1 / 34
婚約破棄された私
宮殿の中庭で、私は婚約者のジェイデン・アドラー公爵様といつものようにお茶を飲んでいた。
「なぜですか?私のどこがいけないのでしょう?」
私は、『婚約破棄をしたい』とおっしゃるジェイデン様に穏やかな口調で尋ねた。気持ちの動揺を表してはいけないと、いつもお婆さまが教えてくださったからだ。
「いや、君にいけないところなどひとつもないよ。ただ、それが罪ということもあるな」
「罪ですか?」
「そう。バイオレット王女、君は妹のアリッサ王女のような可愛げがなさ過ぎる。それは、男にとっては罪だ」
「おっしゃる意味がわかりませんわ」
「つまりだ。君といるより、アリッサ王女といるほうがはるかに楽しいということだ。そこでだ、私達の婚約はなかったことにしてほしい。心配はしなくていい。君の両親も賛成してくれた。君は謝らなくてもいいよ。君がつまらない女性なのは罪だけれど、私は許してあげよう。その代わり、次期女王となるアリッサ王女との婚約を祝福してくれ」
幼い頃からの婚約者は、いつもの優しい声で私に告げると満ち足りた面持ちで去って行った。私は、ジェイデン様の姿が見えなくなるまで待ってから涙を流したのだった。
気持ちを落ち着け涙を拭いて宮殿に戻ると、お母様とお父様とアリッサがジェイデン様と笑い合ってお話をしていた。私の姿を見つけるとアリッサが飛んできて私に抱きついた。
「お姉様、聞いてぇ。私、ジェイデン様と婚約できるんですって! とても、嬉しいわぁ。お姉様もおめでとう。隣国に嫁ぐことが決まったそうよ! 良かったわねぇ。お相手は、とても大人な方ですって」
「大人?それは、どういう意味かしら?」
「あぁ、隣国のカルロス王国の王様は御年50歳だそうよ?落ち着いているバイオレットにぴったりじゃなくて?」
18歳になったばかりの私に、お母様は、おっしゃったのだった。
「本当はな、妹のアリッサにきた縁談だ。しかし、この可愛い、か弱いアリッサを隣国に嫁がすことなどできない。ゆえに、しっかり者の姉であるバイオレット、お前が隣国に嫁ぐのだ。わかったな?」
お父様は、感情のこもっていない眼差しで私を見ながら、そうおっしゃった。
「お父様ぁ。ありがとう!アリッサもお父様とお母様の側を離れたくないですぅ。お姉様も良かったですわねぇ。カルロス王国といえば大国でしてよ? きっと、贅沢三昧できますわぁ。私は、そんなお歳の方はいやですけれど、お姉様なら大丈夫そうですものぉ」
アリッサは、可愛い笑顔で小首を傾げた。すると、お父様とお母様、ジェイデン様もが一斉に顔をほころばせた。
「「「なんて、可愛いんだ!(のかしら) 天使じゃないか(だわ)」」」
私は、今は亡き女王さまであるお婆様のお気に入りだった。お婆様は、銀髪にアメジストの瞳の、冷たい印象を与える美貌の清廉潔白な方だった。常に厳しく礼儀作法にも拘った。お婆さまから次期女王になるようにと、教育を受けた私はお婆さまの美貌を継いで氷姫と呼ばれた。お婆さまが急な病で一年前に亡くなると、お父様が女王代理になった。このブロンディ王国は代々、女王が治める国なのだ。
次期女王のはずだった私は、お婆さまが亡くなると途端に両親から冷遇された。もとからお婆さまと仲が良くなかった両親はアリッサを露骨にかわいがるようになった。
今の私は、このブロンディ王国に味方は一人もいないのだ。お婆様がいた頃の侍女達は全て入れ替えられていた。
「お婆さま。なぜ、私を置いて急に亡くなってしまったのですか?」
私はお婆さまのお好きだった薔薇の庭園まで走って行き、そこでしゃがみ込んで泣いたのだった。
「なぜですか?私のどこがいけないのでしょう?」
私は、『婚約破棄をしたい』とおっしゃるジェイデン様に穏やかな口調で尋ねた。気持ちの動揺を表してはいけないと、いつもお婆さまが教えてくださったからだ。
「いや、君にいけないところなどひとつもないよ。ただ、それが罪ということもあるな」
「罪ですか?」
「そう。バイオレット王女、君は妹のアリッサ王女のような可愛げがなさ過ぎる。それは、男にとっては罪だ」
「おっしゃる意味がわかりませんわ」
「つまりだ。君といるより、アリッサ王女といるほうがはるかに楽しいということだ。そこでだ、私達の婚約はなかったことにしてほしい。心配はしなくていい。君の両親も賛成してくれた。君は謝らなくてもいいよ。君がつまらない女性なのは罪だけれど、私は許してあげよう。その代わり、次期女王となるアリッサ王女との婚約を祝福してくれ」
幼い頃からの婚約者は、いつもの優しい声で私に告げると満ち足りた面持ちで去って行った。私は、ジェイデン様の姿が見えなくなるまで待ってから涙を流したのだった。
気持ちを落ち着け涙を拭いて宮殿に戻ると、お母様とお父様とアリッサがジェイデン様と笑い合ってお話をしていた。私の姿を見つけるとアリッサが飛んできて私に抱きついた。
「お姉様、聞いてぇ。私、ジェイデン様と婚約できるんですって! とても、嬉しいわぁ。お姉様もおめでとう。隣国に嫁ぐことが決まったそうよ! 良かったわねぇ。お相手は、とても大人な方ですって」
「大人?それは、どういう意味かしら?」
「あぁ、隣国のカルロス王国の王様は御年50歳だそうよ?落ち着いているバイオレットにぴったりじゃなくて?」
18歳になったばかりの私に、お母様は、おっしゃったのだった。
「本当はな、妹のアリッサにきた縁談だ。しかし、この可愛い、か弱いアリッサを隣国に嫁がすことなどできない。ゆえに、しっかり者の姉であるバイオレット、お前が隣国に嫁ぐのだ。わかったな?」
お父様は、感情のこもっていない眼差しで私を見ながら、そうおっしゃった。
「お父様ぁ。ありがとう!アリッサもお父様とお母様の側を離れたくないですぅ。お姉様も良かったですわねぇ。カルロス王国といえば大国でしてよ? きっと、贅沢三昧できますわぁ。私は、そんなお歳の方はいやですけれど、お姉様なら大丈夫そうですものぉ」
アリッサは、可愛い笑顔で小首を傾げた。すると、お父様とお母様、ジェイデン様もが一斉に顔をほころばせた。
「「「なんて、可愛いんだ!(のかしら) 天使じゃないか(だわ)」」」
私は、今は亡き女王さまであるお婆様のお気に入りだった。お婆様は、銀髪にアメジストの瞳の、冷たい印象を与える美貌の清廉潔白な方だった。常に厳しく礼儀作法にも拘った。お婆さまから次期女王になるようにと、教育を受けた私はお婆さまの美貌を継いで氷姫と呼ばれた。お婆さまが急な病で一年前に亡くなると、お父様が女王代理になった。このブロンディ王国は代々、女王が治める国なのだ。
次期女王のはずだった私は、お婆さまが亡くなると途端に両親から冷遇された。もとからお婆さまと仲が良くなかった両親はアリッサを露骨にかわいがるようになった。
今の私は、このブロンディ王国に味方は一人もいないのだ。お婆様がいた頃の侍女達は全て入れ替えられていた。
「お婆さま。なぜ、私を置いて急に亡くなってしまったのですか?」
私はお婆さまのお好きだった薔薇の庭園まで走って行き、そこでしゃがみ込んで泣いたのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました
Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。
月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。
ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。
けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。
ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。
愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。
オスカー様の幸せが私の幸せですもの。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
二度目の人生は離脱を目指します
橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。
一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。
今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。
人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。
一度目の人生は何が起っていたのか。
今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
毒を飲んだ令嬢は、二度目の人生で誠実な恋を選ぶ
ゆぷしろん
恋愛
幼いころからずっと隣にいて、いつか結ばれるのだと信じていた幼馴染エドガー。
けれど学園へ入ってから彼は少しずつ変わり、創立記念パーティーの夜、レティシアは彼が別の令嬢と口づけを交わす姿を目撃してしまう。やがて告げられたのは、「君が拒んだからだ」という身勝手な別れの言葉だった。結婚前に口づけや身体を許さなかったことさえ責められ、婚約は解消。噂に傷つき、生きる気力を失ったレティシアは、黒い森の魔女から毒を受け取り、自ら命を絶とうとする。
けれど次に目を覚ましたとき、彼女は幼いころへと戻っていた。
もう二度と、幼馴染に人生を預けない。そう決意したレティシアは、将来エドガーと結ばれる流れを少しずつ変えていく。そして二度目の人生で、前世で傷ついた自分に唯一優しい言葉をかけてくれた伯爵令息ルシアンと、今度こそ最初から出会い直す。穏やかで誠実な彼は、決して急かさず、傷ついた彼女の心を静かにほどいていく。
これは、恋に傷つき死を選んだ令嬢が、もう一度与えられた春の中で、自分の気持ちと向き合いながら、本当に大切にしてくれる人を選び直して幸せになるまでのやり直し恋愛譚。
「今度こそ、私は自分で選ぶ」
毒を飲んだ令嬢は、二度目の人生でようやく知る。幸せとは、誰かに選ばれることではなく、自分を大切にしてくれる人を、自分の意志で選び取ることなのだと。