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4 嘘なんてつかなければ良かった(妹視点)
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私はこの国でも多分一番美人だと思う。だから、なんっでも手に入るはずだ。かっこいい男だって、麗しい男だって……高位貴族だって!
なのによ……なんで、アール様はあの冴えない姉と婚約したの? 意味不明だわ! だから、秘密を探りにアール様と接触した。
アール様のクラスの前で待ち伏せして、
「なんで、あの姉なんですか? 私ではダメなのですか?」
と尋ねた。
「え? うん。だって、あの日、伯父上を助けてくれたのはアテナだろう?」
「あの日? 助ける? なんのことですか?」
「だからさ……○月×日に美術館で気分が悪くなって倒れた伯父上を助けてくれたのはアテナなんだよ。名前を聞いたらエマエル男爵家の娘と言ったそうだ。とても、的確な応急処置だったそうだ」
「応急処置……伯父様というのは、あのテンバー公爵閣下ですか?」
「あぁ、そうさ。伯父上はとても感謝しているし、私もそれに感動した! そういう優しい、気が利く女性と結婚したいと思ったのさ」
「テンバー公爵閣下は確か目が悪くて、よく見えないのではなかったですか? お姉様だとなぜ思うのです? エマエル男爵家には娘は二人いますよ?」
「だって、図書館でいつも勉強しているのはアテナだろう? あの時、アテナは応急処置の本を読んでいたし、セニアはいつだって綺麗に着飾って、流行のお店に入り浸っているイメージしかないから……」
「ちょっと、失礼な! 美術館にいたのは、私ですよ。最近はお姉様を見習って、そういった本も自宅で読んでおりました。えぇ、間違いなく私がテンバー公爵閣下の介抱をしましたとも! それはお姉様ではありません!」
私は、嘘をつくのが得意だった。さも、事実であるようにその時の様子を熱弁したわ。幸い、ついこのあいだ観劇で、急に倒れた主人公を介抱する恋人の場面を見たばかりだ。
「あまり動かさないようにして横向きにしてあげました。息もしていないようでしたので、心臓マッサージをして……胸骨圧迫を30回ほどして……」
「あぁ、その通りだよ! アテナじゃなくてセニアだったのかぁーー。ごめんよ、エマエル男爵のご令嬢としか聞いていなかったから……」
そして、アール様は信じてくださった。……で、……結婚したけれど……
☆彡★彡☆彡
結婚して二日目にアール様は私に、テンバー公爵家に行ってくるように指示をした。
「なんで、私がテンバー公爵家に行かなければならないのですか?」
「伯父上には病気で寝たきりの夫人がいるが、侍女には不安で世話をさせられないと言うんだ……だから私は君が毎日行ってお世話をするって約束したのさ。君は伯父上に、とても信頼されているからね!」
「え? おかしいでしょ? なんで、シュトン侯爵夫人になった私が、お世話をしなければならないのですか?」
「シュトン侯爵家はテンバー公爵家から多額の融資を受けている。ところが、返す目処は全くたっていないのに返済日が迫っているんだ。でも君の話をしたら返済日を伸ばしてくれるし、夫人の世話を誠心誠意してくれたら返さなくていいとまで言ってくれたんだよ」
「……まさか……テンバー公爵を助けた優しい娘だから私と結婚したのではなく、最初から介護をさせ借金を帳消しにさせようという魂胆だったのね?」
「人聞きの悪いこと言わないでほしいな。介護って大事な仕事だし、セニアはこういうことが好きなはずでしょう?
伯父上には子供の頃から可愛がってもらっているし、なにか恩返しがしたかったんだ。侍女も少しは、手伝ってくれるから大丈夫だよ。まぁ、主要なことはセニアが率先してお世話してね! 元気な赤ちゃんを産むためにも徳を積むって大事だよね?」
「……そんな……あり得ないわ……ちょっと、実家に用事を思い出しました……」
☆彡★彡☆彡
私は実家に戻って、お姉様に泣きついた。お姉様はいつだって、おかしな本を読んでいる。この日は「妊娠初期の妊婦の健康」という本だ。
私の為に読んでいるというけれど、なんでお姉様は鈍感なの!
私はそんなお優しいお姉様が大嫌いなのよ。だから散々嫌味を言ってきているのに、まるで気にもとめない!天然なのか……天使なのか……とにかく当てつけがましく嫌がらせをしても、アール様を奪った時でさえ、にこやかに微笑んでいた。
だったら、このお願いも聞いてくれるわよね?
「お姉様! お願い! アール様とレントを交換して!」
その言葉と一緒にお姉様の分厚い本が私の足の甲に落ちた。痛くて涙がでたけれど、私が急に抱きついたせいだからしようがない。
お姉様と両親にも訳を話し「アール様とレントを交換して」と懇願したけれど、皆が『そんなことは無理だ』と言った。お腹の子が問題なんだって……あぁ、そういえばお姉様が前に言っていた本には『安易に産まないこと』って書いてあった。こういうことなのか……
お姉様のふりをして妊娠して結婚した私には、もう逃げ道はない。本当ならまだ学園に通って友人と楽しくカフェ巡りしたり、楽しいことがたくさんあったはずなのに……
「セニア、貴女は貴重な体験ができると思えば良いわ。私だったらそう思うわ。頑張りなさい!」
お姉様は相変わらず優しい笑顔で励ましてくれるけれど、それなら介護を代わってくれればいいのにと思う。酷いよ、こんなの!
「そんなぁーー」
私は半泣きになって、床にしゃがみ込んだ。
「セニア、よく聞いてね。貴女も私もいずれ歳をとって、介護してもらわなければならない日がくるかもしれないのよ? けっして、他人ごとではないの。だから、それだけ信頼されて喜ばれているのなら、テンバー公爵夫人のお世話を誠心誠意やりなさい。私だってもうすぐレント様と結婚して、そのご両親と同居するのよ。介護が必要になればお世話もするつもりだわ。だから、あなたも逃げてはいけないわ」
こんな正論をいつも言うお姉様だから、大嫌いなのよ! いつも正しい事ばかりして、落ち着いて賢く生きているお姉様が羨ましい……私は……どうしたらいいんだろう……学園に戻ってまた楽しいことばかりできた日々にかえりたい。
☆彡★彡☆彡
そういえばレントは優しかったし、どこにでも連れていってくれた。お金持ちだったし……私は青春を失って、せっかくの幸せを自分から手放したんだ……
「おっ、お姉様……お願い……ひっく……うっ……うっつ……私が悪かったです。どうしていいか……わからないよぉーー。う、うわぁーーん」
お姉様は私の背中を撫でながら、抱きしめてくれた。その時、悟った。
こんな良いお手本になる姉がいてくれたのに、なんで私はちゃんと現実を見なかったんだろう……
ふわふわと好き勝手に生きていたから、こんなことになったんだ……私は……ちょっとだけ、変わろうと思う。
なのによ……なんで、アール様はあの冴えない姉と婚約したの? 意味不明だわ! だから、秘密を探りにアール様と接触した。
アール様のクラスの前で待ち伏せして、
「なんで、あの姉なんですか? 私ではダメなのですか?」
と尋ねた。
「え? うん。だって、あの日、伯父上を助けてくれたのはアテナだろう?」
「あの日? 助ける? なんのことですか?」
「だからさ……○月×日に美術館で気分が悪くなって倒れた伯父上を助けてくれたのはアテナなんだよ。名前を聞いたらエマエル男爵家の娘と言ったそうだ。とても、的確な応急処置だったそうだ」
「応急処置……伯父様というのは、あのテンバー公爵閣下ですか?」
「あぁ、そうさ。伯父上はとても感謝しているし、私もそれに感動した! そういう優しい、気が利く女性と結婚したいと思ったのさ」
「テンバー公爵閣下は確か目が悪くて、よく見えないのではなかったですか? お姉様だとなぜ思うのです? エマエル男爵家には娘は二人いますよ?」
「だって、図書館でいつも勉強しているのはアテナだろう? あの時、アテナは応急処置の本を読んでいたし、セニアはいつだって綺麗に着飾って、流行のお店に入り浸っているイメージしかないから……」
「ちょっと、失礼な! 美術館にいたのは、私ですよ。最近はお姉様を見習って、そういった本も自宅で読んでおりました。えぇ、間違いなく私がテンバー公爵閣下の介抱をしましたとも! それはお姉様ではありません!」
私は、嘘をつくのが得意だった。さも、事実であるようにその時の様子を熱弁したわ。幸い、ついこのあいだ観劇で、急に倒れた主人公を介抱する恋人の場面を見たばかりだ。
「あまり動かさないようにして横向きにしてあげました。息もしていないようでしたので、心臓マッサージをして……胸骨圧迫を30回ほどして……」
「あぁ、その通りだよ! アテナじゃなくてセニアだったのかぁーー。ごめんよ、エマエル男爵のご令嬢としか聞いていなかったから……」
そして、アール様は信じてくださった。……で、……結婚したけれど……
☆彡★彡☆彡
結婚して二日目にアール様は私に、テンバー公爵家に行ってくるように指示をした。
「なんで、私がテンバー公爵家に行かなければならないのですか?」
「伯父上には病気で寝たきりの夫人がいるが、侍女には不安で世話をさせられないと言うんだ……だから私は君が毎日行ってお世話をするって約束したのさ。君は伯父上に、とても信頼されているからね!」
「え? おかしいでしょ? なんで、シュトン侯爵夫人になった私が、お世話をしなければならないのですか?」
「シュトン侯爵家はテンバー公爵家から多額の融資を受けている。ところが、返す目処は全くたっていないのに返済日が迫っているんだ。でも君の話をしたら返済日を伸ばしてくれるし、夫人の世話を誠心誠意してくれたら返さなくていいとまで言ってくれたんだよ」
「……まさか……テンバー公爵を助けた優しい娘だから私と結婚したのではなく、最初から介護をさせ借金を帳消しにさせようという魂胆だったのね?」
「人聞きの悪いこと言わないでほしいな。介護って大事な仕事だし、セニアはこういうことが好きなはずでしょう?
伯父上には子供の頃から可愛がってもらっているし、なにか恩返しがしたかったんだ。侍女も少しは、手伝ってくれるから大丈夫だよ。まぁ、主要なことはセニアが率先してお世話してね! 元気な赤ちゃんを産むためにも徳を積むって大事だよね?」
「……そんな……あり得ないわ……ちょっと、実家に用事を思い出しました……」
☆彡★彡☆彡
私は実家に戻って、お姉様に泣きついた。お姉様はいつだって、おかしな本を読んでいる。この日は「妊娠初期の妊婦の健康」という本だ。
私の為に読んでいるというけれど、なんでお姉様は鈍感なの!
私はそんなお優しいお姉様が大嫌いなのよ。だから散々嫌味を言ってきているのに、まるで気にもとめない!天然なのか……天使なのか……とにかく当てつけがましく嫌がらせをしても、アール様を奪った時でさえ、にこやかに微笑んでいた。
だったら、このお願いも聞いてくれるわよね?
「お姉様! お願い! アール様とレントを交換して!」
その言葉と一緒にお姉様の分厚い本が私の足の甲に落ちた。痛くて涙がでたけれど、私が急に抱きついたせいだからしようがない。
お姉様と両親にも訳を話し「アール様とレントを交換して」と懇願したけれど、皆が『そんなことは無理だ』と言った。お腹の子が問題なんだって……あぁ、そういえばお姉様が前に言っていた本には『安易に産まないこと』って書いてあった。こういうことなのか……
お姉様のふりをして妊娠して結婚した私には、もう逃げ道はない。本当ならまだ学園に通って友人と楽しくカフェ巡りしたり、楽しいことがたくさんあったはずなのに……
「セニア、貴女は貴重な体験ができると思えば良いわ。私だったらそう思うわ。頑張りなさい!」
お姉様は相変わらず優しい笑顔で励ましてくれるけれど、それなら介護を代わってくれればいいのにと思う。酷いよ、こんなの!
「そんなぁーー」
私は半泣きになって、床にしゃがみ込んだ。
「セニア、よく聞いてね。貴女も私もいずれ歳をとって、介護してもらわなければならない日がくるかもしれないのよ? けっして、他人ごとではないの。だから、それだけ信頼されて喜ばれているのなら、テンバー公爵夫人のお世話を誠心誠意やりなさい。私だってもうすぐレント様と結婚して、そのご両親と同居するのよ。介護が必要になればお世話もするつもりだわ。だから、あなたも逃げてはいけないわ」
こんな正論をいつも言うお姉様だから、大嫌いなのよ! いつも正しい事ばかりして、落ち着いて賢く生きているお姉様が羨ましい……私は……どうしたらいいんだろう……学園に戻ってまた楽しいことばかりできた日々にかえりたい。
☆彡★彡☆彡
そういえばレントは優しかったし、どこにでも連れていってくれた。お金持ちだったし……私は青春を失って、せっかくの幸せを自分から手放したんだ……
「おっ、お姉様……お願い……ひっく……うっ……うっつ……私が悪かったです。どうしていいか……わからないよぉーー。う、うわぁーーん」
お姉様は私の背中を撫でながら、抱きしめてくれた。その時、悟った。
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