[完結]愛する人たちに裏切られた私は……

青空一夏

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4 証拠ー2

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 日が傾きかけた午後、私はひとりオズワルドの執務室にいた。その日は急な公務で彼が邸を留守にしており、私はいつものように机の上を片づけているうちに、気づけば引き出しにも手を伸ばしていた。
 
 その奥に、見慣れぬ小さな箱があるのを見つける。
 濃紺のベルベットに包まれた上品な箱で、開けてほしいとでも言いたげに、そっとそこに佇んでいた。

 ――プレゼントかしら……私に?

 一瞬だけ、胸の奥に小さな灯がともる。
 記念日でもなければ特別な日でもないけれど、もしかして――そんな期待が、指先を動かした。

 そっと蓋を開けると、中には細い金のブレスレットが収まっていた。
 小さなチャームがひとつ。そこには K のイニシャルが彫られている。

「……K?」

 私の名はレティシア。夫の名はオズワルド。どちらにも K の文字はない。
 胸の中で小さな不協和音が鳴ったが、すぐに打ち消した。

  ――たまたまだわ……きっとなんの意味もないのよ。これは私へのプレゼントのはず。

 箱をそっと閉じ、元あった場所に戻す。
 その小さな違和感を、心の奥に押し込めて――。

  ◆◇◆

 数日後の午後、中庭の一角で、カミーユがひとり、日向ぼっこをしながら読書をしていた。
 春の柔らかな日差しのもと、清楚な白いドレスを身に纏い、優雅な仕草でページをめくっている。
 
 ふと、その手元が目に留まった。
 ページを送ろうとしたその瞬間、手首にきらりと光るものがある。

 ――あの時、執務室で見つけたあの箱の中にあったものと、同じだわ!

 チャームの先の“K”のイニシャルが、まるで私をせせら笑うかのように、陽光を受けてキラキラと輝きながら揺れている。

 その場で呼吸が止まりそうになった。

 ――私への贈り物じゃなかった。あれは……あのブレスレットは、カミーユのためのものだったのね。

 そう理解した瞬間、背中を冷たい何かが撫でていった。

 心の隅で膨らんでいた不安が、形を持って目の前に現れたのよ。

 けれど、次の瞬間、私は心の中で必死にそれを否定する。

 ――でも、だからって……なに? きっと、カミーユが欲しいと強請ねだったのかもしれない。オズワルドが断れなかっただけ。父親代わりとしての贈り物。そうよ、きっとそう……

 けれど、“K”のイニシャルが光を受けて揺れるたびに、胸の奥に小さな棘が刺さっていく気がした。

 ――強請ねだられたにしても、なぜ私に黙って贈ったの? なぜ、隠すように執務室の机の引き出しの奥にしまっていたの? カミーユだって、なぜ、私に強請ねだらなかったの? 私は実の叔母なのに……

 冷たい風が吹いたわけでもないのに、背筋をぞくりと震えが走る。
 最初はほんのかすかな兆し。けれどそれは確実に、胸の中で形を成していく。
 
 それでも私は、まだ信じていたかった。
 オズワルドも、カミーユも。
 この世界で、もっとも愛したふたりだから。

 どうかお願い。
 二人とも、私の“優しい世界”の住人のままでいて――。

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