軒並み奪うような罪作りな一面もあったが、本人にその自覚は全くなかった。 それを目撃してばかりいたのは、リュシエンヌの幼なじみだったが、彼女とは親友だとリュシエンヌは思っていた。 そんな彼女を疎ましく思って嫌っていたのが、リュシエンヌの姉だったが、妹は姉を嫌うことはなかったのだが……。

処理中です...