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20 ブロンシュ改心する
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(ブロンシュ視点)
むかつくアリゼめ! 私はあいつのせいで平民になったんだ。石をぶつけてあの綺麗な顔に傷がつけば、私の命などどうでも良いぐらい憎んでいた。
なのに石を投げつる直前で騎士達に取り押さえられ、羽交い締めにされて地面にたたきつけられる。
(悔しいぃいいーー。絶対に、あいつを許さないわ)
連れて行かれたのは、シアニア国のダイヤモンド鉱山の麓。その辺りでは唯一の定食屋に、住み込みで働くように言われた。
ここは罪人も集まる地帯だから、腕に烙印があっても誰も気にしない。鉱山で働く男達は、週に一回はここに食事に来る。彼らにとって、麓の定食屋に来ることはたまに許される贅沢のようだった。
「炭坑夫宿舎の食堂はまずくてさ、量重視なんだよ。ここの食事は肉の質も良くて美味しいからね」
そう言って嬉しそうに肉を頬張るリッキーという男性は、罪人でもないのに鉱山で働いていた。
「妹が病気でね。その治療費がいるのさ。あともう少し働けばなんとかなる」
それに必要な金額を聞き、私は唖然とした。貴族の頃、気軽に新調していたドレスの金額とほぼ同じだったのだ。
(あの頃の私はなんと無駄なお金を使い、贅沢をしていたか。それもお父様が、アリゼの父親を殺そうとして得たお金だったなんて。実際、アリゼの母親は私のお父様が殺したらしい。それって・・・・・・)
当時は気にもならなかったことが、段々と気になりだした。アリゼはなにも悪いことをしていないのに、私のお父様が・・・・・・そう思うと逆に私が恨まれる立場なことに気がつく。
(私は愚か者だったのかも・・・・・・?」
調理場で汗水垂らして働くことは、私の内面を少しづつ変えていった。お金の価値も人の命の重さも、ここにいると嫌という程味わえた。五体満足だった炭坑夫の片手がなくなっていたりは日常茶飯事。ぱたりと姿が見えないと思えば、実は亡くなっていたということも珍しくないことだ。
平民にとっては大金だけれど、貴族にとってはドレス一枚のお金。それを稼ぐのに命までかける。それだけお金を稼ぐのは厳しいことなのだった。
数年後、私はリッキーと一緒になり定食屋を夫婦で手伝う。店主が歳をとり私達がその店を引き継ぎ、今では料理の仕込みも慣れたもんだ。
「いらっしゃい。今日はなんにする? お勧めは、イノシシ肉の唐揚げだよ」
「おや? 君は誰かに似ているね? ブロンシュという貴族の娘がいたなぁ。平民落ちしたって噂にはなっていたが、もしかしてこんなところに?」
「あっははは。まさか、そんなわけがないでしょう? あたしは産まれたときから平民ですよ。定食屋のおかみさん、名前なんてありませんよ」
あたしはもうブロンシュではない。昔のことは忘れたよ。ただ、店の裏庭には木を3本植えた。2本はお父様とお母様、少し離れたところにもう1本植えたのは、アリゼのお母様のつもりだ。樹木葬の真似事だけれど、そこに毎朝お水をあげて祈りを捧げた。
「ついでにアリゼ様にも感謝を。あの時のご配慮でここにこうしていられます。シアニア国王太子妃殿下に神のご加護がありますように」
口にだして言った瞬間、少しだけまわりの景色が輝いて見えた。人に感謝をすることを、初めて口に出せたかもしれない。
それからまもなく不思議なことが起こった。私とリッキーは王都に連れて行かれ、市井の繁華街にこじんまりとした店を与えられたのだ。1階が定食屋で2階が住居になっている。
「王太子妃殿下の温情である。3番目のお子様を懐妊されためでたいことでもあるので、お前にも幸せのお裾分けだとおっしゃっていた。これからも仕事に励むように!」
王家の騎士様が私達夫婦にそう言った。
私は膝をついて、もちろん感謝する。王都に住まいを持ち、定食屋を構えるなんて平民にとっては夢のようなことだったから。
心を入れ替えて頑張れば、まだまだ人生ってやりなおせるんだ。メニューも試行錯誤し、リッキーと相談しあって料理を作るのは楽しい。貴族じゃなくても贅沢をしなくても、やるべきことがはっきりしている人生は充実していた。
それからまた何年か経ち、国王陛下が崩御されアドリアン王太子殿下が王になった。新しい国王陛下と王妃殿下は国民の熱烈な支持を得た。
「王妃殿下万歳! 神のご加護がありますように!」
いつものように呟いてから、肉を刻んでスープを煮込む。今日のランチ特別メニューはなんにするかねぇ。
おまけ
「ブロンシュは意外にも料理の才能があったんだな」
「うん、びっくりだな。まぁ、アリゼ様のお母様の樹木葬の件は、アドリアン様に報告して良かったな」
「あぁ、どんなことも報告しろ、とおっしゃっていたからな。あれのご褒美があの定食屋だろう? アドリアン様も優しいよな?」
「そうそう。基本、俺らの主君は優しいし王妃殿下ぞっこんだからなぁ。あっははは」
スティール侯爵家の機敏な動きの者達(王家の影)の会話は、いつも行列のできる定食屋で密やかな声でなされるのだった。
もちろんこの者達の食事は・・・・・・
「さてっと、見張り休憩時間にはいりまぁす。今日はなに食うかなぁーー」
王家の影の3人はブロンシュの定食屋に入りいつものように声をかける。
「おかみさぁーーん。日替わり定食みっつね!」
「あいよ、毎度ありがとうございます!!」
おしまい
むかつくアリゼめ! 私はあいつのせいで平民になったんだ。石をぶつけてあの綺麗な顔に傷がつけば、私の命などどうでも良いぐらい憎んでいた。
なのに石を投げつる直前で騎士達に取り押さえられ、羽交い締めにされて地面にたたきつけられる。
(悔しいぃいいーー。絶対に、あいつを許さないわ)
連れて行かれたのは、シアニア国のダイヤモンド鉱山の麓。その辺りでは唯一の定食屋に、住み込みで働くように言われた。
ここは罪人も集まる地帯だから、腕に烙印があっても誰も気にしない。鉱山で働く男達は、週に一回はここに食事に来る。彼らにとって、麓の定食屋に来ることはたまに許される贅沢のようだった。
「炭坑夫宿舎の食堂はまずくてさ、量重視なんだよ。ここの食事は肉の質も良くて美味しいからね」
そう言って嬉しそうに肉を頬張るリッキーという男性は、罪人でもないのに鉱山で働いていた。
「妹が病気でね。その治療費がいるのさ。あともう少し働けばなんとかなる」
それに必要な金額を聞き、私は唖然とした。貴族の頃、気軽に新調していたドレスの金額とほぼ同じだったのだ。
(あの頃の私はなんと無駄なお金を使い、贅沢をしていたか。それもお父様が、アリゼの父親を殺そうとして得たお金だったなんて。実際、アリゼの母親は私のお父様が殺したらしい。それって・・・・・・)
当時は気にもならなかったことが、段々と気になりだした。アリゼはなにも悪いことをしていないのに、私のお父様が・・・・・・そう思うと逆に私が恨まれる立場なことに気がつく。
(私は愚か者だったのかも・・・・・・?」
調理場で汗水垂らして働くことは、私の内面を少しづつ変えていった。お金の価値も人の命の重さも、ここにいると嫌という程味わえた。五体満足だった炭坑夫の片手がなくなっていたりは日常茶飯事。ぱたりと姿が見えないと思えば、実は亡くなっていたということも珍しくないことだ。
平民にとっては大金だけれど、貴族にとってはドレス一枚のお金。それを稼ぐのに命までかける。それだけお金を稼ぐのは厳しいことなのだった。
数年後、私はリッキーと一緒になり定食屋を夫婦で手伝う。店主が歳をとり私達がその店を引き継ぎ、今では料理の仕込みも慣れたもんだ。
「いらっしゃい。今日はなんにする? お勧めは、イノシシ肉の唐揚げだよ」
「おや? 君は誰かに似ているね? ブロンシュという貴族の娘がいたなぁ。平民落ちしたって噂にはなっていたが、もしかしてこんなところに?」
「あっははは。まさか、そんなわけがないでしょう? あたしは産まれたときから平民ですよ。定食屋のおかみさん、名前なんてありませんよ」
あたしはもうブロンシュではない。昔のことは忘れたよ。ただ、店の裏庭には木を3本植えた。2本はお父様とお母様、少し離れたところにもう1本植えたのは、アリゼのお母様のつもりだ。樹木葬の真似事だけれど、そこに毎朝お水をあげて祈りを捧げた。
「ついでにアリゼ様にも感謝を。あの時のご配慮でここにこうしていられます。シアニア国王太子妃殿下に神のご加護がありますように」
口にだして言った瞬間、少しだけまわりの景色が輝いて見えた。人に感謝をすることを、初めて口に出せたかもしれない。
それからまもなく不思議なことが起こった。私とリッキーは王都に連れて行かれ、市井の繁華街にこじんまりとした店を与えられたのだ。1階が定食屋で2階が住居になっている。
「王太子妃殿下の温情である。3番目のお子様を懐妊されためでたいことでもあるので、お前にも幸せのお裾分けだとおっしゃっていた。これからも仕事に励むように!」
王家の騎士様が私達夫婦にそう言った。
私は膝をついて、もちろん感謝する。王都に住まいを持ち、定食屋を構えるなんて平民にとっては夢のようなことだったから。
心を入れ替えて頑張れば、まだまだ人生ってやりなおせるんだ。メニューも試行錯誤し、リッキーと相談しあって料理を作るのは楽しい。貴族じゃなくても贅沢をしなくても、やるべきことがはっきりしている人生は充実していた。
それからまた何年か経ち、国王陛下が崩御されアドリアン王太子殿下が王になった。新しい国王陛下と王妃殿下は国民の熱烈な支持を得た。
「王妃殿下万歳! 神のご加護がありますように!」
いつものように呟いてから、肉を刻んでスープを煮込む。今日のランチ特別メニューはなんにするかねぇ。
おまけ
「ブロンシュは意外にも料理の才能があったんだな」
「うん、びっくりだな。まぁ、アリゼ様のお母様の樹木葬の件は、アドリアン様に報告して良かったな」
「あぁ、どんなことも報告しろ、とおっしゃっていたからな。あれのご褒美があの定食屋だろう? アドリアン様も優しいよな?」
「そうそう。基本、俺らの主君は優しいし王妃殿下ぞっこんだからなぁ。あっははは」
スティール侯爵家の機敏な動きの者達(王家の影)の会話は、いつも行列のできる定食屋で密やかな声でなされるのだった。
もちろんこの者達の食事は・・・・・・
「さてっと、見張り休憩時間にはいりまぁす。今日はなに食うかなぁーー」
王家の影の3人はブロンシュの定食屋に入りいつものように声をかける。
「おかみさぁーーん。日替わり定食みっつね!」
「あいよ、毎度ありがとうございます!!」
おしまい
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./) /)
|ơ◡ơ)ฅ ✨感想ありがとうございます~✨🎂✨
*'🎀'*
'╔⋆༻ི࿐࿔🌹༻ི࿐࿔⋆╗
🍷🕊🌫 🕊🌫 🕊🌫
'╚ℴஐ˘͈˘͈✽.:✨🎠✨:.✽˘͈˘͈ஐℴ╝
.⋆*+♱༊༅✧‧˚༅🐎༊༅✧‧˚༅♱+*⋆
|ω・`)チラッ
お読みいただいてありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)♡⤴︎⤴︎嬉しいデス💃🏼
完結おめでとうございます
アリゼが幸せになり、
サラも天国で喜んでいるでしょう。
ブロンシュも改心し、
めでたしめでたし(^ᵕ^)
素敵なお話をありがとうございました☆
┏━┓
┃お┃💓
┗━┫
∧ ∧∩
(。・∀・。)彡
┏━┳⊂彡
Ⅰは┃💛
┗━┛
┏━┓
┃よⅠ💜
┗━┫
∧ ∧∩
(。・∀・。)彡
┏━┳⊂彡
┃💖┃💕
┗━┛感想ありがとうございます🙇🏻♀️🍧
いいなぁ、アドリアン皇太子。
アリゼもときめく?
あとは……
仕返しですよね?
(๑•̀ㅂ•́)و✧
┏━┓
┃お┃💓
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(。・∀・。)彡
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Ⅰは┃💛
┗━┛
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┃よⅠ💜
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(。・∀・。)彡
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┃💖┃💕
┗━┛感想ありがとうございます🙇🏻♀️🍧