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23 カラハン王子登場
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「なんだと? カラハン第一王子殿下が? すぐにサロンにお通ししろ」
「それが、もう私の後ろにいらっしゃいます」
執事の背後からカラハン第一王子が颯爽と現れた。すると、アナスターシアにまっすぐ向かい、その手を握りしめる。
「カッシング侯爵邸に戻ったと聞いて、こちらに寄ってみたのだ。ところで、庭で大規模な工事が始まったね? あれは何を作らせているんだい? 職人たちをたくさん乗せた馬車とほぼ同時に到着したので気になってよく見たら、マッキンタイヤー公爵家の紋章がついていた。見たことのない材料をたくさん積んでいる荷馬車もあったよ」
「ふふっ。伯父様が開発させたプレファブのことよね? あらかじめ作成したパーツを設計図どおりに組み立てることで、短時間で建物ができあがるのですわ。私の薬草園となる温室と研究室を作るのです」
カッシング侯爵はなんのことかさっぱりわからず、窓から顔をだし庭園を見つめて、信じられないという表情をする。
「あっという間に建物ができあがる。初めて見たぞ! これはすごい」
感心しているカッシング侯爵に忌々しそうなサリナは鼻をならし、ローズリンはカラハン第一王子をうっとりとした眼差しで見つめた。
「カラハン第一王子殿下、お会いできて光栄でございます。私はカッシング侯爵家の長女でローズリンと申します・・・・・・」
さらに自己紹介の挨拶を続けようとするローズリンを、カラハン第一王子は手で制し冷たく言葉を遮った。
「カッシング侯爵家の長女? そのような者はこの世にいない。あなたはカッシング侯爵の後妻の連れ子に過ぎない。それとも、ローズリン嬢はカッシング侯爵の隠し子だったのか? ならば、父上の前で認知の届けをするべきだ。マッキンタイヤー公爵は、カッシング侯爵が前カッシング侯爵夫人の存命だった頃から、サリナとそのような仲だったことを知っていらっしゃるのか?」
不愉快な表情のカラハン第一王子に、カッシング侯爵は必死になって否定する。
「とんでもありません。バイオレッタを裏切ることなどするはずがありません。そんなことをしたら、マッキンタイヤー公爵に即刻斬り殺されていることでしょう」
「英雄がそのようなことをするはずないだろう? 言っておくが、私はマッキンタイヤー公爵を父上や伯父上と同じぐらい尊敬している。マッキンタイヤー公爵の悪口は許さない」
厳しい口調で宣言したカラハン第一王子だった。
「では、お父様。私はカラハン様と大事な用がありますので失礼します。それから、『サリナ様をお母様と呼ぶように』という命令は聞かなかったことにしますね」
「え? アナスターシアはそんなことを命令されたのかい? カッシング侯爵はご自分の立場をよく理解しておられないようだ。以前、カッシング侯爵は投資の失敗で大借金を抱えたことがありましたよね? 前カッシング侯爵夫人が持参金でその穴埋めをしたことは有名な話だ。カッシング侯爵家が今こうしてあるのも、前カッシング侯爵夫人のお陰なのですよ? それを忘れていい気なものですね。社交界の重鎮である貴婦人方が聞いたら、さぞ、おもしろおかしく噂するでしょうね」
「ひっ・・・・・・申し訳ございません。わしが迂闊でした。確かに強要することではなかったです。アナスターシアの好きに呼んだらいい。すまなかったな。・・・・・・あぁ、えぇっと、わしは急に頭が痛くなってきた。カラハン殿下、どうぞ、ごゆっくりなさってください。わしは少し横になります」
「あぁ、そうしたほうがいい。アナスターシアにくだらない命令を思いつく暇があったら、ゆっくり休んで、早く病気を治した方がいい。しかし、本当に病気なのですか? 見たところ、とても元気そうだ。頭以外はね」
辛辣な嫌味に、カッシング侯爵は面くらい、そそくさと寝室へと姿を消した。
サリナはカラハン第一王子まで味方につけたアナスターシアに、返すべき言葉も見つからず、ただ居心地悪そうにソファに座っていた。
ローズリンは麗しいカラハン第一王子に好かれたい一心で、勇気を振り絞って挨拶をした。しかし、その結果は冷たすぎる言葉で、自分の立場を思い知ることになった。むしゃくしゃした気持ちがおさまらずに、思いっきりアナスターシアを突き飛ばしてやりたい衝動に駆られていた。
(でも、さすがにアナスターシアに手を出したらまずいわよね。そうだわ。隙を見つけてアナスターシアの部屋に忍び込んで・・・・・・)
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
次回、ローズリンの最初のざまぁ、です。コミカルなざまぁになっています。
「それが、もう私の後ろにいらっしゃいます」
執事の背後からカラハン第一王子が颯爽と現れた。すると、アナスターシアにまっすぐ向かい、その手を握りしめる。
「カッシング侯爵邸に戻ったと聞いて、こちらに寄ってみたのだ。ところで、庭で大規模な工事が始まったね? あれは何を作らせているんだい? 職人たちをたくさん乗せた馬車とほぼ同時に到着したので気になってよく見たら、マッキンタイヤー公爵家の紋章がついていた。見たことのない材料をたくさん積んでいる荷馬車もあったよ」
「ふふっ。伯父様が開発させたプレファブのことよね? あらかじめ作成したパーツを設計図どおりに組み立てることで、短時間で建物ができあがるのですわ。私の薬草園となる温室と研究室を作るのです」
カッシング侯爵はなんのことかさっぱりわからず、窓から顔をだし庭園を見つめて、信じられないという表情をする。
「あっという間に建物ができあがる。初めて見たぞ! これはすごい」
感心しているカッシング侯爵に忌々しそうなサリナは鼻をならし、ローズリンはカラハン第一王子をうっとりとした眼差しで見つめた。
「カラハン第一王子殿下、お会いできて光栄でございます。私はカッシング侯爵家の長女でローズリンと申します・・・・・・」
さらに自己紹介の挨拶を続けようとするローズリンを、カラハン第一王子は手で制し冷たく言葉を遮った。
「カッシング侯爵家の長女? そのような者はこの世にいない。あなたはカッシング侯爵の後妻の連れ子に過ぎない。それとも、ローズリン嬢はカッシング侯爵の隠し子だったのか? ならば、父上の前で認知の届けをするべきだ。マッキンタイヤー公爵は、カッシング侯爵が前カッシング侯爵夫人の存命だった頃から、サリナとそのような仲だったことを知っていらっしゃるのか?」
不愉快な表情のカラハン第一王子に、カッシング侯爵は必死になって否定する。
「とんでもありません。バイオレッタを裏切ることなどするはずがありません。そんなことをしたら、マッキンタイヤー公爵に即刻斬り殺されていることでしょう」
「英雄がそのようなことをするはずないだろう? 言っておくが、私はマッキンタイヤー公爵を父上や伯父上と同じぐらい尊敬している。マッキンタイヤー公爵の悪口は許さない」
厳しい口調で宣言したカラハン第一王子だった。
「では、お父様。私はカラハン様と大事な用がありますので失礼します。それから、『サリナ様をお母様と呼ぶように』という命令は聞かなかったことにしますね」
「え? アナスターシアはそんなことを命令されたのかい? カッシング侯爵はご自分の立場をよく理解しておられないようだ。以前、カッシング侯爵は投資の失敗で大借金を抱えたことがありましたよね? 前カッシング侯爵夫人が持参金でその穴埋めをしたことは有名な話だ。カッシング侯爵家が今こうしてあるのも、前カッシング侯爵夫人のお陰なのですよ? それを忘れていい気なものですね。社交界の重鎮である貴婦人方が聞いたら、さぞ、おもしろおかしく噂するでしょうね」
「ひっ・・・・・・申し訳ございません。わしが迂闊でした。確かに強要することではなかったです。アナスターシアの好きに呼んだらいい。すまなかったな。・・・・・・あぁ、えぇっと、わしは急に頭が痛くなってきた。カラハン殿下、どうぞ、ごゆっくりなさってください。わしは少し横になります」
「あぁ、そうしたほうがいい。アナスターシアにくだらない命令を思いつく暇があったら、ゆっくり休んで、早く病気を治した方がいい。しかし、本当に病気なのですか? 見たところ、とても元気そうだ。頭以外はね」
辛辣な嫌味に、カッシング侯爵は面くらい、そそくさと寝室へと姿を消した。
サリナはカラハン第一王子まで味方につけたアナスターシアに、返すべき言葉も見つからず、ただ居心地悪そうにソファに座っていた。
ローズリンは麗しいカラハン第一王子に好かれたい一心で、勇気を振り絞って挨拶をした。しかし、その結果は冷たすぎる言葉で、自分の立場を思い知ることになった。むしゃくしゃした気持ちがおさまらずに、思いっきりアナスターシアを突き飛ばしてやりたい衝動に駆られていた。
(でも、さすがにアナスターシアに手を出したらまずいわよね。そうだわ。隙を見つけてアナスターシアの部屋に忍び込んで・・・・・・)
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
次回、ローズリンの最初のざまぁ、です。コミカルなざまぁになっています。
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