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24 護衛侍女たちの戦い (俯瞰視点)

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「忍び込む前にこの薬を飲め。じゃないと、私達3人とも寝ちゃうからな」
 
 ゾーイは言いながら、エマとラナに『眠り玉で寝ない液体』を渡した。

「以前の『眠り玉で寝ない液体』とやらは効き過ぎて、三日間も寝られなかったことがありましたが、今回は大丈夫でしょうね?」
 
 エマが液体の匂いを嗅ぎながら、ゾーイに確認する。飲むのをかなりためらっている。

「そうそう、あの時は眠りたいのに寝られなくて、ホントに困ったわよぉーー」

 ラナはなんの迷いもなく一気に飲んだ後に、「すっごく、美味しいぃーー!」と叫んだ。

「ふふっ、かなりうまく改良できただろ? なんと、イチゴ味。効き目は24時間だ!」

 ゾーイは胸をそらすような体勢で自慢した。イチゴ味にできたことが、よほど嬉しかったようだ。ちなみに、イチゴはゾーイの好物だった。

「無駄にすばらしく美味しいですね! ほら、さっさと行きますよ」

 エマはかけ声をかけながら、先頭をきって走り出したのだった。



 門を守っていた兵士達は全て眠り込んでいたから、そのまま通り抜けることができた。中庭には武器を持った騎士たちが50人ほどいた。エマは闘志に燃え、手にした剣を火魔法の力で灼熱の刃へと変えた。敵の騎士たちが集団で勢いよく襲いかかってくる中、エマはひるむことなく果敢に突進していく。

 最初の騎士が勇ましく剣を振りかざすと、エマは剣を一閃させ火花を散らす。炎の刃が相手の剣を軽々と受け流し、炎の精霊が輪を描きながら敵の周りに舞い散った。次の瞬間、敵の騎士は炎に包まれて叫び声をあげる。

 続く敵も次々とエマに立ち向かってくるが、彼女の火魔法の剣は無敵であるかのように敵を次々となぎ倒していった。燃えるような剣舞が夜の中で輝き、その美しさはまるで炎の精霊が踊るようであった。

「あら、ちょっと火加減を間違えて焼けちゃった人がいるみたいですね。でも、だいたい生きていらっしゃいますね? だったら、良しとしましょう」

 エマの言い方は、まるで料理を失敗したコックのような口ぶりだった。

 

 風魔法を操るラナは、腰に掛かるベルトにいくつもの小さなスローイングナイフを装備していた。大勢の敵が迫ってくる中、ラナは落ち着いた表情で手に持ったスローイングナイフを風魔法で包み込み、的確に投げる準備を整えた。

 まず最初の一投。ラナが手元で小さな旋風を起こすと、その力がスローイングナイフに伝わり、矢じりが速く回転しながら風を切り裂いた。見事に敵の首筋に命中し、敵は倒れる。同時に、ラナの手元では次のナイフが風の力によって舞い上がっていた。

「あら、まずいぃぃーー。ひとりやっつけちゃったみたい。私としたことが手加減するのを忘れていたわぁーー」

 続けてラナは高速で迫る敵の群れに向けてナイフを次々と放っていく。彼女の風魔法はナイフを正確に目標に向かわせ、そして風の力でそれらのナイフは一瞬のうちに敵に命中していった。風に乗せられたスローイングナイフは敵の周りを舞い、その美しい軌跡はまるで芸術のようだった。

 ラナの周りは小さな竜巻のような風が渦巻き、彼女の制御する風魔法が敵を一掃していく。数多くのスローイングナイフが空を舞い、倒れる敵の姿が風に揺らめいていた。風魔法とナイフの完璧な連携によって、ラナはその場を縦横無尽に舞い踊り、大勢の敵を圧倒的なスピードと正確さで倒し続けたのだった。

「ちょっと、ナイフの切れ味が良すぎたかもぉーー。でも、だいたい足を怪我させただけだし、致命傷じゃないからいいわよねぇーー」


 ゾーイは植物魔法を操る。手に持った小さな玉には特別な植物から抽出されたエキスが込められていて、涙やくしゃみを引き起こす成分が凝縮されていた。大勢の敵が迫ってくる中、ゾーイは深呼吸をしてその玉をほうり投げた。

 玉が空中で舞い踊り、地面に触れると一瞬で植物魔法の力が発動した。周囲に花が咲き誇り、草木が勢いよく成長し、敵の足元を絡みつかせて足止めする。それだけでなく敵の視界を遮り、彼らを混乱させる植物たちが姿を現した。

 ゾーイ自身も涙がこぼれ、くしゃみが止まらなくなっていた。しかし、それが彼女の計算ずくの策略だった。彼女はくしゃみと涙に特別な意味を持たせていた。玉が地面に触れた瞬間、ゾーイは大きなくしゃみをすると同時に、涙を流した。

 敵は驚きと混乱の中、ゾーイの周りに迫ってくる。そして、ゾーイが涙を流した場所に触れると、玉の成分が相手の鼻や目に触れ、くしゃみを引き起こし、同時に涙を止まらなくさせ視界を奪った。ゾーイは植物たちが生い茂る中、くしゃみと涙を利用して敵を巧みに翻弄し、一人ずつ倒していった。

「うーーん。くしゃみと涙の玉は失敗作だな。自分がくしゃみをして涙を流す理由がわからん。今度から敵だけにくしゃみをさせよう。涙は目が乾きやすいからいいかもしれないぞ」

 ゾーイが倒した騎士たちは植物の蔓で手足を縛られ身動きができなくなっていた。

 

 屋敷内ではアンドリュー・プレイデン侯爵とクロエがサロンで優雅にお茶を飲んでいた。まさかあの数の騎士たちが簡単に倒されるとは思っていなかったのだろう。

「オリビア様を襲わせたのはあなたたちですね?」

 あっという間に屋敷内に侵入しサロンまでやって来たエマが、凍りつくような低音の声で問いただした。

「お前達、プレイデン侯爵家によくも侵入してきたな! 私には王家の血が流れているのだぞ! こんな真似をしてあとで後悔するぞ!」

 アンドリューは膝をガタガタ震わせていた。

「それは四代前の話ですよね? 今の国王陛下はそんなこと気にもとめないでしょうね」

 エマが吐き捨てるように言うと、アンドリューが今度は猫なで声を出した。

「金なら腐るほどある。ダイヤもだ。お前達に好きなだけやろう! あぁ、いい考えだ。お前達をプレイデン侯爵家の傭兵に雇ってやろう。私とクロエを守ってくれ」

「なに寝ぼけたことを言っているのよぉーー? このぼけなすがぁ!」

 ラナはスローイングナイフでアンドリューの頬をさすった。頬の皮膚がほんの少し傷ついて血がにじむ。

「痛い! わぁーー、血が出ている。なんてことだ。死んでしまう、医者を呼べ、包帯を巻け、死ぬのは嫌だぁ」

「そんなかすり傷で死ぬわけないでしょう? うるさいわねぇーー」

 大騒ぎしているアンドリューに、ラナはハンカチを口に詰め黙らせたのだった。
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