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7 sideレイバン
正直に言えば、私は女性の好意を、素直に信じられなくなっていた。
ロメリル侯爵家の跡取りとして生まれた以上、好意と打算を見分ける術など、嫌でも身につけさせられる。
近づいてくる女性の多くは分かりやすかった。
結婚すれば、どんな暮らしができるのか。
どんな贅沢が待っているのか。
話題は、決まってそこに行き着く。
だが、友人の妹であるメアリーと会ったとき、私は小さな衝撃を覚えた。
彼女は、私の前で一切取り繕わない。
勉強熱心な彼女に、何気なく「将来の希望」を尋ねたことがある。
「自分の生活費を、自分で稼ぎたいと思っています」
迷いのない声で、そう返ってきた。
「え?……高位貴族の男性や金持ちの男性と、結婚したいとは思わないのかい?そうすれば、働かなくてもいいんだよ」
「うーん。私、自分も頑張りたいのですよね。働きたくないと思ったことは、ありませんし……それに、うちは特別に贅沢ができる家でもありませんから……」
学園を主席で卒業したときも、女王陛下に見出されて専属侍女に抜擢されたときも、彼女は誇らしげに自慢することはなかった。
「たまたま勉強が好きだっただけですし、女王陛下に選んでいただいたのも、幸運だっただけです」
そう、当たり前のように言う。
(ああ、そうか。この子は、こんなふうにまっすぐで、淡々としていながら、芯の強い女性なんだ)
私はいつの間にか、彼女の容姿ではなく誠実さや努力を惜しまない姿勢を、“美しい”と感じるようになっていた。また、愛想のない受け答えでさえ、媚びへつらう女性の多い中では、かえって清々しく思えた。
この子が、正当に評価される世界であってほしい――そう願ってしまう自分がいる。
それを恋と呼ぶのなら、私はもう逃げられない。
しかし、その結論に至ったときには、すでに彼女の婚約者は決まっていた。
コナー伯爵家の三男、ローレンスだ。
(どんな男なのか。メアリーを幸せにしてくれそうな男なら、祝福し静かに見守るつもりだが……)
そう思ったある日。
後をつけてみた私は、バーで聞き捨てならない言葉を耳にすることになる。
「……優秀だけが取り柄だよ。そのおかげで、女王陛下に気に入られて専属侍女になったから、給金は僕みたいな下級の騎士団員よりも何倍も高い。まあ、それだけはありがたいと思ってる。そのおかげで一生懸命頑張って出世する必要がないんだからな。メアリーがその分稼いでくれるから、楽って言えば楽だよなぁ。いわゆる金の卵を産む鶏かも……」
(守るべき妻の才覚と稼ぎに、平然と寄りかかる男だな。貴族の矜持はどうした? こんな者とメアリーがつりあうわけがない。しかも、何度もメアリーを好みのタイプではないと否定する……許せん)
私は画策した。――いや、正確には、何かを強制したわけではない。ただ、愚かな男なら勝手に踏み外しそうな、取るに足らない噂話を、ひとつ教えただけだ。
ソウルメイト・前世という魔法の言葉。この言葉は一部の夢見がちな女性には、かなり効果的な言葉だとか……。
愚かな男ローレンスは、実際、周囲の女性に試して墓穴を掘った。
しかも、メアリーの親友にまで手を出そうとしたなんて……これには正直、エステル嬢に少し申し訳ない気がしていた。後日、メアリーとともにエステル嬢も誘い、お詫びのつもりで流行のカフェでスイーツを思いっきり食べてもらった。もちろん、理由は言わなかったが……
ロメリル侯爵家の跡取りとして生まれた以上、好意と打算を見分ける術など、嫌でも身につけさせられる。
近づいてくる女性の多くは分かりやすかった。
結婚すれば、どんな暮らしができるのか。
どんな贅沢が待っているのか。
話題は、決まってそこに行き着く。
だが、友人の妹であるメアリーと会ったとき、私は小さな衝撃を覚えた。
彼女は、私の前で一切取り繕わない。
勉強熱心な彼女に、何気なく「将来の希望」を尋ねたことがある。
「自分の生活費を、自分で稼ぎたいと思っています」
迷いのない声で、そう返ってきた。
「え?……高位貴族の男性や金持ちの男性と、結婚したいとは思わないのかい?そうすれば、働かなくてもいいんだよ」
「うーん。私、自分も頑張りたいのですよね。働きたくないと思ったことは、ありませんし……それに、うちは特別に贅沢ができる家でもありませんから……」
学園を主席で卒業したときも、女王陛下に見出されて専属侍女に抜擢されたときも、彼女は誇らしげに自慢することはなかった。
「たまたま勉強が好きだっただけですし、女王陛下に選んでいただいたのも、幸運だっただけです」
そう、当たり前のように言う。
(ああ、そうか。この子は、こんなふうにまっすぐで、淡々としていながら、芯の強い女性なんだ)
私はいつの間にか、彼女の容姿ではなく誠実さや努力を惜しまない姿勢を、“美しい”と感じるようになっていた。また、愛想のない受け答えでさえ、媚びへつらう女性の多い中では、かえって清々しく思えた。
この子が、正当に評価される世界であってほしい――そう願ってしまう自分がいる。
それを恋と呼ぶのなら、私はもう逃げられない。
しかし、その結論に至ったときには、すでに彼女の婚約者は決まっていた。
コナー伯爵家の三男、ローレンスだ。
(どんな男なのか。メアリーを幸せにしてくれそうな男なら、祝福し静かに見守るつもりだが……)
そう思ったある日。
後をつけてみた私は、バーで聞き捨てならない言葉を耳にすることになる。
「……優秀だけが取り柄だよ。そのおかげで、女王陛下に気に入られて専属侍女になったから、給金は僕みたいな下級の騎士団員よりも何倍も高い。まあ、それだけはありがたいと思ってる。そのおかげで一生懸命頑張って出世する必要がないんだからな。メアリーがその分稼いでくれるから、楽って言えば楽だよなぁ。いわゆる金の卵を産む鶏かも……」
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しかも、メアリーの親友にまで手を出そうとしたなんて……これには正直、エステル嬢に少し申し訳ない気がしていた。後日、メアリーとともにエステル嬢も誘い、お詫びのつもりで流行のカフェでスイーツを思いっきり食べてもらった。もちろん、理由は言わなかったが……
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