3 / 12
3 アシュリー・バラノ侯爵side
しおりを挟む
アシュリー・バラノ侯爵視点
ーーバラノ侯爵邸にてーー
「ルーカスはどこにいる? なぜ夕食の席にいないんだ?」
私は眉間に皺を寄せて執事に尋ねた。
「それが朝の10時からお出かけになり帰って来ていらっしゃいません」
「いったいどこに出かけたのだ? 朝から出かけて今まで帰ってこなかったのならば、家庭教師が来るのを知っていてサボったということか! 全くこれで何回目だ? どうしてこうも愚兄と同じなんだ!」
私は困惑しながらも声を荒げたのだった。
私の二つ上の兄は怠け者で約束を守れない男だった。何に対しても真面目に取り組めないが女性にだけは手が早かった。兄が18の時にメイドに産ませたのがルーカスだ。両親を早くに亡くした私は兄に面倒を見てもらうというよりは私が兄の面倒を見るというかんじだった。
(兄上の尻拭いばかりだな・・・・・・ルーカスには頭が痛いよ)
私は先日甥ルーカスと交わした会話を思い浮かべる。
「バラノ侯爵家は夫人を迎えることになる。お前もバラノ侯爵夫人になる女性には失礼のないようにしなさい」
「は? なんで俺に黙ってそんなことをするんですか? 勝手に決められては困りますよ」
「なんでお前に言わなければならない? これは決定事項だ」
「横暴ですね! 話にならない。俺はそんなことは認めない」
「先ほども言ったがルーカスの気持ちなどは問題ではない。これはバラノ侯爵家の問題だ」
このようなやり取りを改めて思い浮かべて首を捻った。
(なんであいつは私の縁談にそれほど抵抗したんだろう?)
私がメイドを妊娠させた兄を罵り責任を取るように言った途端、兄は「すべてが面倒だから俺は出て行く。もともと侯爵になんかなりたいわけじゃないんだ」と言って無責任にも屋敷から出て行ってしまった。それからは行方知れずでなんの音沙汰もなく、通常は長子が継ぐことになる爵位を私が継ぐことを国王陛下がお決めになったのだった。
それからしばらくして母親のメイドが病気で亡くなり私がルーカスを育てるしかなかった。ルーカスには真っ直ぐに育ってほしくて、マイナスな情報は与えないようにしていた。
私の兄、つまりルーカスの父親がそのように無責任に自分から出て行ったことも、ルーカスがメイドとの子供だということも本人の耳には入らないようにしてきたのだ。そうして私はルーカスを真っ直ぐな良い子に育つようにと気を配っていたつもりだった。
優秀な家庭教師をつけ勉強しやすい環境を整え、剣術などは私が教えた。侍女長も執事もルーカスを赤ちゃんの頃からずいぶん親身になって世話をしてくれたものだ。
ところが最近のルーカスはどうだ? つい三日前もその言動を注意した侍女長に「使用人の分際で俺に意見するな!」とほざいていたのだ。
それを言うなら、「ルーカスお前はただの居候だけどな」と怒鳴りたい気持ちを必死に我慢した私だった。
それにしてもいったいどこに行ったのだ?・・・・・・私はまさかこの時、ルーカスが精神病院に収容されているなど思いもしないのだった。
ーーバラノ侯爵邸にてーー
「ルーカスはどこにいる? なぜ夕食の席にいないんだ?」
私は眉間に皺を寄せて執事に尋ねた。
「それが朝の10時からお出かけになり帰って来ていらっしゃいません」
「いったいどこに出かけたのだ? 朝から出かけて今まで帰ってこなかったのならば、家庭教師が来るのを知っていてサボったということか! 全くこれで何回目だ? どうしてこうも愚兄と同じなんだ!」
私は困惑しながらも声を荒げたのだった。
私の二つ上の兄は怠け者で約束を守れない男だった。何に対しても真面目に取り組めないが女性にだけは手が早かった。兄が18の時にメイドに産ませたのがルーカスだ。両親を早くに亡くした私は兄に面倒を見てもらうというよりは私が兄の面倒を見るというかんじだった。
(兄上の尻拭いばかりだな・・・・・・ルーカスには頭が痛いよ)
私は先日甥ルーカスと交わした会話を思い浮かべる。
「バラノ侯爵家は夫人を迎えることになる。お前もバラノ侯爵夫人になる女性には失礼のないようにしなさい」
「は? なんで俺に黙ってそんなことをするんですか? 勝手に決められては困りますよ」
「なんでお前に言わなければならない? これは決定事項だ」
「横暴ですね! 話にならない。俺はそんなことは認めない」
「先ほども言ったがルーカスの気持ちなどは問題ではない。これはバラノ侯爵家の問題だ」
このようなやり取りを改めて思い浮かべて首を捻った。
(なんであいつは私の縁談にそれほど抵抗したんだろう?)
私がメイドを妊娠させた兄を罵り責任を取るように言った途端、兄は「すべてが面倒だから俺は出て行く。もともと侯爵になんかなりたいわけじゃないんだ」と言って無責任にも屋敷から出て行ってしまった。それからは行方知れずでなんの音沙汰もなく、通常は長子が継ぐことになる爵位を私が継ぐことを国王陛下がお決めになったのだった。
それからしばらくして母親のメイドが病気で亡くなり私がルーカスを育てるしかなかった。ルーカスには真っ直ぐに育ってほしくて、マイナスな情報は与えないようにしていた。
私の兄、つまりルーカスの父親がそのように無責任に自分から出て行ったことも、ルーカスがメイドとの子供だということも本人の耳には入らないようにしてきたのだ。そうして私はルーカスを真っ直ぐな良い子に育つようにと気を配っていたつもりだった。
優秀な家庭教師をつけ勉強しやすい環境を整え、剣術などは私が教えた。侍女長も執事もルーカスを赤ちゃんの頃からずいぶん親身になって世話をしてくれたものだ。
ところが最近のルーカスはどうだ? つい三日前もその言動を注意した侍女長に「使用人の分際で俺に意見するな!」とほざいていたのだ。
それを言うなら、「ルーカスお前はただの居候だけどな」と怒鳴りたい気持ちを必死に我慢した私だった。
それにしてもいったいどこに行ったのだ?・・・・・・私はまさかこの時、ルーカスが精神病院に収容されているなど思いもしないのだった。
65
あなたにおすすめの小説
母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします
珠宮さくら
恋愛
オデット・エティエンヌは、色んな人たちから兄を羨ましがられ、そんな兄に国で一番の美人の婚約者ができて、更に凄い注目を浴びる2人にドン引きしていた。
だが、もっとドン引きしたのは、実の兄のことだった。外ではとても優秀な子息で将来を有望視されているイケメンだが、家の中では母が何から何までしていて、ダメ男になっていたのだ。
オデットは、母が食あたりをした時に代わりをすることになって、その酷さを知ることになったが、信じられないくらいダメさだった。
そんなところを直す気さえあればよかったのだが……。
【完結】私の妹を皆溺愛するけど、え? そんなに可愛いかしら?
かのん
恋愛
わぁい!ホットランキング50位だぁ(●´∀`●)ありがとうごさいます!
私の妹は皆に溺愛される。そして私の物を全て奪っていく小悪魔だ。けれど私はいつもそんな妹を見つめながら思うのだ。
妹。そんなに可愛い?えぇ?本当に?
ゆるふわ設定です。それでもいいよ♪という優しい方は頭空っぽにしてお読みください。
全13話完結で、3月18日より毎日更新していきます。少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
辺境伯令嬢が婚約破棄されたので、乳兄妹の守護騎士が激怒した。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
王太子の婚約者で辺境伯令嬢のキャロラインは王都の屋敷から王宮に呼び出された。王太子との大切な結婚の話だと言われたら、呼び出しに応じないわけにはいかなかった。
だがそこには、王太子の側に侍るトライオン伯爵家のエミリアがいた。
妹の様子が、突然おかしくなりました
柚木ゆず
恋愛
「お姉様っ、奪うなんて言ってごめんなさいっ! あれは撤回しますっ! ジョシュア様に相応しいのはやっぱりお姉様だったわっっ!!」
私の婚約者であるランザルス伯爵家のジョシュア様を好きになり、奪い取ると宣言していた妹のロレッタ。そんなロレッタはある日突然こう言い出し、これからは私を応援するとも言い出したのでした。
ロレッタはお父様とお母様にお願いをして、私を軟禁してまで奪おうとしていたのに……。何があったのでしょうか……?
※9月7日 タイトルの一部とあらすじの一部を変更させていただきました。
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる