[完結]死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー処刑された侯爵令嬢、お局魂でリベンジ開始!

青空一夏

文字の大きさ
11 / 16

11 毒が結んだ奇縁

 私はブランデン公爵から屋敷に招かれた。そこは一見すると典雅な石造りの屋敷。その裏手、広がる庭園の隣には、色とりどりの薬草が栽培された薬草園が広がっていた。

 でも、真に“ブランデン家の心臓部”と呼ぶべき場所は、地上ではなく――地下にあったのよ。

「こちらが、私の研究室です。……覚悟はできていますか?」

 ブランデン公爵の問いに、私は即座に頷いた。
 まるで遊園地にでも来た子供のような気分だった。目の奥にも、きっとわくわくが滲んでいたに違いない。

 地下へと続く階段を下りると、ひんやりとした空気のなかに、微かに薬草と金属の匂いが混じる独特の空間が広がっていた。
 棚に並ぶ無数の瓶、魔道具を組み込んだ抽出装置、薬草を干すための乾燥台――そこは“毒の殿堂”だった。

「これが……ルシアン卿の研究室なのね。すごい……!」

 私は、感嘆の声を漏らしながら、瓶に詰められた色とりどりの液体に目を向けた。
 そして、胸元に手を当て、小さく呟く。

「毒鑑定眼――ポイズン・アナライザ、起動」

 パシュッという軽い音とともに、宙に淡い光のパネルが浮かび上がる。
 毒草リストと症状検索フィールドが並ぶ画面は、まるでRPGのアイテム図鑑みたい。
 もうすっかり、使いこなせるようになっている。

「では、こちらの毒から。……紫色、粘性あり。おそらく……セリア・ナークですね」

 パネルをスライドすると、情報が一気に展開される。

【毒名:セリア・ナーク】
【効果:神経麻痺/致死性中】
【特性:温度変化による効能変化。高温で痙攣誘発。低温で沈静化】
【対策:アルコール投与で無効化の可能性あり】

「この毒は、低温では効き目が鈍り、高温で用いると痙攣と昏倒を引き起こしますの。ただ、アルコールと併用すると効果が打ち消される恐れがあるため、運用には注意が必要ですわ」

「……マジか」

 ぽつりと呟いたブランデン公爵の目が、ふと真剣になる。

「君……どこでそんなことまで学んだんだい? その若さで?」

「私には神様の加護がありますのよ。毒において、私より詳しい者は、この世にはおりませんわ!」

 多分だけど。きっと、そうよね?
 ポンコツ神様のくせに、スキルの選定だけは冴えていたのよ。

「……え? 神様の加護で毒がわかるのかい? どんな神なんだ、それは」

「うふふ。少し、ポンコツですけど、なかなか有能な面もありましたわ。さ、次いきますわよ♪」

 まるで毒のソムリエ気取りで、私は瓶をひとつ選ぶ。
 毒の成分、効能、潜伏時間、使用用途。スライドするパネルとともに、言葉がどんどん口をついて出てくる。
 楽しくてたまらない。まるで、毒のバーテンダーになったみたい。

「この毒ってさ、実にいい仕事するんだよねぇ。本人、全然気づかずにぽっくりいく感じがさ」

 ブランデン公爵が、すっかり打ち解けた調子で話しかけてくる。まるで昔からの友人みたいに。

「同感ですわ! でも、この毒にセリシア根の抽出液を加えると、心臓への圧迫時間が延びて“じわじわ効く仕様”になりますの。つまり――ほら、長く苦しませることができるってわけ。薬として使えば、緊張症の緩和にも応用できますわよ」

「……すごいな、天才かよ。私のことはルシアンって呼び捨てでいい。……師匠と呼んでもいいか?」

 その顔は、もう完全に心を許した相手のものだった。
 私は得意げに胸を張って、こう答えた。

「えぇ、どうぞ。あなたを、一番弟子にして差し上げますわ」

 そして、地下の研究室に二人の笑い声が柔らかく響く。

 毒を語って、毒で笑って、毒で繋がる――
 奇妙で最強の師弟関係が、ここに誕生した。

 私、これで……多分、生き残れると思うの。
 だって、父も、“毒公爵様”も味方につけたもの。
 ――今度こそ、絶対に死なないつもりよ。

 そう思った、まさにその時だった。

 「ルシアン様、大変です!」

 地下室の扉が勢いよく開かれ、家令が青ざめた顔で駆け込んできた。

 「先ほど……ブロッサム様がお持ちになったお菓子を、使用人の一人が口にして……」

 「……それで?」ブランデン公爵ーーもう、ルシアンでいいわよね? 本人がそう言ったんだしーーが短く問う。

 「倒れました。痙攣を起こし、現在、意識がありません……!」

 室内に、重たい沈黙が落ちた。

 ルシアンの視線が、ゆっくりとこちらへ向けられる。

 それは――驚きと、動揺と、ほんのわずかな疑念が混じった、複雑な色をしていたのだった。
 



 
感想 27

あなたにおすすめの小説

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

格上侯爵様が私を離してくれません〜婚約破棄の夜、断罪から救ってくれたと思ったら、その日から囲い込みが始まっていました〜

鈍色シロップ
恋愛
「エレノーラ・フォステール嬢……お相手していただけますか?」 そう言って差し出された手は、今夜も私に断る隙など与えないように見えた。 ――侯爵様、もしかして本気で……私を囲い込みにきてる? 年下の従姉妹で伯爵令嬢リネットへの嫌がらせという冤罪で、アルネロ・ヴァレント伯爵令息に婚約を破棄されたエレノーラ・フォステール男爵令嬢。 その時、場に割って入ったのは、王都でも別格とされる侯爵当主ルシェル・ウィンセイルだった。 以来、社交の場で会うたび彼は当然のように私の隣を取り、ついには「あなたを私の隣に迎えたい」と告げてきて――。 「侯爵様……どうして、そこまで私を気にかけるのですか」 「さて。どうしてだと思う?」 婚約破棄された男爵令嬢が、格上の侯爵当主に囲い込まれるお話。 ※複数のサイトに投稿しています。

忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子

水空 葵
恋愛
 公爵令嬢のシルフィーナはとあるパーティーで、「忌み子」と言われていることを理由に婚約破棄されてしまった。さらに冤罪までかけられ、窮地に陥るシルフィーナ。  そんな彼女は、王太子に助け出されることになった。  王太子に愛されるようになり幸せな日々を送る。  けれども、シルフィーナの力が明らかになった頃、元婚約者が「復縁してくれ」と迫ってきて……。 「そんなの絶対にお断りです!」 ※他サイト様でも公開中です。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

第一王子に裏切られた私は意外と身近に転生しました。さぁ復讐を始めましょう……

水城ゆき
恋愛
公爵令嬢のメリアンナは知ってしまった。婚約者である第一王子アストレアが自分の屋敷のメイドであるミレーナにラブレターを送った事を。 憤怒したメリアンナは二人の恋を実らせまいと行動するが、その作戦が上手くいきかけた時。 突然現れたミレーナを見て、思わずアストレアは抱きしめていたメリアンナを突き飛ばした。 メリアンナは階段を転落する事になり、そのまま命を落としてしまう。 しかし次に目覚めた時、メリアンナは第二王子の長女として以前の記憶を保ったまま生まれ変わっていたのだ。 ここからメリアンナの復讐が始まる。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。