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19 アリゼの幸せ
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※今回から、アドリアン王太子殿下はアドリアン様に統一して表記させていただきます。
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「この女をシアニア国に連れて行き死刑にせよ。わたしの妃に石を投げようとする等、万死に値する」
アドリアン様が怒りに顔を歪ませた。
私は彼にそっと耳打ちする。
「これから私はアドリアン様の妻になり、それは私の人生で一番喜ばしい瞬間となりますわ。そんな時に血なまぐさいことはしないでください。この女は従姉妹のブロンシュです。どうやって今まで暮らしていたのかもわかりませんが、彼女には一度だけチャンスをあげてください」
「アリゼの言いたいことはわかるよ。でも、彼女は平民落ちで済ませたのにも拘わらず、このようなことをしたのだよ。本来は死刑でも奴隷落ちでもおかしくなかった。性根は変わらないだろう」
「いいえ、一度だけチャンスを与えてくださいませ。ブロンシュ、あなたの不幸はゴドフロア叔父様を父親として産まれたことです。今回だけはあなたを許します。さぁ、これを持って立ち去りなさい」
お金を渡そうとする私を、アドリアン様が止めた。
「本当にチャンスを与えるのならお金ではいけない。この者にあった場所に連れて行かせよう。大丈夫、わたしがちゃんと手配する」
私はアドリアン王太子殿下の言葉に頷いた。
お父様も結婚式に出席するので、別の馬車に乗り込みシアニア国に移動した。シアニア国に着くと、かつて仲良くしていたアドリアン王太子殿下の妹姫メレーヌ様がいらっしゃった。
「まぁ、ナハティガル王国の王太子妃になられたメレーヌ様にお会いできて光栄ですわ。その節は王女殿下とは知らず、失礼があったと思いますがお許しくださいませ」
「子供の頃のことですもの。なにも気にしていません。まぁ、シドニー先生、お懐かしいですわ。シドニー先生がレオナルド画伯だなんて素敵! このような天才に絵を教われたことは、私の人生でも実りある経験のひとつですわ。それにしてもお兄様の執着心がすっごいわね。アリゼ様に一目惚れだったのですよ。あれだけ一途だとアリゼ様も苦労しますわよ」
「え? 一目惚れ?」
私は赤面し隣にいたアドリアン王太子殿下は、メレーヌ様にからかうような眼差しを向ける。
「メレーヌの夫君のサミルラサ王太子殿下といい勝負かもな。あの方はエレーヌが産まれた時から、番だと騒いでいただろう?」
ナハティガル王国は獣人の国なのだ。番は産まれた時から分かるというけれど、とてもロマンチックだと思う。
「まぁ、素敵ですね。ではきっとメレーヌ様はとても大事にされて・・・・・・」
「メレーヌ、どこだい? わたしのメレーヌ!」
王宮中に響くような声が辺りに響き、姿を現したのは屈強な体つきの男性だった。黒髪に黒目の彼はメレーヌ様を見つけると蕩けるような笑顔でやって来て、私やお父様、アドリアン様のことは目に入らないらしい。メレーヌ様を抱きかかえ、愛の言葉をささやくのに必死だった。
「ちょ、ちょっと。お兄様達の前ですわよ。恥ずかしいではありませんか! んもぉーー、しばらく豹になっていなさい」
しゅんとした表情になり、私とお父様やアドリアン様に始めて気づいたように挨拶をし、瞬く間に黒豹に変身すると床に座りメレーヌ様に喉を鳴らす。
「まぁ、メレーヌ様のほうが遙かに溺愛されているようですわね? 微笑ましいことですわ」
「ふふふ。わたしの溺愛ぶりのほうが多分勝っているさ」
アドリアン様も私を抱き上げて口づけた。お父様がゴホンと空咳をして、アドリアン様は慌てて下に私をおろす。
「アドリアン様。まだ婚姻前ですから、父親のわたしの前で口づけをやめていただきたい」
お父様に叱られてアドリアン様は申し訳なさそうに謝罪した。
「うふふ。お父様ったら、ヤキモチですか? 私はアドリアン様の妃になっても、お父様の娘であることに変わりはありませんわ」
私とアドリアン様は結婚し、獣人達にも呆れられるぐらいの熱々ぶりを披露するのだった。娘サラが産まれるとお父様はすっかりシアニア国に居着いてしまい、シアニア国でも爵位を賜りサラの側を離れない。
「お母様の名前をいただいたからかしら。年々、サラはお母様に似てくるわ。きっとお母様は私の娘として生まれ変わり、また家族になれたのね」
私はアドリアン様の胸にもたれながらつぶやく。
「そうだね。きっとサラのなかに、アリゼのお母様は生きているよ。だって受け継がれた血があるもの。その血はアリゼにも流れている。だから、アリゼのお母様はこの世から全くいなくなったわけではない」
あぁ、そう思えば私の心も少しは救われる。私やサラのなかでお母様は生きているのだ。
ここは王宮の庭園である。サラは子犬を追いかけてはしゃぎ、お父様はその様子の絵を描き、国王陛下はその絵を惚れ惚れと見つめる。私と王妃殿下は四阿で、これから産まれる子供についての楽しい話題をしていた。私のお腹には2番目の子が宿っているのだ。
アドリアン様はスティール侯爵とサラの後をゆっくりと歩き、時折サラがアドリアン様に抱きつき、子犬はスティール侯爵にもじゃれついて・・・・・・ここでは皆が幸せな気持ちになっている。
私の頬を撫でるそよ風は、サラの頬もそっと撫でた。柔らかな陽射しは満遍なく私達を照らし、空は澄み渡りひとつの雲もない。
(お母様。私は今、とても幸せよ)
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次回、最終回です。ブロンシュの改心になりますよーー。
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アドリアン様が怒りに顔を歪ませた。
私は彼にそっと耳打ちする。
「これから私はアドリアン様の妻になり、それは私の人生で一番喜ばしい瞬間となりますわ。そんな時に血なまぐさいことはしないでください。この女は従姉妹のブロンシュです。どうやって今まで暮らしていたのかもわかりませんが、彼女には一度だけチャンスをあげてください」
「アリゼの言いたいことはわかるよ。でも、彼女は平民落ちで済ませたのにも拘わらず、このようなことをしたのだよ。本来は死刑でも奴隷落ちでもおかしくなかった。性根は変わらないだろう」
「いいえ、一度だけチャンスを与えてくださいませ。ブロンシュ、あなたの不幸はゴドフロア叔父様を父親として産まれたことです。今回だけはあなたを許します。さぁ、これを持って立ち去りなさい」
お金を渡そうとする私を、アドリアン様が止めた。
「本当にチャンスを与えるのならお金ではいけない。この者にあった場所に連れて行かせよう。大丈夫、わたしがちゃんと手配する」
私はアドリアン王太子殿下の言葉に頷いた。
お父様も結婚式に出席するので、別の馬車に乗り込みシアニア国に移動した。シアニア国に着くと、かつて仲良くしていたアドリアン王太子殿下の妹姫メレーヌ様がいらっしゃった。
「まぁ、ナハティガル王国の王太子妃になられたメレーヌ様にお会いできて光栄ですわ。その節は王女殿下とは知らず、失礼があったと思いますがお許しくださいませ」
「子供の頃のことですもの。なにも気にしていません。まぁ、シドニー先生、お懐かしいですわ。シドニー先生がレオナルド画伯だなんて素敵! このような天才に絵を教われたことは、私の人生でも実りある経験のひとつですわ。それにしてもお兄様の執着心がすっごいわね。アリゼ様に一目惚れだったのですよ。あれだけ一途だとアリゼ様も苦労しますわよ」
「え? 一目惚れ?」
私は赤面し隣にいたアドリアン王太子殿下は、メレーヌ様にからかうような眼差しを向ける。
「メレーヌの夫君のサミルラサ王太子殿下といい勝負かもな。あの方はエレーヌが産まれた時から、番だと騒いでいただろう?」
ナハティガル王国は獣人の国なのだ。番は産まれた時から分かるというけれど、とてもロマンチックだと思う。
「まぁ、素敵ですね。ではきっとメレーヌ様はとても大事にされて・・・・・・」
「メレーヌ、どこだい? わたしのメレーヌ!」
王宮中に響くような声が辺りに響き、姿を現したのは屈強な体つきの男性だった。黒髪に黒目の彼はメレーヌ様を見つけると蕩けるような笑顔でやって来て、私やお父様、アドリアン様のことは目に入らないらしい。メレーヌ様を抱きかかえ、愛の言葉をささやくのに必死だった。
「ちょ、ちょっと。お兄様達の前ですわよ。恥ずかしいではありませんか! んもぉーー、しばらく豹になっていなさい」
しゅんとした表情になり、私とお父様やアドリアン様に始めて気づいたように挨拶をし、瞬く間に黒豹に変身すると床に座りメレーヌ様に喉を鳴らす。
「まぁ、メレーヌ様のほうが遙かに溺愛されているようですわね? 微笑ましいことですわ」
「ふふふ。わたしの溺愛ぶりのほうが多分勝っているさ」
アドリアン様も私を抱き上げて口づけた。お父様がゴホンと空咳をして、アドリアン様は慌てて下に私をおろす。
「アドリアン様。まだ婚姻前ですから、父親のわたしの前で口づけをやめていただきたい」
お父様に叱られてアドリアン様は申し訳なさそうに謝罪した。
「うふふ。お父様ったら、ヤキモチですか? 私はアドリアン様の妃になっても、お父様の娘であることに変わりはありませんわ」
私とアドリアン様は結婚し、獣人達にも呆れられるぐらいの熱々ぶりを披露するのだった。娘サラが産まれるとお父様はすっかりシアニア国に居着いてしまい、シアニア国でも爵位を賜りサラの側を離れない。
「お母様の名前をいただいたからかしら。年々、サラはお母様に似てくるわ。きっとお母様は私の娘として生まれ変わり、また家族になれたのね」
私はアドリアン様の胸にもたれながらつぶやく。
「そうだね。きっとサラのなかに、アリゼのお母様は生きているよ。だって受け継がれた血があるもの。その血はアリゼにも流れている。だから、アリゼのお母様はこの世から全くいなくなったわけではない」
あぁ、そう思えば私の心も少しは救われる。私やサラのなかでお母様は生きているのだ。
ここは王宮の庭園である。サラは子犬を追いかけてはしゃぎ、お父様はその様子の絵を描き、国王陛下はその絵を惚れ惚れと見つめる。私と王妃殿下は四阿で、これから産まれる子供についての楽しい話題をしていた。私のお腹には2番目の子が宿っているのだ。
アドリアン様はスティール侯爵とサラの後をゆっくりと歩き、時折サラがアドリアン様に抱きつき、子犬はスティール侯爵にもじゃれついて・・・・・・ここでは皆が幸せな気持ちになっている。
私の頬を撫でるそよ風は、サラの頬もそっと撫でた。柔らかな陽射しは満遍なく私達を照らし、空は澄み渡りひとつの雲もない。
(お母様。私は今、とても幸せよ)
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次回、最終回です。ブロンシュの改心になりますよーー。
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