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28 レティシアの幸せ-5
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倉庫の視察を終えたノルディアン大公は、いつの間にかルーファスとすっかり打ち解けていた。そして驚くべきことに、大公はそのままルーファスと共に昼食を取ると言い出したのだ。
しかも、その準備も抜かりない。地元でも評判の高いレストランから、商会の全員分の弁当を手配していた。さらに、秘書室の女性陣をはじめ、他部署の女性たちにも、今もっとも話題のスイーツをデザートとしてふるまうという徹底ぶりだ。――あらかじめ、商会の従業員の数は把握済みだったようだ。
さすがはノルディアン大公。あの国は、美しい海と山に囲まれ、資源も豊富。気候は一年を通じて温暖で、大金持ちたちがこぞって別荘を構えたがるような場所だ。そして何より、大公自身の政治手腕が抜群だからこそ、その豊かさをしっかり国の力に変えている。とんでもない金持ちというのも、なるほど納得……いや、納得はしたくないが、事実として認めざるを得ない。
ルーファスは、ノルディアン大公の膝の上でご満悦だった。
あの子はオックスリー商会の癒しであり、皆にとっての小さな宝物だ。寂しい環境で育ったルーファスに、俺たちは惜しみない愛情を注いできた。打ち解けてもらうまでに、時間も手間もかけてきたのに――
それなのに、ノルディアン大公にはあっという間に懐いた。
不思議がったレティシア会長が尋ねると、大公は穏やかに笑って「私には弟と妹がいてね、甥や姪を我が子のように可愛がってきたんですよ」と、当たり前のように答えた。
――大金持ちで、子ども好き。気配りもできて、優しさもある。
本当に……完璧な人だ。叶わないかもしれない。
でも、俺のレティシア会長への想いだけは、誰にも負けていない。
夕方になると、大公は名残惜しげにその場を後にした。所用があるとのことだったが、帰り際には「また一緒に遊ぼうな」とルーファスに優しく声をかけることも忘れなかった。
そしてレティシア会長には、今話題になっている観劇への誘いの言葉をかける。さらには、別れ際にさりげなく だが印象的に、手土産のような小さなプレゼントまで渡していた。
――間違いない。ビッキー秘書室長の言っていた通りだ。
ノルディアン大公は、求婚のために来たのだ。
この案件自体、ノルディアン大公自身が動かなくても済むような内容だった。
それでも、わざわざこの地に足を運んだ理由――それは、きっとレティシア会長のためだ。
◆◇◆
業務終了後、会長の帰路に同行させていただいた。
レティシア会長の屋敷までは、歩いてもそれほど時間はかからない。
夜風が少し肌に冷たかったが――隣にレティシア会長がいると、不思議と寒さは感じなかった。
ふと、立ち止まってレティシア会長に声をかける――
「レティシア会長……すみません。こんなこと、言うべきじゃないのかもしれません。でも、今言わなきゃ、後悔すると思って」
口が渇いて、胸が苦しくて、それでも言葉を紡いだ。
「俺は、あなたが……好きです。上司とか年齢とか、身分とか、全部抜きで。あなたという人が、どうしようもなく――好きです」
レティシア会長が目を見開く。その表情には戸惑いと、何か言いたげな感情が浮かんでいた。
「ノルディアン大公閣下は立派な方ですし、俺なんかじゃ到底敵わないってことくらい分かってます。……でも、それを理由に引き下がるつもりはありません。あなたを見ていると、胸が苦しくなるんです。大公閣下に向けた、あの柔らかい笑顔が頭から離れなくて……ズルいですよ。あんな顔、俺には見せたことないのに」
「え? なにを言ってるの? あの方とは、ただの商談をしただけよ。笑顔くらい見せるわよ。それに、ノルディアン大公に失礼じゃないかしら?」
「ノルディアン大公はレティシア会長が好きなんですよ。あのときのノルディアン大公の目――あれは、ただの取引相手を見る目じゃなかった。まるで、この世でたった一つの奇跡を見つけたような、そんな目でした……俺にはわかります。だって、俺も同じ気持ちだから」
俺は一歩、レティシア会長の前に出て、まっすぐに見つめる。
「お願いです。俺に、あなたの“今”に寄り添うチャンスをください。後悔なんて、絶対にさせません」
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※宣伝です。
「夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!」を投稿しました。よろしくお願いします! 女性騎士がヒロインですが、夫のために命を懸けたのに、夫は……😭
是非お立ち寄りください。
しかも、その準備も抜かりない。地元でも評判の高いレストランから、商会の全員分の弁当を手配していた。さらに、秘書室の女性陣をはじめ、他部署の女性たちにも、今もっとも話題のスイーツをデザートとしてふるまうという徹底ぶりだ。――あらかじめ、商会の従業員の数は把握済みだったようだ。
さすがはノルディアン大公。あの国は、美しい海と山に囲まれ、資源も豊富。気候は一年を通じて温暖で、大金持ちたちがこぞって別荘を構えたがるような場所だ。そして何より、大公自身の政治手腕が抜群だからこそ、その豊かさをしっかり国の力に変えている。とんでもない金持ちというのも、なるほど納得……いや、納得はしたくないが、事実として認めざるを得ない。
ルーファスは、ノルディアン大公の膝の上でご満悦だった。
あの子はオックスリー商会の癒しであり、皆にとっての小さな宝物だ。寂しい環境で育ったルーファスに、俺たちは惜しみない愛情を注いできた。打ち解けてもらうまでに、時間も手間もかけてきたのに――
それなのに、ノルディアン大公にはあっという間に懐いた。
不思議がったレティシア会長が尋ねると、大公は穏やかに笑って「私には弟と妹がいてね、甥や姪を我が子のように可愛がってきたんですよ」と、当たり前のように答えた。
――大金持ちで、子ども好き。気配りもできて、優しさもある。
本当に……完璧な人だ。叶わないかもしれない。
でも、俺のレティシア会長への想いだけは、誰にも負けていない。
夕方になると、大公は名残惜しげにその場を後にした。所用があるとのことだったが、帰り際には「また一緒に遊ぼうな」とルーファスに優しく声をかけることも忘れなかった。
そしてレティシア会長には、今話題になっている観劇への誘いの言葉をかける。さらには、別れ際にさりげなく だが印象的に、手土産のような小さなプレゼントまで渡していた。
――間違いない。ビッキー秘書室長の言っていた通りだ。
ノルディアン大公は、求婚のために来たのだ。
この案件自体、ノルディアン大公自身が動かなくても済むような内容だった。
それでも、わざわざこの地に足を運んだ理由――それは、きっとレティシア会長のためだ。
◆◇◆
業務終了後、会長の帰路に同行させていただいた。
レティシア会長の屋敷までは、歩いてもそれほど時間はかからない。
夜風が少し肌に冷たかったが――隣にレティシア会長がいると、不思議と寒さは感じなかった。
ふと、立ち止まってレティシア会長に声をかける――
「レティシア会長……すみません。こんなこと、言うべきじゃないのかもしれません。でも、今言わなきゃ、後悔すると思って」
口が渇いて、胸が苦しくて、それでも言葉を紡いだ。
「俺は、あなたが……好きです。上司とか年齢とか、身分とか、全部抜きで。あなたという人が、どうしようもなく――好きです」
レティシア会長が目を見開く。その表情には戸惑いと、何か言いたげな感情が浮かんでいた。
「ノルディアン大公閣下は立派な方ですし、俺なんかじゃ到底敵わないってことくらい分かってます。……でも、それを理由に引き下がるつもりはありません。あなたを見ていると、胸が苦しくなるんです。大公閣下に向けた、あの柔らかい笑顔が頭から離れなくて……ズルいですよ。あんな顔、俺には見せたことないのに」
「え? なにを言ってるの? あの方とは、ただの商談をしただけよ。笑顔くらい見せるわよ。それに、ノルディアン大公に失礼じゃないかしら?」
「ノルディアン大公はレティシア会長が好きなんですよ。あのときのノルディアン大公の目――あれは、ただの取引相手を見る目じゃなかった。まるで、この世でたった一つの奇跡を見つけたような、そんな目でした……俺にはわかります。だって、俺も同じ気持ちだから」
俺は一歩、レティシア会長の前に出て、まっすぐに見つめる。
「お願いです。俺に、あなたの“今”に寄り添うチャンスをください。後悔なんて、絶対にさせません」
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