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27 レティシアの幸せ-4
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※ユリウス視点
案内役を言い渡されたとき、正直なところ、少しだけ気が重かった。
ノルディアン大公。エドワルド・アルセイン・ド・ノルディアン。
水色の髪に、片方が青、もう片方が金の瞳。まるで物語の中から抜け出してきたような人だ。存在感も風格も圧倒的で、同性ながら見惚れてしまうほどだった。
とはいえ、俺――ユリウス・バートンも、それなりに見劣りはしていない、と思う。しかし、そんな外見よりも、俺が評価されているのは誠実さや実務力だと思いたい。少なくとも、レティシア会長はそういう人だ。
なのに――そのレティシア会長が、応接室でノルディアン大公にあんな柔らかい微笑を向けていたのを見たとき、胸の奥がちくりと痛んだ。
俺にあんな表情を見せたことはあっただろうか?
……いや、仕事中の顔とプライベートの顔は違う。それは分かってる。
それでも、なぜか妙に気になったのは……やっぱり、少し、焼きもち……なのかもしれない。
俺は気を取り直して、ノルディアン大公閣下を倉庫へ案内する。
「こちらが、現在主力として扱っている香辛料です。貴国の特産品と組み合わせるとのことでしたら、どのあたりをご覧になりますか?」
「そうだな……この赤い実 、ピンクペッパーなど、いいかもしれない。香りが豊かだ。ノルディアンの蒸留蜜と合わせれば、面白い菓子ができそうだ」
さらりと品評しながらも、ちらりと俺の顔をうかがうような視線を送ってくる。
まるで“試している”ような……いや、さすがに考えすぎか。
「君は、こういう倉庫の配置や管理も、すべて自分でやっているのか? オックスリー商会の副会長なのだろう?」
「ええ。在庫の流れや回転も含めて、すべて私が管理しています。もちろん、月次の収支や業績の報告も、すべて私の方で取りまとめております」
「君は、かなり優秀なようだ。レティシア嬢を副会長として支えてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」
「はい、もちろんです」
笑顔は浮かべたつもりだったが――頬の筋肉が、少し引きつっていた気がする。
――なぜ、大公閣下にお礼を言われるんだ?
……そして、なぜだか妙に、いらつく。
「……年齢差は、ときに壁になる。君のような若者には、同じ歩幅で歩ける女性のほうがいい。……忠告だ」
「ご忠告、感謝申し上げます。ですが、俺は“年齢”で妻を選ぶ気はありません」
なんとか平静を装って返した。大公の口調は、挑発的というより穏やかで、余裕すら感じさせる。そして、言っていることも――おそらく間違ってはいないのだろう。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
俺は、あの方には絶対に負けたくない。
そしてたぶん――あの方は、レティシア会長を本気で想っている。そして今の言葉は、俺に対する牽制だ。
ふと振り返れば、大公閣下は相変わらず、にこやかにこちらを見ていた。
だが、その微笑みの奥に――明らかな“意図”を感じた。まるで、勝負を挑まれているような。
――いいでしょう。望むところです、大公閣下。
8歳年下なんて、気にしてる場合じゃない。
案内役を言い渡されたとき、正直なところ、少しだけ気が重かった。
ノルディアン大公。エドワルド・アルセイン・ド・ノルディアン。
水色の髪に、片方が青、もう片方が金の瞳。まるで物語の中から抜け出してきたような人だ。存在感も風格も圧倒的で、同性ながら見惚れてしまうほどだった。
とはいえ、俺――ユリウス・バートンも、それなりに見劣りはしていない、と思う。しかし、そんな外見よりも、俺が評価されているのは誠実さや実務力だと思いたい。少なくとも、レティシア会長はそういう人だ。
なのに――そのレティシア会長が、応接室でノルディアン大公にあんな柔らかい微笑を向けていたのを見たとき、胸の奥がちくりと痛んだ。
俺にあんな表情を見せたことはあっただろうか?
……いや、仕事中の顔とプライベートの顔は違う。それは分かってる。
それでも、なぜか妙に気になったのは……やっぱり、少し、焼きもち……なのかもしれない。
俺は気を取り直して、ノルディアン大公閣下を倉庫へ案内する。
「こちらが、現在主力として扱っている香辛料です。貴国の特産品と組み合わせるとのことでしたら、どのあたりをご覧になりますか?」
「そうだな……この赤い実 、ピンクペッパーなど、いいかもしれない。香りが豊かだ。ノルディアンの蒸留蜜と合わせれば、面白い菓子ができそうだ」
さらりと品評しながらも、ちらりと俺の顔をうかがうような視線を送ってくる。
まるで“試している”ような……いや、さすがに考えすぎか。
「君は、こういう倉庫の配置や管理も、すべて自分でやっているのか? オックスリー商会の副会長なのだろう?」
「ええ。在庫の流れや回転も含めて、すべて私が管理しています。もちろん、月次の収支や業績の報告も、すべて私の方で取りまとめております」
「君は、かなり優秀なようだ。レティシア嬢を副会長として支えてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」
「はい、もちろんです」
笑顔は浮かべたつもりだったが――頬の筋肉が、少し引きつっていた気がする。
――なぜ、大公閣下にお礼を言われるんだ?
……そして、なぜだか妙に、いらつく。
「……年齢差は、ときに壁になる。君のような若者には、同じ歩幅で歩ける女性のほうがいい。……忠告だ」
「ご忠告、感謝申し上げます。ですが、俺は“年齢”で妻を選ぶ気はありません」
なんとか平静を装って返した。大公の口調は、挑発的というより穏やかで、余裕すら感じさせる。そして、言っていることも――おそらく間違ってはいないのだろう。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
俺は、あの方には絶対に負けたくない。
そしてたぶん――あの方は、レティシア会長を本気で想っている。そして今の言葉は、俺に対する牽制だ。
ふと振り返れば、大公閣下は相変わらず、にこやかにこちらを見ていた。
だが、その微笑みの奥に――明らかな“意図”を感じた。まるで、勝負を挑まれているような。
――いいでしょう。望むところです、大公閣下。
8歳年下なんて、気にしてる場合じゃない。
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