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12 ハミルトンの頬を叩くオリビア
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外出からお戻りになったハミルトン様は、ずいぶんと顔色が悪く見えた。サロンの前を通り過ぎようとしたハミルトン様に、思わず私は声をかける。
「お帰りなさいませ。どちらにお出かけになっていたのですか?」
心配でつい聞いてしまう。特に詮索する気はなかったけれど、ハミルトン様の逆鱗に触れてしまったようだ。
「どこでもいいだろう? 私の行動を詮索するな。ところで、今宵は君の寝室に行くからそのつもりでいるように」
一切感情のこもらないハミルトン様の声が廊下に響く。
「えっ? なんと、おっしゃいました?」
「子供をつくろう。だから、今夜はオリビアの寝室に行く。以上だ」
まるで、業務連絡のようなその言葉に唖然としていると、もう目の前からいなくなっていた。
「エマ、これは喜んでいいの? なぜ、ハミルトン様は急に子供をほしがったのかしら?」
さっさと執務室に向かったハミルトン様の姿が見えなくなると、私はエマのドレスの袖を思わずひっぱる。結婚してからというもの、いつも寝室は別だった。もっと、自然な形でそのような関係になれると思っていたのに、さきほどの発言にはまるで心がこもっていない。
「お嬢様が傷つくようなことは、けっして私たちがさせませんとも! ゾーイ、あなたが開発した魔道具を出してちょうだい。あの周囲の音を遠くから聞き取ることができる魔道具よ。ラナはメイドたちに入浴の準備をするよう指示して」
「あれか。了解! オリビア様の寝室のサイドテーブルに置くよ。ハミルトンがおかしなこと言いやがったら、三人で乗り込もう!」
ゾーイはわくわくした面持ちでにんまりと笑った。早速、小さなきんちゃく袋から羽根ペンをとりだした。いつも持ち歩いている袋は、底が無限に広がる異次元袋だ。遠く離れた別室の音を拾いあげるペン型魔道具は決して怪しまれることはない。
「もっと素晴らしい男性のためにオリビア様の身体を磨きあげたかったのにぃーー。それがとても残念だわぁーー」
ラナは入浴の準備をさせるためにメイドを呼びに行った。私はエマと居室に向かい、ナイトドレスと香油を選ぶ。
「オリビア様の美しさが際立つようなナイトドレスにしましょうね。この淡いブルーはいかがですか?」
エマにうなずくと、やがて私は薔薇の花が浮かぶ浴槽に身を沈めていた。身体のすみずみまで清められ、香油もたっぷり塗られ、薔薇の香りが全身から漂う。
「どこの王国の姫君も、お嬢様の美貌にはかないません」
エマが満面の笑みで微笑み、ラナとゾーイがうなづく。この3人は私が子供の頃から仕えてくれた家族のような存在よ。
☆彡 ★彡
ナイトドレスをまとった私のもとに、ハミルトン様がいらっしゃった。無言で天蓋付きの大きなベッドに押し倒され、いきなり私のナイトドレスの裾を乱暴にめくる。
「お待ちください。ハミルトン様」
「待てないよ、クロエ。私は貴女だけを愛している!」
私が恋い焦がれていた男性は、私をクロエと呼んだのだった。ショックで青ざめた私の頬に一筋の涙が流れた。それと同時に、いきなり扉が開きエマたちが入ってきた。
「旦那様。さきほど調べましたところ、本日は初夜をお迎えするには縁起が悪いお日にちのようです」
エマは私に、そっとガウンを掛けてくれた。
「日にちなんてどうでもいい! パリノ公爵家の当主の私に向かって、君たちは使用人の分際で邪魔をする気か? そんなことをしてみろ、鞭で叩き奴隷市場で売ってやるぞ」
私の心のなかで、なにかがはじけて砕け散った。それはハミルトン様に対する淡い恋心よ。大きな声で騒ぐハミルトン様の頬を、思いっきりひっぱたいたのは私の手だった。
「お帰りなさいませ。どちらにお出かけになっていたのですか?」
心配でつい聞いてしまう。特に詮索する気はなかったけれど、ハミルトン様の逆鱗に触れてしまったようだ。
「どこでもいいだろう? 私の行動を詮索するな。ところで、今宵は君の寝室に行くからそのつもりでいるように」
一切感情のこもらないハミルトン様の声が廊下に響く。
「えっ? なんと、おっしゃいました?」
「子供をつくろう。だから、今夜はオリビアの寝室に行く。以上だ」
まるで、業務連絡のようなその言葉に唖然としていると、もう目の前からいなくなっていた。
「エマ、これは喜んでいいの? なぜ、ハミルトン様は急に子供をほしがったのかしら?」
さっさと執務室に向かったハミルトン様の姿が見えなくなると、私はエマのドレスの袖を思わずひっぱる。結婚してからというもの、いつも寝室は別だった。もっと、自然な形でそのような関係になれると思っていたのに、さきほどの発言にはまるで心がこもっていない。
「お嬢様が傷つくようなことは、けっして私たちがさせませんとも! ゾーイ、あなたが開発した魔道具を出してちょうだい。あの周囲の音を遠くから聞き取ることができる魔道具よ。ラナはメイドたちに入浴の準備をするよう指示して」
「あれか。了解! オリビア様の寝室のサイドテーブルに置くよ。ハミルトンがおかしなこと言いやがったら、三人で乗り込もう!」
ゾーイはわくわくした面持ちでにんまりと笑った。早速、小さなきんちゃく袋から羽根ペンをとりだした。いつも持ち歩いている袋は、底が無限に広がる異次元袋だ。遠く離れた別室の音を拾いあげるペン型魔道具は決して怪しまれることはない。
「もっと素晴らしい男性のためにオリビア様の身体を磨きあげたかったのにぃーー。それがとても残念だわぁーー」
ラナは入浴の準備をさせるためにメイドを呼びに行った。私はエマと居室に向かい、ナイトドレスと香油を選ぶ。
「オリビア様の美しさが際立つようなナイトドレスにしましょうね。この淡いブルーはいかがですか?」
エマにうなずくと、やがて私は薔薇の花が浮かぶ浴槽に身を沈めていた。身体のすみずみまで清められ、香油もたっぷり塗られ、薔薇の香りが全身から漂う。
「どこの王国の姫君も、お嬢様の美貌にはかないません」
エマが満面の笑みで微笑み、ラナとゾーイがうなづく。この3人は私が子供の頃から仕えてくれた家族のような存在よ。
☆彡 ★彡
ナイトドレスをまとった私のもとに、ハミルトン様がいらっしゃった。無言で天蓋付きの大きなベッドに押し倒され、いきなり私のナイトドレスの裾を乱暴にめくる。
「お待ちください。ハミルトン様」
「待てないよ、クロエ。私は貴女だけを愛している!」
私が恋い焦がれていた男性は、私をクロエと呼んだのだった。ショックで青ざめた私の頬に一筋の涙が流れた。それと同時に、いきなり扉が開きエマたちが入ってきた。
「旦那様。さきほど調べましたところ、本日は初夜をお迎えするには縁起が悪いお日にちのようです」
エマは私に、そっとガウンを掛けてくれた。
「日にちなんてどうでもいい! パリノ公爵家の当主の私に向かって、君たちは使用人の分際で邪魔をする気か? そんなことをしてみろ、鞭で叩き奴隷市場で売ってやるぞ」
私の心のなかで、なにかがはじけて砕け散った。それはハミルトン様に対する淡い恋心よ。大きな声で騒ぐハミルトン様の頬を、思いっきりひっぱたいたのは私の手だった。
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