[完結]国から捨てられた伯爵令嬢は南国で売られる

青空一夏

文字の大きさ
3 / 6

しおりを挟む
こうしてスノアは高級レストラン、ラ・ネージュで働くことになった。厨房は熱気と香草とバターの香りに満ち、スノアは生鮮食品保存用の雪を作り、シャーベットや果物、ワインなどの冷却管理も任された。ここでもスノアの雪はとても重宝される。

そのうち、スノアはふと小さな工夫を思いついた。雪をぎゅっと押し固めて形を整えると、白く冷たい雪の皿ができあがる。普通の雪ならすぐ溶けてしまうはずだが、スノアの雪は形を長く保っていた。

スノアはその雪皿にカルパッチョや冷たいデザートを盛り付けていった。ほかにも、小さなボウル状にしてシャーベットを入れたり、背の高い器に果物を盛り付けたり、雪の食器はみるみる種類を増やしていった。

「……雪食器とは、なんて洒落ているんだ。まさに魔法の器だよ」

オーナーシェフは感心しきった様子で、スノアを見つめていた。

スノアが厨房に立つ日々は、あっという間に過ぎていった。雪食器に盛った料理は評判となり、店は以前より客が増えた。

――そんなある日のこと。

客の中に、ヴァルデン公爵夫人の姿があった。彼女は淡い色のドレスに身を包み、上品なデザインが上質な生地を引き立てていた。姿勢は常に美しく、指先の動き一つまで洗練されている。

オーナーシェフは自信ありげに、雪の食器に盛り付けた料理やデザートをヴァルデン公爵夫人のテーブルへ運んだ。飾り切りされた柑橘と、甘く煮た桃のコンポートが涼やかに並べられ、横にはレモンのシャーベットが添えられている。雪のおかげでシャーベットは溶けず、フルーツはひんやりとしたままだ。

ヴァルデン公爵夫人は思わず息を呑んだ。

「まぁ……雪のお皿? なんて贅沢なの! シャーベットだけでも高級品だというのに、雪を食器にするなんて前代未聞ですわ」

向かい側に座ったヴァルデン公爵が感心したように皿を覗き込む。

「氷や雪は輸入するだけで金貨が飛ぶ。食材でもないものに使うなど、王宮ですらやらんぞ」

「これは一体、どこで手に入れたのかしら?」
ヴァルデン公爵夫人は目を輝かせたまま、オーナーシェフを呼び止めた。

オーナーシェフはもったいぶって、なかなか本当のことを言わない。ますます気になったヴァルデン公爵夫人は、「真実を聞くまでは帰らない」とまで言い出す始末。

「……少し前に雇った子が作りました。異国の出身で、そこでは皆魔法が使えるそうです。彼女は雪を降らせることができるのですよ」

「まあ……雪を? なんて神秘的なのかしら。その子と会わせてくださる?」

ヴァルデン公爵夫人の目がキラリと光った。

スノアはすぐにヴァルデン公爵夫妻のテーブルへ呼ばれ、丁寧に挨拶をした。
その姿を見るなり、ヴァルデン公爵夫人はオーナーシェフへ振り向いた。

「この子を引き取らせてくださらない?」

「スノアは大事な従業員ですから……この子のお陰で売上が驚異的に伸びたんですよ。手放すわけにはいきません」

オーナーシェフは困ったように眉を寄せた。
しかし、ヴァルデン公爵夫人の熱意と、提示された大金を前にすれば――拒めるはずもなかった。

「……わかりました。スノア、元気でな。君は本当によく働いてくれた」

スノアは黙って頷いた。

(私……また売られたんだ)

せっかくラ・ネージュにも馴染んできたのに。
胸の奥がチクリと痛んで、言葉が出なかった。

ヴァルデン公爵夫人は優しげな眼差しでスノアを見つめた。

「とても上品で綺麗な子だわ。さあ、一緒に行きましょうね。怖がらなくてもいいのよ」

スノアは小さく会釈をし、レストランを後にしたのだった。



スノアはヴァルデン公爵家の奥にある客間を与えられ、雪を作りながら厨房で働き、ヴァルデン公爵夫人のお茶のお相手も務めた。

「スノア、ずっとここにいてちょうだいね。ここをあなたの家と思っていいのよ」

スノアはどう返していいか分からず、ただ微笑んだ。

(フィッシャーズでも、ラ・ネージュでも、私は“売られた”。それなら……ここでも、またいつか同じことが起きるのかもしれない)

そんな不安がちらりと胸をかすめ、スノアは小さくため息をつくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよなら王子、古い聖女は去るものなのです

唯崎りいち
恋愛
元聖女の私は、自分が無能だと思い、有能な新しい聖女に任せるために王都を去ることを選んだ。しかし幼なじみの王子は、私を追いかけてくる。王子の真剣な想いと、自分の無自覚な力が国や人々に影響を与えていることに気づき、私は王都へ戻る決意をする。こうして二人は互いの気持ちを確かめ合い、結ばれる――自己評価の低い少女が本当の価値と愛に気づく、ハッピーラブファンタジー。

侯爵家の婚約者に手を出す意味、わかってます?

碧井 汐桜香
恋愛
侯爵令嬢ジョセリアは地味な外見をしている少女だ。いつも婚約者のアランとその取り巻きの少女たちに罵倒されている。 しかし、今日はアランの取り巻きは一人しかおらず、いつも無視を決め込んでいたジョセリアが口を開いた。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。

殿下から「華のない女」と婚約破棄されましたが、王国の食糧庫を支えていたのは、実は私です

水上
恋愛
【全11話完結】 見た目重視の王太子に婚約破棄された公爵令嬢ルシア。 だが彼女は、高度な保存食技術で王国の兵站を支える人物だった。 そんな彼女を拾ったのは、強面の辺境伯グレン。 「俺は装飾品より、屋台骨を愛する」と実力を認められたルシアは、泥臭い川魚を売れる商品に変え、害獣を絶品ソーセージへと変えていく! 一方、ルシアを失った王宮は食糧難と火災で破滅の道へ……。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

離縁された悪妻の肩書きに縛られて生きてきましたが、私に流れる高貴な血が正義と幸せな再婚を運んできてくれるようです

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・虐げられた嫁・ハピエン・ざまぁモノ・クズな元夫】 (※完結保証)  ハンナは離縁された悪妻のレッテルを貼られていた。理由は嫁ぎ先のマクリーン子爵家の財産に手を付け、政治犯を匿ったからだという。  一部は事実だったが、それにはハンナなりの理由がちゃんとあった。  ハンナにそれでも自分を大切にしてくれた人への感謝を忘れず健気に暮らしていたのだが、今度は元夫が、「新しい妻が欲しがるから」という理由で、ハンナが皇帝殿下から賜った由緒正しい指輪を奪っていってしまった。  しかし、これには皇帝殿下がブチ切れた!  皇帝殿下がこの指輪を私に授けたのには意味があったのだ。  私に流れるかつての偉大な女帝の血。  女帝に敬意を表さない者に、罰が下される――。  短め連載です(3万字程度)。設定ゆるいです。  お気軽に読みに来ていただけたらありがたいです!!  他サイト様にも投稿しております。

処理中です...