兄皇帝は妹皇女を深く愛する

青空一夏

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お母様の死

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魔法使い様の言葉に宴にいた者はみな驚愕したし、お父様は必死で怒りの感情を抑え込もうとしていた。

強大な力をもつ魔法使いたちは、真実を見抜く目を持っていて、諸国を修行のために旅をして歩くのがこの世界では慣習となっていた。

魔法使い様の数はこの世界では一握りで尊敬されていたから、誰もこの魔法使い様の言葉を疑わない。

反論しなければならない立場の皇妃であるお母様は、血の気を失い紙のように真っ白で力のない表情をうかべていた。


お母様、なぜ反論しないの?
私はお父様の子供ではないの?


少し離れた場所にいたお兄様は私を心配そうに見ていた。
と同時に、魔法使い様を厳しい目で睨みながらお兄様だけが声をあげた。

「この魔法使いは偽物だ!この者のいうことは全て嘘だ!エリザベスはこの国の皇女だ!」

「ふん!嘘ではない。あぁ、お前は皇子か‥‥皇帝よ、この皇子はやがて周りの国すべてを従える。さて、長居しすぎたな」
魔法使いは霧のように消えて、さっきまで持っていた酒のグラスが床に落ちて音を立てて、割れた。






「妃と皇女を離れに移せ!皇子は代わりにこちらの宮殿に住むのだ」
お父様はお母様と私のほうを少しも見ずに、冷たく言い放った。

私とお母様は、お兄様がいた離れの宮殿でメイドもつかず暮らすことになったの。



一度だけ、お父様はお母様のところに来たことがあった。

「誰の子なんだ?あの娘は?」

「あなたの娘です」

「ばかな!!魔法使いは真実の目を持っている。それ以上ごまかすなら、エリザベスを拷問にかけてもいい」

「そんな!‥‥私は婚礼の三日前に王宮からの帰りに襲われて‥‥皇妃様には相談しました‥‥皇妃様は気にするな、と‥‥犬に噛まれたようなものだと‥‥私のせいではないとおっしゃってくださいました‥‥」

「襲われた?それならば、エリザベスの父親は貴族でもないということだな?盗人か強姦魔の男が父親か!よくも、今まで騙してくれたな。余は、そなたを誰よりも愛していたんだ!!それなのに‥‥余の母君と一緒になって騙していたとは!」

そんな会話が聞こえてきて、お母様の泣く声とお父様が足早に部屋から出て行き扉を思いっきり乱暴に閉める音がした。


お母様は、それからずっと泣きどおしで、なにもお食べにならない。







あんなに華やかで美しかったお母様がやつれてベッドに寝ている。

大好きだったお父様に見捨てられたお母様はもう生きる気力がなくなっていたの。
食も細くなり、食べてもすぐに吐いてしまう。

お父様がお母様のところに駆けつけたのは息をひきとる数分前だ。

「ナタリー。なんでこんなことになった?死なす気はなかった。愛するお前を殺す気なんてなかったのに‥‥」

「あなた‥‥愛しています」
鈴のように美しい声がそれだけを弱々しく囁いた。

お母様は遠いところに行ってしまった。


そして、お父様は怒りと悲しみを私に向けるようになった。

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