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いきなり現れた御曹司
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日本ホテルなんて行ったことがない私はびくびくして中にはいった。
いつもいない編集長がロビーで待っていて、私の担当者の小川さんはいない。
首を傾げていると、背の高い上等なスーツを着た男性が私のほうに向かってやってきた。
「やぁ、君が杏さん?来てくれてありがとう。とにかく一緒に食事をしようか?」
この男性はなんと町長の長男の雅人様だった。
編集長は雅人様に一礼してから私に失礼のないようにと言い含めると帰っていった。
「えっと、なんのご用でしょうか?なぜ私と食事しなければならないのですか?」
「ん?それは君が一番よくわかっている理由だよ。弟を助けてくれてありがとう」
青ざめた私は必死で否定しようとするが、雅人様の前では嘘がつけなかった。
雅人様は洞察力のある有能な男性だから私がへたな嘘をついてもすぐばれてしまうだろうし。
☆
コースのフランス料理なんて食べたことがない私は緊張でナイフとフォークが震えていた。
「貸して?」雅人様は私の皿を受け取ると、お肉を食べやすいように切ってくれた。
片手でウエイターを呼ぶとお箸をもってくるように言う。
「こういうのはお箸で食べるのが一番さ」
雅人様もお肉を全部切ってからお箸で食べだした。
「マナーなんて気にしなくていい。美味しいものを美味しく食べればそれで充分さ」
私は頷くとお肉を噛みしめた。おいしい‥‥ワインもついでくれたから素直に飲んだ。
「なぜ、名乗りでなかった?」
雅人様は優しく聞いてきた。
「私、コミュニケーション障害なんです。人と話すのが苦手で‥‥」
「でも、俺とはちゃんと話せているよね?」
「あ、はい。ほんとですね。なんでだろう?」
「謝礼をもらえるって知らなかったの?100万だよ?君が名乗りでないから偽物が不当な利益を得た。君には受け取る権利があるのに」
「それは知りませんでした。興味もなかったし。私があそこにいたのは偶然ですし、目の前で溺れている人がいれば助けるのは当たり前です。謝礼がほしくて助けたわけじゃないし」
「ふーーん。そうか‥‥弟はその偽物と婚約した。君は俺の弟がそんな嘘つき女にひっかかって気の毒だとは思わないの?」
「そ、それは‥‥その‥‥思いますけれど、あの女性って妹なんです」
「え?どういうことだ?」
雅人様はさくらが私の妹だとまでは知らなかったらしい。私は昨日の会話もすべて雅人様に話した。
「なるほどね!ずいぶん、愉快な妹だな。そのさくらって女は。私は昨日まで海外出張してたからね。君の妹にはまだ会っていないんだ。ヨット事件を海外で耳にして、ちょっと部下に調べさせたら命の恩人が君だってわかった。婚約なんて早すぎるって言ったのに、俺が帰るのも待たないでしやがった!俺たちの母親は新には甘いからなぁ」
「すみません。妹がこんなことをして‥‥だけど、妹は可愛いから新様はそこに惚れたんだと思います。今更、私が助けたと言ったところでなんになりますか?」
「俺は自分勝手な理由で嘘をつくやつは嫌いだ。新がそんな女と結婚して子どもが生まれたらどうなる?俺はうそつきの姪や甥をもつことになるんだぞ!あぁーー虫唾が走る」
雅人様は冗談のようにそう言って笑った。私も笑った。嘘つきの連鎖は確かに嫌だと思う。
私は雅人様と楽しく話せた。しまいには、小学生の頃の嫌な思い出まで話していた。
雅人様は終わったことは忘れなさい、と父親のように慰めてくれた。
私の方が年上のはずなのに‥‥
☆
婚約のお披露目会が大々的に行われるときいたが、私に招待状は届かなかった。
雅人様ともあれから会うことはない。
ラインを教えて欲しいと言われてIDを教えたはずだが、一向に連絡は来なかった。
私はまた平凡な生活の日常に戻っていくんだ。
外出から帰ってきて郵便受けを見ると不在通知書がはいっていた。
それを戸棚の上に無造作に置くと、私はすっかりそのことを忘れてしまった。
いつもいない編集長がロビーで待っていて、私の担当者の小川さんはいない。
首を傾げていると、背の高い上等なスーツを着た男性が私のほうに向かってやってきた。
「やぁ、君が杏さん?来てくれてありがとう。とにかく一緒に食事をしようか?」
この男性はなんと町長の長男の雅人様だった。
編集長は雅人様に一礼してから私に失礼のないようにと言い含めると帰っていった。
「えっと、なんのご用でしょうか?なぜ私と食事しなければならないのですか?」
「ん?それは君が一番よくわかっている理由だよ。弟を助けてくれてありがとう」
青ざめた私は必死で否定しようとするが、雅人様の前では嘘がつけなかった。
雅人様は洞察力のある有能な男性だから私がへたな嘘をついてもすぐばれてしまうだろうし。
☆
コースのフランス料理なんて食べたことがない私は緊張でナイフとフォークが震えていた。
「貸して?」雅人様は私の皿を受け取ると、お肉を食べやすいように切ってくれた。
片手でウエイターを呼ぶとお箸をもってくるように言う。
「こういうのはお箸で食べるのが一番さ」
雅人様もお肉を全部切ってからお箸で食べだした。
「マナーなんて気にしなくていい。美味しいものを美味しく食べればそれで充分さ」
私は頷くとお肉を噛みしめた。おいしい‥‥ワインもついでくれたから素直に飲んだ。
「なぜ、名乗りでなかった?」
雅人様は優しく聞いてきた。
「私、コミュニケーション障害なんです。人と話すのが苦手で‥‥」
「でも、俺とはちゃんと話せているよね?」
「あ、はい。ほんとですね。なんでだろう?」
「謝礼をもらえるって知らなかったの?100万だよ?君が名乗りでないから偽物が不当な利益を得た。君には受け取る権利があるのに」
「それは知りませんでした。興味もなかったし。私があそこにいたのは偶然ですし、目の前で溺れている人がいれば助けるのは当たり前です。謝礼がほしくて助けたわけじゃないし」
「ふーーん。そうか‥‥弟はその偽物と婚約した。君は俺の弟がそんな嘘つき女にひっかかって気の毒だとは思わないの?」
「そ、それは‥‥その‥‥思いますけれど、あの女性って妹なんです」
「え?どういうことだ?」
雅人様はさくらが私の妹だとまでは知らなかったらしい。私は昨日の会話もすべて雅人様に話した。
「なるほどね!ずいぶん、愉快な妹だな。そのさくらって女は。私は昨日まで海外出張してたからね。君の妹にはまだ会っていないんだ。ヨット事件を海外で耳にして、ちょっと部下に調べさせたら命の恩人が君だってわかった。婚約なんて早すぎるって言ったのに、俺が帰るのも待たないでしやがった!俺たちの母親は新には甘いからなぁ」
「すみません。妹がこんなことをして‥‥だけど、妹は可愛いから新様はそこに惚れたんだと思います。今更、私が助けたと言ったところでなんになりますか?」
「俺は自分勝手な理由で嘘をつくやつは嫌いだ。新がそんな女と結婚して子どもが生まれたらどうなる?俺はうそつきの姪や甥をもつことになるんだぞ!あぁーー虫唾が走る」
雅人様は冗談のようにそう言って笑った。私も笑った。嘘つきの連鎖は確かに嫌だと思う。
私は雅人様と楽しく話せた。しまいには、小学生の頃の嫌な思い出まで話していた。
雅人様は終わったことは忘れなさい、と父親のように慰めてくれた。
私の方が年上のはずなのに‥‥
☆
婚約のお披露目会が大々的に行われるときいたが、私に招待状は届かなかった。
雅人様ともあれから会うことはない。
ラインを教えて欲しいと言われてIDを教えたはずだが、一向に連絡は来なかった。
私はまた平凡な生活の日常に戻っていくんだ。
外出から帰ってきて郵便受けを見ると不在通知書がはいっていた。
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