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17 ベンジャミン家が襲われた? (ハミルトン視点)

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 翌日は、霧のような小雨が降る肌寒い日だった。パリノ家のメイドが、いつもオリビアが用意してくれたお茶を私の前に置いた。

「奥様のようには上手には淹れられませんが、お飲みくださいませ。それと、奥様が焼いたクッキーもまだ残っておりますよ。お持ちしましょうか?」

「あぁ、頼む」

 昔から、パリノ公爵家に仕えていたメイドの言葉に私は即答した。オリビアの肖像画を眺めながら、クッキーを噛みしめる。彼女が刺繍をしてくれたハンカチを見つめると、後悔で涙がにじんだ。

 徐々に募るオリビアへの恋慕。自分の身勝手さに、我ながら呆れてしまう。あそこまで失礼なことを言った自分をオリビアが許すわけがないのだ。

 私は冷たい細かな雨の粒子に包まれながら馬車に向かって歩く。オリビアの温かい笑い声の響かない庭園は、太陽を失った楽園のように感じられた。静寂に包まれたその空間で、私の心はますます沈みこんでいった。

 馬車は勢いをつけ、ベンジャミン家へと急ぐ。しかし、会ってもらえるとは限らない。それでも、行かなければならない。
 失った妻が天使だったことを今更気づいた愚かな私を、いっそ罵倒してくれればいいと願いながら・・・・・・


 ☆彡 ★彡


 ベンジャミン家の門は二重構えになっていた。いつもは開放している最初の門が閉められており、ベンジャミン家の門番たちが厳重に警備していた。

「私はハミルトン・パリノ公爵だ。ここを開けてくれ」

「今はダメです。誰もお通しできませんよ。昨夜、侵入者が紛れ込みましてね」

「侵入者? 私はオリビアの夫だ。いったいどんな奴が侵入して来たんだ?」

 私の言葉が終わる前に、スローイングナイフが顔をかすめるように通り過ぎた。

「夫ですってぇ? あれだけのことを、私達のお嬢様にしておいてぇーー。一回、地獄に墜ちるといいですわぁ」

 ピンクの髪を後ろに束ねた女が門前待機室から出てきて、睨みながらこちらに近づいてくる。オリビアの専属侍女でラナという名前だったはずだ。

「今のはわざと外してさしあげたのですよぉ。次はどうしようかなぁー」

「ラナ、そこまでよ。ハミルトン様をオリビアお嬢様に会わせるわけにはいきません。あんなに酷いことを言っておいて、図々しいにもほどがありますよ」

「あぁ、もちろんだ。だが、直接会って謝りたいのだ。魅了の魔法のようなものをかけられていて、正常な判断ができなかった」

 門前待機室から途中で現れ、ラナを制止してくれたエマに熱心に頼む。言い訳がましいが、事実なのだから仕方がない。

「魅了の魔法だと? 禁忌の黒魔法じゃないか! そんなものをかけられるなんてバカだろう?」

 次に門前待機室から現れたゾーイのエプロンドレスには、血のシミらしきものが無数に飛び散っていた。

 (ベンジャミン家でなにが起こっているんだ?)

「エマ、昨夜の侵入者はアンドリュー・プレイデン侯爵の息のかかった者だったよ。やっと吐かせた♪」

 ゾーイは血しぶきまみれの眼鏡を外し、鼻歌を口ずさみながらそれを拭いた。

(まさか、拷問でもして吐かせたのか?)

「ハミルトン様、お嬢様に会わせて差し上げます。こちらへ」

 なぜエマの気が変わったのかわからないが、私は喜んで後に続いた。
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