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15 パトリシアの恋
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「パトリシアさん、この薬草はもう少し擦りますか?」
「はい、お願いします? というか、あのーー、なぜバルオ公爵家の次男ジャマダ様がここにいらっしゃるのでしょう?」
「あぁ、どうか気にしないでくださいね」
邪魔だなと思った。貴族の男性は懲り懲りだもの。私はずっと独身で生きる! と王妃殿下にも申し上げたのに・・・・・・正直、職場は私の神聖な場所だから来て欲しくなくて丁重にお断りした。
お次は、バルオ公爵家の長男シルヴェストル様で、彼は私の休みのたびに外の世界に連れ出してくれた。私が薬草園と調薬室にばかりいることを心配する。
「運動不足になりますよ。ほら、一緒に山に行きましょう」
試しに一緒に行くと、きつい山登りではなくて緩やかな傾斜をゆっくりと歩いてくれた。爽やかな山の空気は確かに気分転換になる。食事はリュックからサンドイッチとピクルスを取り出して私に差し出す。
「これは?」
「わたしが作りました」
なんて涼しい顔で言うけれど、食べてみたら微妙な味だったのは愛嬌だ。
「これ、ほんとうにシルヴェストル様がつくったのですね」
「えぇ、そうですよ。お口にあいませんでしたか?」
「もしかして、初めてお料理をなさったのでは?」
「えっと、・・・・・・なんでわかりましたか?」
「だって、これ、パンにバター塗り忘れてますし、卵サンドの卵にソルトいれていない気がしますよ。味がしない・・・・・・」
「どれどれ。あぁ、本当だ。これは失敗ですね、すみません」
「なんでサンドイッチなんてつくろうと思ったのですか? バルオ公爵家の方なら、お料理なんて自分でなさらないでしょう?」
「うーーん。なんでかな。喜んでほしくて・・・・・・それだけですよ」
公爵家の嫡男なら屋敷のコックに料理を作らせることも、話題の店で買ってくることもできるのに、なぜか手作りの不格好なサンドイッチを作ってきた彼。不器用なんだな、と思いながらショーンを思い出す。
彼はいつでもデートの時は、私にお弁当やサンドイッチを作らせた。一度でもこうして作ってくれたことはなかった。
「私ね、再婚する気は全くないんですよ。王妃殿下は私に一代限りの男爵位をくださって、お給金も充分いただいております。だから、このままずっと王妃殿下のお側に仕えていたいです」
「そうですか。良いと思いますよ、応援します。わたしは、たまにこうして会えればいいだけです」
そう言われればこちらも身構えることもなく、気楽に会っておしゃべりができた。そんな友人関係からはじまった私達は、いつのまにか一緒に休日を過ごすのが当たり前になった。
「今日はどこに行こうか?」
「どこでも」
「じゃぁ、とにかく二人でこうしてブラブラしていよう」
最近では遊びに行くことが目的ではなくて、一緒にいることが目的になってきた。
「一緒にいると・・・・・・どこに行かなくても・・・・・・楽しいね」
どちらからともなく言い出した。
どこに行っても楽しいけれど、行かなくても同じ空間にいるだけで幸せを感じる。
「これを人は恋というんだよ」
シルヴェストル様は照れくさそうにおっしゃって、私は「そうですね」と答えた。
彼の手がそっと私の手に重ねられて、それだけで心臓が跳ね上がる。あまい充足感が全身を駆け巡った。
あぁ。私、恋に落ちたんだ・・・・・・
完
「はい、お願いします? というか、あのーー、なぜバルオ公爵家の次男ジャマダ様がここにいらっしゃるのでしょう?」
「あぁ、どうか気にしないでくださいね」
邪魔だなと思った。貴族の男性は懲り懲りだもの。私はずっと独身で生きる! と王妃殿下にも申し上げたのに・・・・・・正直、職場は私の神聖な場所だから来て欲しくなくて丁重にお断りした。
お次は、バルオ公爵家の長男シルヴェストル様で、彼は私の休みのたびに外の世界に連れ出してくれた。私が薬草園と調薬室にばかりいることを心配する。
「運動不足になりますよ。ほら、一緒に山に行きましょう」
試しに一緒に行くと、きつい山登りではなくて緩やかな傾斜をゆっくりと歩いてくれた。爽やかな山の空気は確かに気分転換になる。食事はリュックからサンドイッチとピクルスを取り出して私に差し出す。
「これは?」
「わたしが作りました」
なんて涼しい顔で言うけれど、食べてみたら微妙な味だったのは愛嬌だ。
「これ、ほんとうにシルヴェストル様がつくったのですね」
「えぇ、そうですよ。お口にあいませんでしたか?」
「もしかして、初めてお料理をなさったのでは?」
「えっと、・・・・・・なんでわかりましたか?」
「だって、これ、パンにバター塗り忘れてますし、卵サンドの卵にソルトいれていない気がしますよ。味がしない・・・・・・」
「どれどれ。あぁ、本当だ。これは失敗ですね、すみません」
「なんでサンドイッチなんてつくろうと思ったのですか? バルオ公爵家の方なら、お料理なんて自分でなさらないでしょう?」
「うーーん。なんでかな。喜んでほしくて・・・・・・それだけですよ」
公爵家の嫡男なら屋敷のコックに料理を作らせることも、話題の店で買ってくることもできるのに、なぜか手作りの不格好なサンドイッチを作ってきた彼。不器用なんだな、と思いながらショーンを思い出す。
彼はいつでもデートの時は、私にお弁当やサンドイッチを作らせた。一度でもこうして作ってくれたことはなかった。
「私ね、再婚する気は全くないんですよ。王妃殿下は私に一代限りの男爵位をくださって、お給金も充分いただいております。だから、このままずっと王妃殿下のお側に仕えていたいです」
「そうですか。良いと思いますよ、応援します。わたしは、たまにこうして会えればいいだけです」
そう言われればこちらも身構えることもなく、気楽に会っておしゃべりができた。そんな友人関係からはじまった私達は、いつのまにか一緒に休日を過ごすのが当たり前になった。
「今日はどこに行こうか?」
「どこでも」
「じゃぁ、とにかく二人でこうしてブラブラしていよう」
最近では遊びに行くことが目的ではなくて、一緒にいることが目的になってきた。
「一緒にいると・・・・・・どこに行かなくても・・・・・・楽しいね」
どちらからともなく言い出した。
どこに行っても楽しいけれど、行かなくても同じ空間にいるだけで幸せを感じる。
「これを人は恋というんだよ」
シルヴェストル様は照れくさそうにおっしゃって、私は「そうですね」と答えた。
彼の手がそっと私の手に重ねられて、それだけで心臓が跳ね上がる。あまい充足感が全身を駆け巡った。
あぁ。私、恋に落ちたんだ・・・・・・
完
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鍋様
ありがとぅ*.+゚嬉(๓´͈ ˘ `͈๓)嬉.*♡💕
ありがとうございます
そうなんです、燃え上がるような恋では無いんですが
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こちらこそ最後までお読みいただいてありがとうございます✨
(*u᎑u)感謝❤❤
感想ありがとうございます🌷