（本編完結・番外編不定期更新）愛を教えてくれた人

番外編

19 紬ちゃんの絵画教室

　私が開催したお絵かき教室は、参加費用が画材費用だけで、ほんの40分の短いものだった。床に敷き詰めた大きな画用紙の料金は無料。食べられる絵の具、いわゆる小さな子供が間違って口にしても大丈夫なものを購入してもらうだけで参加できる気軽なものだ。

　それを使って各自好きなものを書く。子供が遊びながら色にふれあう楽しい時間となった。汚れてもいい服を着せられた子供達は、思いっきり大きな画用紙に好きな物を書いていく。指を使ってもいいし、手形をペタペタつける子もいた。

　母親同士は、そんな子供達を見守りながらポツポツと会話をかわす。毎月2回の教室は満員御礼だった。そこには高橋さんの取り巻きの井上さん夫婦もいた。




「その節は本当にすみませんでした」
　井上さん夫妻は私に深く頭を下げたけれど、井上さん本人には特に意地悪された記憶はない。ただ、高橋さんの横にいて戸惑ったような笑顔を浮かべていただけ。

　積極的に意地悪もされていないけれど、かといって助けてくれたわけでもない傍観者だった井上さんは、人が変わったように雰囲気が柔らかくなっている。

「東医院に通わせてもらっているんです。啓吾先生が親身になってくれて、話もよく聞いていただいています。もう変な詐欺に引っかからないようにって」

「あぁ、そうなんですね！　啓吾先生は優しくて話しやすいっでしょう？　私もちょっと前までは、身内だとかえって強がって話せないことがあって悩んだりしたけど･････今は、なにかあると泣きながら飛んでいきますよ」

「ふふっ。そういうところがないと初めてのママ業なんてできませんよね」

「そう、そう」

「それにこうやって、短時間でもママ同士でおしゃべりするだけでも気持ちが明るくなりますね。なにより子供達が楽しそう！」

「子供もママも楽しめるって最高ですね」

　いつの間にか、自然と話ができて笑い合っていた私達。周りには5人ほどのママ達も寄ってきて･･････それは段々と、ひろがりをもったぬくもりのある集団になっていく。

　集団行動もそのなかで会話をすることも苦手だった私は、今は桜の為なら集団のなかでも平気で大声を出して輪の中心にいられるようになった。

　もちろん、いろいろな人がいるから全員が仲良しかっていうと･･････だけれど、ものの考え方が異なる人がいるってことを、昔よりはちょっとだけ客観的に楽しめるようになってきたかな。

　こうやってみんな成長していくんだね。身体は大人だけれど、まだまだ精神的な成長期真っ只中の私なのだった。